公共工事を請け負う建設会社には、毎年10月ごろに「労務費調査のお願い」が届くことがあります。初めて対象になった担当者の多くは、何を用意してよいのかわからず戸惑います。本記事では、労務費調査の目的・対象・スケジュール・書類の作り方を、建設業の現場目線でわかりやすく整理します。令和5年度の調査で約2割の書類が棄却されたというデータも踏まえ、失敗しないコツも紹介します。

公共工事を請け負う建設会社には、毎年10月ごろに「労務費調査のお願い」が届くことがあります。初めて対象になった担当者の多くは、何を用意してよいのかわからず戸惑います。本記事では、労務費調査の目的・対象・スケジュール・書類の作り方を、建設業の現場目線でわかりやすく整理します。令和5年度の調査で約2割の書類が棄却されたというデータも踏まえ、失敗しないコツも紹介します。
この記事のポイント
※本記事の内容は公表資料を参考にしたものです。年度ごとに運用が変わる場合があるため、最新の「公共事業労務費調査の手引き」や発注機関からの案内文書を必ず確認してください。
労務費調査とは、国土交通省と農林水産省が、公共工事に従事する建設労働者の賃金実態を調べ、翌年度の公共工事設計労務単価の基礎資料とする全国調査です。正式名称は「公共事業労務費調査」といいます。
対象になった元請・下請企業は、10月分の賃金台帳をもとに、労働者ごとの賃金や労働時間を調査票に書き写して提出します。
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調査の対象期間は原則として10月の1か月間です。少数職種の労働者がいる場合は9月分も調査対象になります。発注機関から元請企業への通知は、例年8月〜9月ごろに届きます。
集まったデータは集計され、翌年度の「公共工事設計労務単価」の決定に使われます。設計労務単価は、公共工事の予定価格を計算するための、職種別・都道府県別の標準単価です。毎年2月〜3月に翌年度分が公表されます。
なお設計労務単価は、自社の賃金を強制的に決めるものではありません。あくまで予定価格を出すための目安です。
次の3つを満たす工事が対象になります。
これらの工事のなかから、無作為に抽出されたものが調査対象になります。同じ発注機関の工事でも、抽出されなければ対象にはなりません。
調査対象は「51職種」に該当する労働者です。以下は代表的な例で、実際はさらに多くの職種が含まれます。
対象になるかどうかは、肩書きではなく実際に従事した作業内容で判定されます。現場技術者や事務職でも、調査対象51職種の作業に従事していなければ通常は対象外です。
元請企業は、発注機関から直接通知を受け、対象工事に関わるすべての下請企業に連絡します。下請企業は、2次下請・3次下請と階層が深くなっても、51職種の労働者がいれば対象です。
一人親方も、51職種の作業に従事していれば調査対象になります。ただし請負で受け取った報酬のうち「賃金部分」と「経費部分」を分ける必要があり、分けられない場合は調査対象外となることがあります。後述の補足調査票(様式1-1)への対応も必要です。
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労務費調査は1日で終わる作業ではなく、数か月にわたって進みます。全体の流れは以下の5段階です。

発注機関が調査対象の工事を抽出し、元請企業に通知します。元請企業は対象工事に関わる下請企業にも連絡します。
発注機関の担当者が現場を訪問し、職種や作業内容、労働者数を確認します。現場代理人や労務担当者が対応できる体制にしておきます。
説明会(動画視聴の場合あり)で記入方法が案内されます。賃金台帳をもとに調査票を作成します。
会場調査・書面調査・オンライン調査のいずれかで、記入内容と添付書類の整合性が確認されます。不備のある書類はこの段階で棄却されます。
棄却されなかった書類の集計結果をもとに、翌年度の設計労務単価が公表されます。
主な様式は次のとおりです。
審査時に確認されるので、次の資料はそろえておきます。
調査票を書き始める前に、次の3点を確認しておくと棄却リスクを下げられます。
調査方式は書面調査・対面調査(会場調査)・オンライン調査が並列で運用されています。オンライン調査は書類の印刷・持参・郵送の手間を減らせるため、社内の電子化が進んでいる企業に向いています。書面や会場調査が適する場合もあるので、発注機関からの案内に従って選びます。記入内容や必要書類はどの方式でも同じです。
自社の立ち位置によってやるべきことが変わります。全体像は次のとおりです。
立場 | 主な役割 |
元請企業 | 発注機関と下請企業をつなぐ窓口、現況調査での対応 |
1次下請企業 | 自社の調査票作成、2次以下の下請への情報伝達 |
2次以下の下請 | 自社労働者分の調査票作成 |
一人親方 | 自身の稼働分の調査票作成、賃金と経費の分離、様式1-1の対応 |
元請企業は、発注機関と下請企業の間をつなぐ中心的な役割を担います。
1次下請は、自社の調査票を作成しつつ、2次以下の下請にも情報を伝達します。自社に51職種の労働者がいなくても、2次以下の下請企業が対象になることがあるため、状況の把握は必要です。
自社で雇用する労働者、または自分自身の稼働分について調査票を作成します。一人親方は、請負契約書や記録をもとに賃金と経費を分けて記入します。賃金と経費の分け方が書類で確認できないと調査対象外になることがあるため、普段から契約書を整えておくと安心です。
令和5年度の調査では、提出された書類のうち約2割が棄却されました。主な理由は次の2つです。
どちらも日ごろの労務管理の不備が原因です。主な対策は次の3つです。

