1. 従業員の退職時に労務担当者がするべきこととは?
従業員の退職時に労務担当者がするべきこととは?

従業員の退職時に労務担当者がするべきこととは?

労務更新日:2024-09-22

使用者と労働者は労働契約を締結し労務の提供を受領する代わりに報酬を支払うこととなります。しかし、採用があれば退職もあります。今回は労務担当者にとって退職にフォーカスをあてどのような業務があるのかを解説してまいります。また、退職と言っても解雇以外でも複数の考え方がありますので併せて確認していきましょう。

退職の種類

辞職

辞職とは労働者から使用者に向けての一方的な告知です。労働者は民法627条1項に規定されているとおり、退職の意志を伝える場合はどんなに短くても2週間の予告期間をおくことが求められます。また、月給などのように報酬が期間をもって定められている場合、労働契約の解約は時期以降になり、申し入れはその期の前半にすることが求められます。

これは、給与計算などを行っていると理解が進みますが、直前に退職の意志を伝えられても既に給与計算が終わり、銀行にデータ送信をしている場合が多く、その後に調整をしなければならなくなってしまうことを防ぐ意味もあるでしょう。

当然、予告期間をおけば後は自由というわけではなく、その間は誠実に労務の提供することが求められ、後任への引継ぎなどは重要な職務です。また、年次有給休暇の未消化分について、退職日を越えて使用することはできず、退職日以前の期間で使用しなければなりません。労働者が有給休暇の時季指定をし、使用者が「事業の正常な運営に支障をきたす」場合は「時季変更権」が認められますが、無制限に行使できるわけではありません。(後述)

合意解約

使用者と労働者の双方が合意して将来に向かって労働契約を終了することを指します。よって、解雇権濫用法理の規制を受けず、辞職の際に求められる民法627条1項の2週間前の予告期間をおくことも必要がありません。しかし、あくまで双方の合意があって初めて合意解約となることから、労働者を誤認させるような対応は問題です。例えばありもしない事実を取り上げ「退職届を書かなければ懲戒解雇になる」として、労働者が渋々退職届を書いた場合、真意に基づいた合意ではありません。

万が一裁判となった場合、そのような対応は合意解約とは評価できず、無効とされます。無効とされるとその間に受けることができた賃金分の補償を命じられる可能性が高く、経営問題にまで発展します。 

無論、事実がある場合は、その事実を伝え、何らかの処分の可能性がある旨を事前に説明しておくべきでしょう。

また、実務上、退職を決意したものの、雇用環境の悪化などを理由に労働者が撤回を求めることがあります。その場合、合意解約は双方の合意が前提であることから使用者の承認前の場合は撤回が可能です。

退職勧奨

退職勧奨とは、使用者から労働者に対して退職を促す行為です。よって、応じるか否かは労働者次第です。無論行き過ぎた対応(しつこく繰り返す、長時間にわたって拘束するなど)は強要と判断され、その行為自体が違法と判断される可能性があります。

実務上解雇は難しいが、労働者と可能な限り円満に雇用契約を終了させたいという時に選択されます。注意点は労働者の意志が固まる前の段階で圧力をかけてしまうこともその行為自体が違法と判断される可能性があります。

定年

高年齢者雇用安定法により坑内労働を除いて60歳を下回る定年は認められません。多くの企業では定年を採用していますが、厳密には定年退職制と定年解雇制に分けられます。定年は年齢到達を契機に雇用関係が終了となります。定年退職制は年齢を契機に「退職」となり、定年解雇制は年齢を契機に「解雇」となります。労働統計上は前者の定年退職制の方が多く採用されています。

言うまでもなく、「解雇」の場合は労働基準法第20条において手続き的な規制をかけています。内容は、以下のとおりです。

使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。 30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。

