労務とは?労務管理の意味と人事・総務・経理との違い、担当業務一覧を解説

労務とは?労務管理の意味と人事・総務・経理との違い、担当業務一覧を解説

労務更新日:2026-05-01

「急に労務も担当することになったが、何から手をつければいいかわからない」。そう感じている方に向けて、労務の定義から業務の全体像、人事・総務・経理との違い、担当者として押さえるべきポイント、そして一人では限界を感じたときの選択肢まで、順を追って整理します。

労務とは

労務とは、従業員の労働に関する事務・手続きの総称です。給与計算、勤怠管理、社会保険の加入・喪失手続き、入退社対応など、日々・月次・年次で発生する実務を指します。

労務管理とは、それらの実務を通じて、法令を遵守しながら従業員が安心して働ける環境を維持する管理活動の全体を指します。

指すもの

具体例

労務

個々の実務・手続き

給与計算、社会保険手続き、勤怠集計

労務管理

実務を統制する管理活動全体

法令対応の仕組みづくり、就業規則の整備・運用

この2つは混同されがちですが、「労務をやる人(担当者)」と「労務管理をする人(管理職・経営者)」は役割が異なります。記事内では文脈に応じて使い分けます。

労務と人事・総務・経理の違い

労務と人事・総務・経理の違い

「どの部署がどこまでやるのか」は、企業規模や組織設計によって異なります。ただし、各部門の本来の役割は以下のとおり明確に分かれています。

部門

主な担当領域

業務の性格

労務

従業員の「労働条件・手続き」

法令に基づく事務処理・環境整備

人事

従業員の「個人・キャリア」

採用・評価・育成など戦略的人材マネジメント

総務

会社の「運営全般」

備品・施設管理、庶務、イベント運営など

経理

会社の「お金」

記帳・決算・資金繰り・税務対応

労務と人事の違いを具体的に言うと、「採用活動・内定通知は人事、採用した社員の入社書類・社会保険加入手続きは労務」となります。同じ「ヒトに関わる仕事」でも、入り口から関わるのが人事、入社後の法的な手続きを担うのが労務です。

関連記事:労務と人事の違い|労務担当者の役割と求められる能力とは

労務と総務の違いは専門性の深さです。総務は幅広い庶務を担いますが、労務は労働法令の知識が前提となる専門業務です。中小企業では総務が労務を兼任するケースも多く、その場合は法令対応の漏れが生じやすくなります。

労務と経理の重複領域としては、給与計算・年末調整・住民税処理などがあります。どちらが担うかは会社の方針次第ですが、社会保険料の計算・納付は労務、所得税の申告・納付は経理という分担が一般的です。

関連記事:労務費とは?人件費との違い・内訳・計算方法を業種別にわかりやすく解説

労務担当者の全業務一覧

労務担当者の全業務一覧

労務の業務は発生タイミングで5つに分類できます。

関連記事:労務の年間スケジュール|給与計算や年末調整、社会保険料がわかる

毎月発生する業務

業務

内容

勤怠管理

出退勤・残業・有給取得の記録と確認。残業時間の法令上限チェックも含む

給与計算

基本給+各種手当の支給額算出、社会保険料・所得税・住民税の控除、手取り額の確定

給与明細の発行

書面または電子での交付(電子化には事前同意が必要)

住民税の特別徴収納付

毎月10日までに各市区町村へ納付

関連記事:給与計算の手順をわかりやすく解説!計算の注意点やよくあるミスとは?

年1回発生する業務

業務

時期

内容

年末調整

11月〜12月

従業員の所得税過不足を精算。源泉徴収票の発行も含む

労働保険料 年度更新

6月

前年度の確定保険料と当年度の概算保険料を申告・納付

社会保険 算定基礎届

7月

4月〜6月の報酬をもとに標準報酬月額を改定

定期健康診断

年1回以上

結果の記録・保管・従業員への通知、必要に応じて産業医への共有

ストレスチェック

年1回以上

結果の管理と集団分析も含む
(注)2025年5月に労働安全衛生法が改正により50人未満事業場も義務化が決定

関連記事:50人未満事業場のストレスチェック義務化とは?中小企業の労務・人事対応を解説

入退社で発生する業務

タイミング

業務

入社時

雇用契約書の作成・交付、健康保険・厚生年金・雇用保険の資格取得届、扶養・住民税の確認

退社時

社会保険の資格喪失届、雇用保険の離職証明書・離職票の作成、源泉徴収票の発行、年金手帳の返還

関連記事:従業員の退職時に労務担当者がするべきこととは?

