人事労務とは?仕事内容・人事と労務の違いをわかりやすく解説

人事労務とは?仕事内容・人事と労務の違いをわかりやすく解説

労務更新日:2026-03-24

「人事労務」という言葉はよく耳にするものの、その全体像を正確に把握している人は意外と少ないものです。 この記事では、社労士の視点から人事労務の定義・業務内容・人事と労務の違いを整理し、企業で担当する際に知っておきたいことをわかりやすく解説します。

人事労務とは

人事労務とは、「人事」と「労務」をまとめた総称で、従業員の採用から退職までを支える業務全体を指します。

人事は採用・育成・評価など人材活用に関わる仕事、労務は給与計算・社会保険手続き・就業規則管理など労働環境の整備に関わる仕事です。どちらも「従業員に関わる仕事」という点で共通しているため、「人事労務」としてまとめて扱われることも多いです。

人事の仕事内容

人事の仕事は、会社に必要な人材を確保し、その人材が最大限のパフォーマンスを発揮できるよう支援することです。従業員一人ひとりと直接関わる業務が中心となります。

業務

内容

採用

要員計画の策定、求人票作成、面接の実施、内定〜入社フォロー

配置・異動

配属先の決定、部署異動、昇格・降格・出向の調整

育成・研修

教育制度設計、外部研修の手配、キャリア面談の実施

人事評価

評価制度の設計・運用・導入

人員計画

中期的な要員計画の策定、組織設計

人事の仕事は裁量が大きく、答えが一つではない点が特徴です。採用のミスマッチや評価の不公平感は、社員のモチベーション低下や離職につながるなど組織の雰囲気に影響を与えるため、長期的な視点での判断が求められます。

労務の仕事内容

労務の仕事は、従業員が法律の定めに従って安心・安全に働ける環境を整えることです。給与計算・勤怠など法令に基づく手続きや管理が中心で、正確性と期限厳守が何より重要です。

業務

内容

給与計算

基本給・残業代・インセンティブ計算、所得税・社会保険料の控除額算出

勤怠管理

労働時間・残業・有給休暇の管理

社会保険手続き

健康保険・厚生年金・雇用保険の加入/喪失届・労災保険

入退社手続き

雇用契約締結、入社書類収集、退職時の離職票・源泉徴収票作成

就業規則の管理

就業規則の作成・届出、法改正に応じた改訂

安全衛生管理

健康診断の実施、ストレスチェックの実施、安全衛生体制の整備

労務トラブル対応

残業代未払い・ハラスメントの相談対応、労基署への対応

労務のミスは給与計算の誤りや手続き漏れとして即座に発覚し、法的リスクや金銭的損害に直結します。未払い残業代の遡及支払いや労働基準監督署からの是正勧告に発展するケースもあるため、正確な処理が求められます。

人事と労務の違い

下表で人事と労務の主な違いを整理します。

比較軸

人事

労務

主な業務

採用・配置・育成・評価

給与計算・勤怠管理・社保手続き・就業規則

業務が発生するタイミング

採用前〜在職中の成長支援

入社〜退職まで継続的な事務処理

ミスの影響

モチベーション低下・離職リスク(遅れて表面化)

法的リスク・金銭的損害(即時発覚)

必要な知識

組織論・採用マーケティング・人材育成

労働基準法・社会保険法・税法

仕事の性質

裁量が大きく答えがない・対人

法令通りの正確な処理・期限遵守

なお、総務と混同されることもありますが、総務は施設管理・備品調達・社内調整など組織運営全体を支える役割です。人事労務が「従業員」を対象にするのに対し、総務は「組織・会社全体」を対象にする点で異なります。

関連記事:労務と人事の違い|労務担当者の役割と求められる能力とは

労務の年間スケジュール

労務の業務は、毎月の定常業務に加え、年の中で手続きが集中する時期があります。年間の流れを把握しておくことで、対応漏れを防ぐことができます。

時期

主な業務

毎月

勤怠締め・給与計算・社会保険料の納付・入退社手続き

4月

新入社員の入社手続き・社会保険加入・雇用保険入手続き

6〜7月

労働保険の年度更新(保険料の確定・概算申告)