また、労働契約法16条において解雇そのものの有効性が問われることとなります。内容は以下のとおりです。 

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。 

定年自体は日本の労働慣行において一般的でありそれ自体が直ちに無効とされることはないでしょう。しかし、定年を延長する場合は注意が必要です。それは、無制限に定年を延長するのではなく、一定の労働者に対してのみ定年延長とする場合は、どのような場合に定年延長するのかを明確化しておくべきです。その点が曖昧なままだと不利益な取扱いを受けたとしてトラブルに発展することがあります。

退職時の概要

退職日の決定

労務担当者としておさえておかなければならない点として一般的に退職勧奨や定年を除いた辞職と合意解約は、正確に判断できないことが多いと考えます。この点は所属長を通じて労働者と面談をし、意思の確認をすべきです。また、合意解約の場合、退職日の決定をしなければなりません。退職日が決まらなければ後述する労務担当者の業務においても進めることが難しくなります。

退職届

実務上は、労働者からの一方的な告知である辞職でない限り、退職日を労使双方で確認しなければなりません。また、日本の企業では退職願と退職届が存在します。考え方としては「願」の場合は合意退職となり、撤回が可能と考えられますが、「届」としている場合が辞職と解釈する場合もありますが、明確に定められているわけではありません。また、辞職であっても適正な給与計算の観点から退職日は労使間で認識齟齬のないように確認すべきです。 

退職日に認識齟齬があると退職後の給与で「振込額が少ない」などの問い合わせがあり、双方後味の悪い別れとなります。 

尚、退職願(又は退職届、以下退職願)をいつまでに提出しなければならないかを就業規則に定めておくべきです。労働基準法では退職願を何日前までに提出する旨の規定はなく、多くの企業では民法627条1項の規定を採用し、2週間前までに所属長に提出するように定めていることが多いと考えます。しかし、言うまでもなく有給休暇の消化も考えると2週間では後任への引継ぎが困難な場合が多いでしょう。そこで、1か月前までに提出するよう規定するなどの対応が肝要でしょう。

労働基準法の多くの規定は使用者に義務を科すことであり、労働者に義務を科す規定は圧倒的に少ないのが特徴です。よって、円滑な事業運営の観点からも重要な論点です。

退職に関する注意点

秘密保持

在職中は職場内で得た情報を退社後であっても自身のSNSなどで情報を公の目にさらすようなことはすべきでなく、就業規則でも明記されていることでしょう。しかし、それは退職後であっても企業の信用を揺るがすようなことがあってはなりません。実務上では在職中だけでなく、退職後も秘密保持義務を定めておくことで一定の抑止力が期待されますが、どのような内容が秘密保持契約の内容にあたるのか明示しておく必要があります。

競業避止義務

在職中に得たノウハウを活用し同業他社へ転職(又は起業)することを抑止する意味で就業規則に競業避止義務を明記している場合があります。しかし、あまりも長期間かつ広範囲の規定は労働者の職業選択の自由(日本国憲法第22条1項)を侵害している可能性があります。また、対象者も執行役員クラスであれば同義務が認められることがあり、また、同義務を科す代わりに一定の手当を支給しているケースもあります。しかし、一般社員クラスでは職業選択の自由と照らし合わせると難しい場合が多いのも現状です。

給与計算

退職日が決まると必然的に給与計算業務が在職者とは異なった動きとなります。末締め当月予定払いの場合はその月の給与をその月に支払うことから退職日以降には基本給の支払いがありません。よって、社会保険料を2ヶ月分(退職月の前月分と退職月分)控除しておくことが求められます。これは法律上(健康保険法第167条・厚生年金保険法第84条)認められていることから、労働基準法第24条(賃金全額払い)にも抵触しません。

賞与

就業規則又は給与規定等の記載内容によっては賞与支給日の前1ヶ月の退職までは支給するとなっている規定も散見されます。必ず規定を確認し、実態と合致した支給業務が重要となります。賞与については法律で支給が義務付けられているものではなく、それぞれの企業で定める規定に拘束されることから、行政機関に問い合わせたとしても解答はありません。