休職・育休・労災など個別対応

事由

主な手続き

産前産後休業

社会保険料免除申請、出産手当金の申請サポート

育児休業

育児休業給付金の申請(ハローワーク)、社会保険料免除申請

介護休業

介護休業給付金の申請

労働災害(労災)

労働者死傷病報告の提出、労災保険の給付請求サポート

休職

傷病手当金の申請サポート、復職時の手続き

会社全体の制度整備

業務

内容

就業規則の作成・改定

常時10人以上の事業場では作成・届出が義務。法改正のたびに見直しが必要

36協定の締結・届出

時間外・休日労働をさせるために必須。毎年更新が必要

各種労使協定の管理

変形労働時間制、フレックス、計画年休など制度に応じて締結

ハラスメント対策

相談窓口の整備、防止方針の周知、必要な体制整備や研修の実施。職場のパワハラ・セクハラ等については事業主に防止措置義務があり、2026年10月1日からはカスタマーハラスメントや求職者等へのセクハラ防止措置も義務化されます

安全衛生管理

衛生管理者の選任(常時50人以上)、安全委員会・衛生委員会の設置・運営

関連記事:パワハラ防止法とは?条文や罰則・中小企業の義務化について解説!

労務管理とは何か

労務管理の目的は2つです。

(1) 法令遵守とリスク回避

労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法、育児介護休業法など、労働に関する法律は複数あり、毎年のように改正が行われます。法令を把握せずに運用を続けると、未払い残業代の請求や労基署の是正勧告、最悪の場合は書類送検にまで発展します

労務管理は、そのリスクを組織として管理・排除する仕組みです。

(2) 職場環境の整備と生産性の向上

適切な労務管理が機能している職場は、給与が正確に支払われ、有給が取りやすく、トラブル時に会社が適切に対応します。こうした「当たり前」の積み重ねが従業員の定着率を高め、優秀な人材が集まる職場環境につながります

労務担当者が詰まりやすい3つのポイント

労務の仕事は「やること自体はわかるが、正しくできているか自信が持てない」という状態になりやすい領域です。労務担当者がつまずきやすいのは次の3点です。

毎年変わる法改正についていけない

育児介護休業法の改正、社会保険の適用拡大、最低賃金の引き上げ、育休取得の義務化対応など、毎年複数の法改正が施行されます。「去年と同じ運用で大丈夫だろう」と思っていたら、実は改正後のルールに対応できていなかった、というケースは珍しくありません。

「今まで問題なかった」では通用しない場面がある

就業規則が何年も更新されていない、36協定をそもそも締結していない、有給の年5日取得管理をしていない。こうした状態でも、従業員との関係が良好であれば表面化しないことがあります。しかし退職した元従業員からの請求や、労基署の調査が入った場合、一気にリスクが顕在化します。「問題が起きてから気づく」では遅い業務です。

専門知識が必要な判断を一人で抱えることになる

育休・産休の手続き、労災が起きたときの対応、就業規則の変更。これらは「調べればわかる」レベルを超えた判断が求められる場面です。担当者一人で抱えると、判断ミスのリスクだけでなく、精神的な負担も大きくなります。

一人では限界を感じたら 担当者として取れる3つの選択肢

「自分だけでは対応しきれない」と感じたとき、上司や経営者に提案できる選択肢は3つあります。それぞれの特徴を整理しておくと、社内での検討をスムーズに進められます。

(1) クラウドシステムを導入して効率化する

勤怠管理・給与計算・入退社手続きをクラウドシステムに移行することで、手作業のミスを減らし、処理時間を大幅に短縮できます。担当者の負担を下げる最初の一手として有効です。ただし、法改正への対応判断や就業規則の整備といった専門的な業務は、システム化だけでは解決しません。