7月

算定基礎届の提出(7月1日現在の被保険者を対象に7月10日までに提出)

9〜10月

最低賃金改定への対応・給与テーブルの見直し

10〜12月

年末調整・源泉徴収票の交付

1月

法定調書・給与支払報告書の提出

随時

育児・介護休業の申請対応、就業規則の改訂、法改正への対応

特に7月の算定基礎届と6〜7月の年度更新は、同時期に締め切りが重なる繁忙期です。年間カレンダーに事前に落とし込み、余裕を持った準備が重要です。

関連記事:労務の年間スケジュール|給与計算や年末調整、社会保険料がわかる

人事労務に関連する主な法律

人事労務の業務は複数の法律が関わってきます。特に以下の法律は担当者として最低限押さえておく必要があります。

法律

主な関係業務

労働基準法

労働時間・残業代・有給休暇・就業規則の作成義務・割増賃金

労働契約法

雇用契約の締結・解雇規制・有期契約の更新ルール・安全配慮義務(5条)

健康保険法・厚生年金保険法

社会保険(健保・厚年)の加入・喪失手続き、算定基礎届

雇用保険法・労災保険法

雇用保険・労災保険の加入・喪失手続き、給付申請

男女雇用機会均等法

採用・配置・昇進における性別差別の禁止

育児・介護休業法

育休・介護休業の取得、個別周知・意向確認、雇用環境整備義務

労働安全衛生法

健康診断の実施義務、面接指導、ストレスチェック、安全衛生体制の整備

これらの法律は毎年のように改正されます。近年では、同一労働同一賃金への対応、育児・介護休業法上の個別周知・意向確認や雇用環境整備義務、時間外労働の上限規制への対応など、実務に直結する改正が相次いでいます。厚生労働省の情報や顧問社労士からのアナウンスを定期的に確認することが重要です。

【ストレスチェックについて】 現行では、常時50人以上の労働者を使用する事業場に実施義務があります。50人未満の事業場は当面努力義務ですが、2025年成立の法改正により今後義務化される予定です(施行日は公布後3年以内の政令で定める日)。

関連記事:50人未満事業場のストレスチェック義務化とは?中小企業の労務・人事対応を解説

労務担当者に求められるスキル

1. 法律知識と継続的なアップデート力

労働基準法や社会保険法の基礎知識はもちろん、毎年行われる法改正を追い続ける姿勢が必要です。育児介護休業法・同一労働同一賃金・最低賃金の改定など、実務に直結する変更が毎年発生します。

2. 正確な処理を行うための業務管理能力・仕組みづくりの能力

給与計算や社会保険手続きは期限と正確性が命です。1円の計算ミスや1日の手続き遅延が従業員からの会社への信頼に直結します。実際の現場では、従業員ごとの給与計算の変更事項の管理やチェックリスト作成など、ミスしない仕組みづくりができる能力が求められます。また、タスク管理や繁忙期前に先取りして準備するといった業務全体の管理能力も重要です。

3. コミュニケーション能力

経営陣・現場社員・年金事務所・ハローワークなど、あらゆる立場の相手とのやり取りが発生します。特に労務トラブル時は、当事者双方の話を丁寧に聞きながら中立的に対応する能力が求められます。

4. コンプライアンス意識

残業代の未払いやパワーハラスメントの放置が行政指導・訴訟に発展するケースは後を絶ちません。「前例踏襲でいいか」ではなく、常に法令の観点から判断する意識を持つことが大切です。

人事労務業務のアウトソーシングという選択肢

法改正対応の複雑化や専任担当者の採用難を背景に、人事労務業務の一部を外部に委託する企業が増えています。主な選択肢は以下の3つです。

  • 顧問社労士:法律相談・手続き代行・就業規則整備・助成金申請などに対応
  • 給与計算アウトソーシング:給与計算・年末調整・社保手続きを専門会社に委託し、月次の担当者負荷を削減
  • 労務BPO:入退社手続きから日常的な労務管理まで包括的に委託できるサービス