各種保険料の徴収

退職月以降に給与が発生する場合(例えば残業代)その時に控除すべき保険料と控除する必要のない保険料が存在します。適正な手続きが進められている前提では社会保険料は退職月に控除していることから、退職月の翌月の給与からは控除不要ですが、雇用保険料は退職月の翌月であっても支給があれば控除します。

住民税切り替え

退職月によって対応が異なります。1月~5月に退職の場合は事業主が一括して徴収し、各市町村へ納付することとなります。また、6月~12月に退職の場合は以下の3通りの選択肢があります。

・一括徴収

・特別徴収(給与から天引き)から普通徴収(個人で納付する)へ切り替え

・次の勤務先へ引き継ぐ

特に次の勤務先へ引き継ぐ場合は何月分まで徴収しており、何月から徴収を引き継ぐのかを明確に伝えなければなりません。

離職票発行

退職後に次の勤務先が決まっておらず求職活動を予定している場合は離職票の発行があります。退職者全てに対して発行義務があるわけではありませんが、退職者が59歳以上の場合は必ず発行しなければなりません。これは今後失業手当(正式には基本手当、以下失業手当)とは他の給付を受ける可能性がある為に、義務とされています。また、退職者が59歳未満の場合は退職者が発行を求めた場合には発行しなければなりません。しかし、退職から数か月経過後に離職票を求められた場合も発行義務が消滅するわけではないことから、退職時に意思を確認しておくことが肝要です。

年末調整

毎年最後の給与では一年間納めてきた所得税が適正な額であるかを確認し、納付すべき所得税額を精算する年末調整が行われます。年途中退職者(転職先が決まっている)の場合は転職先や自身で確定申告を行うこととなりますが、12月末退職者の場合は12月31日時点で在籍予定であることから、在職中に年末調整を行います。

退職金

退職金は基本給や残業代のように法律によって支給が義務付けられているものではなく、企業の就業規則や退職金規定等の記載内容に沿って支給することとなります。原則として退職金には所得税と住民税が課され、退職金からの控除が必要となります。しかし、社会保険料、雇用保険料は課されないことから控除する必要はありません。(前払い退職金として報酬や賞与とされる場合を除く)

尚、企業内では一般的に退職金や退職手当と呼ばれますが、税務上は退職所得と呼ばれます。

退職金に係る所得税の源泉徴収は「退職所得の受給に関する申告書」を提出しているか否かで大きく変わります。提出していない場合は退職金の支給額に一律20.42%の所得税が課税され、退職者が確定申告をして清算することとなります。

また、同申告書を提出している場合は勤続年数に応じた退職所得控除額を所定の計算式から求めて算出します。結論としては同申告書を出していない場合の方が多くの所得税を徴収されることとなります。 

そして、住民税は特別徴収対象者の場合、退職金を支払う企業が退職金から納税義務者の住民税を控除し、市町村に納付することとなります。尚、住民税は原則として前年の所得に他指定課税されますが、退職所得に関しては退職所得の発生した年に課税されることとなります。 

尚、退職金を支給した場合も源泉徴収票を発行しなければなりません。これは退職後1か月以内に交付することが求められています。

最後に

退職が決まった場合、労務担当者は退職金の支給がある場合は給与計算と並行して計算進めていく必要があります。特に退職日まで日数が少ないにも関わらず退職が決定した場合は焦って計算してしまうとミスに繋がることが多く、複数の担当者でチェックするように作業内容を切り替えるなどの対応が必要です。また、退職日まで必要な書類の提出を求めておくことも重要です。退職した後では在職中のように接触する機会も少なることから、手続きが進められないというケースも散見されます。

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会社名

(株)Enigol

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この記事の監修者

柳沢智紀のプロフィール画像

株式会社Enigol

柳沢智紀

株式会社リクルートホールディングスでWEBマーケティング業務および事業開発を経験し、アメリカの決済会社であるPayPalにて新規事業領域のStrategic Growth Managerを担当の後、株式会社Enigolを創業。対話型マーケティングによる顧客育成から売上げアップを実現するsikiapiを開発。

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