関連記事:労務管理におけるクラウド活用のメリットと導入のポイント

(2) 社労士と顧問契約を結ぶ

社会保険の手続き代行、就業規則の作成・改定、法改正情報の提供、労務相談への対応を、社会保険労務士(社労士)にまとめて依頼する方法です。「専門的な判断が必要な業務をプロに任せ、担当者は日常の管理業務に集中する」という役割分担が実現します。月額顧問料は企業規模にもよりますが、数万円からが相場です。

(3) 労務実務をまるごとBPO・代行に出す

給与計算・勤怠集計・入退社手続きなど、定型的な労務実務を外部にまとめて委託する方法です。「担当者を増やせないが業務量は増えている」という状況に特に有効です。社労士監修のもとで対応するサービスを選ぶことで、手続きの正確性と法令対応を同時に担保できます。

関連記事:人事労務でアウトソーシングを有効活用して様々なコストを削減

よくある質問

Q. 労務部がない会社はどうすればいいですか?

労務部がない場合、総務や経理が兼任するか、社会保険労務士(社労士)やアウトソーシング会社に外注するのが一般的です。従業員数が少ない段階では兼任で対応できることも多いですが、人数が増えるにつれて給与計算・社会保険手続き・法改正対応の負担が重くなります。対応しきれなくなる前に、専門家への相談を検討することをおすすめします。

Q. 従業員が少ない会社でも労務管理は必要ですか?

はい、従業員が1人でも労務管理は必要です。労働基準法は原則として従業員を1人でも雇えば適用されます。ただし、就業規則の届出義務や社会保険・ストレスチェックなどは制度ごとに適用要件が異なるため、自社の規模や事業形態に応じた確認が必要です。「うちは小さいから大丈夫」という認識が、未払い残業代の請求や労基署の是正勧告につながるケースは少なくありません。

Q. 労務管理をしないとどうなりますか?

労務管理が不十分な場合、主に3つのリスクが生じます。第一に、未払い残業代や社会保険未加入による従業員からの請求リスク。第二に、労働基準監督署による調査・是正勧告・罰則のリスク。第三に、離職率の上昇や採用難など、経営上のダメージです。近年は口コミサイトやSNSで労働環境が可視化されやすく、一度「ブラック企業」のレッテルが貼られると評判悪化リスクが大きく跳ね上がります。

Q. 労務の仕事はAIや自動化で変わりますか?

変わります。ただ、労務担当者が不要になる、という話ではありません。たとえば、給与計算前のデータ整理や勤怠集計、定型的な書類作成は、自動化しやすい業務です。実際、このあたりはクラウドツールの活用でかなり効率化が進んでいます。その一方で、法改正への対応、就業ルールの見直し、休職・退職対応、従業員との個別面談のような業務は、機械的には処理しにくい部分です。個社の事情を踏まえて判断したり、社内にわかるように説明したりする役割は、今後も人が担う場面が多いと予想できます。

まとめ

労務とは、従業員の労働に関する事務・手続きの総称です。給与計算・勤怠管理・社会保険手続き・就業規則整備など、業務範囲は広く、法律の知識が求められる専門性の高い領域です。

人事・総務・経理とは担う役割が異なり、「労働に関する法的手続きと環境整備」に特化しています。規模の大小にかかわらず、従業員がいるすべての企業に関係する業務です。

兼任で担当している場合、全業務を一人でこなすことには限界があります。クラウド化・社労士顧問・BPO代行、それぞれの選択肢の特徴を把握した上で、自社の規模とフェーズに合った体制を整えることが、担当者自身の負担を減らし、会社としてのリスクを下げる第一歩です。

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この記事の監修者

蓑田真吾のプロフィール画像

株式会社Enigol

蓑田真吾

千葉経済大学経済学部経済学科卒業。東京都社会保険労務士会所属(登録番号 第13190545号)。 都内医療機関において、約13年間人事労務部門において労働問題の相談や社会保険に関する相談を担ってきた。対応した医療従事者の数は1,000名を超え、約800名の新規採用者、約600名の退職者にも対応してきた。社労士独立後は労務トラブルが起こる前の事前予防対策に特化。現在は様々な労務管理手法を積極的に取り入れ労務業務をサポートしている。また、年金・医療保険に関する問題や労働法・働き方改革に関する実務相談を多く取り扱い、書籍や雑誌への寄稿を通して、多方面で講演・執筆活動中。

資格
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