労働基準法では、所定労働時間は原則週40時間以内と決まっています。建設現場では午前・午後の小休憩が就業規則に書かれていないことが多く、結果として40時間を超えた形になってしまいます。
実際の休憩時間を就業規則に明記し、労働時間から正しく差し引くことで解決できます。
関連記事:休憩時間のルールを詳しく解説!休憩時間のトラブルや原則
賃金台帳は労働基準法で作成が義務付けられた書類です。次の4点が揃っているか確認します。
常時10人以上の労働者がいる事業場は、就業規則の作成と届出が必要です。次の項目を実態に合わせて記載しておきます。
元請企業は、発注機関との契約書や仕様書に調査協力が明記されているのが一般的で、契約に基づき協力を求められます。下請企業も、元請との契約内容に応じて同様の協力を求められることがあります。詳細は発注機関の案内文書や個別契約で確認します。
案内文書や契約条件次第ですが、元請や発注機関との信頼関係に影響し、今後の受注に関わる可能性があります。判断に迷う場合は、発注機関や元請に直接確認するのが確実です。
調査への協力に対して報酬が支払われる制度は設けられていません。ただし、調査結果は翌年度の設計労務単価に反映されるため、長い目で見れば業界全体の受注金額の基準づくりにつながります。
請負契約書に経費(交通費・作業着・道具代など)の内訳を記載しておきます。分け方の記録が残っていないと、調査対象外になる場合があります。
よく混同されるのが「労務費率調査」です。名前は似ていますが、目的も主管もまったく違います。

項目 | 公共事業労務費調査 | 労務費率調査 |
主管 | 国土交通省・農林水産省 | 厚生労働省 |
目的 | 設計労務単価の決定 | 労務費率の見直し(労災保険制度に関連) |
対象 | 1,000万円以上の公共工事 | 建設事業全般(民間含む) |
調査時期 | 原則10月 | 年1回(指定期間) |
届いた依頼文書の発信元を見れば、どちらの調査かすぐに見分けられます。
労務費調査で棄却される原因の多くは、日ごろの労務管理の抜け漏れにあります。
日常の労務管理が整っていれば、調査が来ても書類を書き写すだけで済みます。
社内のリソースが足りない場合、労務業務を外部に任せる選択肢もあります。Remobaの労務BPOサービスは、賃金計算・勤怠管理・社会保険手続きをまとめて代行できます。急な調査依頼に追われやすい建設業の事務部門にとって、日常から備えておける手段の一つです。
関連記事:【保存版】社労士が教える労務運営における効率化の方法12選
いいえ。建設業の公共工事のみが対象です。
いいえ。無作為抽出なので、毎年対象になるとは限りません。
原則として調査月(10月)分です。月給制や過去1年以内に臨時給与があった場合は1年分が必要です。
1日でも従事していれば対象です。賃金計算期間1か月分を記入します。
一人親方や、職階・特定項目の記入が必要な労働者について提出します。
原則出席ですが、動画視聴や資料閲覧で代替できるケースもあります。発注機関の案内を確認してください。
労務費調査は、公共工事の設計労務単価を決めるための全国調査です。主なポイントは次のとおりです。
労務費調査は単発の対応で終わらせず、自社の労務管理を見直す機会として活用するとよいでしょう。