何を内製し、何を外部に委ねるかの整理が重要です。法令知識が必要な手続き業務は外部専門家に委ね、自社事情を深く理解する必要がある採用判断や評価制度設計は内製するのが一般的な考え方です。

関連記事:人事労務アウトソーシングおすすめ11選比較

よくある質問

Q. 人事と労務は同じ部署が担当することが多いですか?

企業規模によって異なります。大企業では人事部・労務部が分かれていることが多いですが、中小企業では1〜2人の担当者が兼務するケースが一般的です。10〜50人規模の企業ほど兼務が起きやすく、労務と採用がほとんどの業務を占めるケースが多いです。

Q. 人事労務は未経験でもできますか?

未経験でも担当になることは十分あります。ただし、給与計算・社会保険手続きは法律に基づく業務のため、基礎知識の習得は不可欠です。市販の書籍や資格テキストで学ぶことができます。業務を通じてキャリアを積みながら、社労士資格の取得を目指す方も多くいます。

Q. 人事労務に向いている人はどんな人ですか?

正確な事務処理が得意な人、仕組みづくりが得意な人、法律やルールに基づいて判断できる人、さまざまな立場の人と丁寧にコミュニケーションが取れる人が向いています。また、法改正が多い分野のため、情報収集を継続する習慣がある人はより活躍しやすいです。

Q. 人事労務の仕事はAIでなくなりますか?

給与計算・勤怠管理・入退社手続きといった定型業務はシステム化・自動化が進んでいます。一方で、就業規則の設計・労務トラブルへの対応・法改正への判断・採用や評価における人へのコミュニケーションが発生する業務はAIに代替しにくい領域です。定型業務の効率化が進む分、より高度なコミュニケーション能力が求められます。

Q. 給与計算はシステムで自動化できますか?

勤怠管理・給与計算・社会保険料控除などの定型処理はクラウドシステム・RPA等で大幅に効率化できます。ただし、自動化プロセスの設計・メンテナンス・就業規則の設計・法改正への対応・労務トラブルへの対処は人の判断が不可欠です。システムはあくまで処理を支援するツールであり、制度設計や法的判断を代替するものではありません。

関連記事:労務管理におけるクラウド活用のメリットと導入のポイント

Q. 法改正への対応が追いつかない場合はどうすればよいですか?

厚生労働省のHPのチェックや、顧問社労士からの改正情報の共有を仕組み化することが現実的な対処法です。業務負荷が高い場合は、専門家への相談やアウトソーシングの活用を検討してみましょう。

まとめ

人事労務とは、従業員の採用から退職までを支える「人事」と「労務」の総称です。

  • 人事:採用・育成・評価・配置を通じて人材を活かす仕事
  • 労務:給与計算・社保手続き・就業規則管理など法令に基づく義務の履行
  • 人事は未来への投資(裁量大)、労務は現在の義務の正確な履行(法令準拠)
  • 法改正が毎年発生するため、継続的な知識のアップデートが必要
  • 業務負荷が高い場合は顧問社労士・労務BPOの活用も有効

人事労務は地味に見えて、会社のリスク管理と組織の安定を支える根幹機能です。全体像を把握したうえで、自社に合った体制づくりを進めてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な判断については専門家にご相談ください。

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この記事の監修者

蓑田真吾のプロフィール画像

株式会社Enigol

蓑田真吾

千葉経済大学経済学部経済学科卒業。東京都社会保険労務士会所属(登録番号 第13190545号)。 都内医療機関において、約13年間人事労務部門において労働問題の相談や社会保険に関する相談を担ってきた。対応した医療従事者の数は1,000名を超え、約800名の新規採用者、約600名の退職者にも対応してきた。社労士独立後は労務トラブルが起こる前の事前予防対策に特化。現在は様々な労務管理手法を積極的に取り入れ労務業務をサポートしている。また、年金・医療保険に関する問題や労働法・働き方改革に関する実務相談を多く取り扱い、書籍や雑誌への寄稿を通して、多方面で講演・執筆活動中。

資格
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