飲食店の経営者・店長向けに、労務管理の基本とよくあるトラブル、負担を減らすコツを整理。長時間労働・深夜営業・アルバイト中心という飲食店特有のリスクを踏まえ、労働時間や休憩、残業代、有給休暇などのルールをわかりやすく解説します。

飲食店の経営者・店長向けに、労務管理の基本とよくあるトラブル、負担を減らすコツを整理。長時間労働・深夜営業・アルバイト中心という飲食店特有のリスクを踏まえ、労働時間や休憩、残業代、有給休暇などのルールをわかりやすく解説します。
この記事のポイント
※本記事は一般的な情報整理を目的としています。個別の判断は最新の法令や専門家(社労士・弁護士)の助言をもとに進めてください。
飲食店の経営では、料理やサービスの品質はもちろん、スタッフの働き方を適切に管理することも欠かせません。ところが労務管理は法律が絡む領域が多く、知らないうちに違反している、あるいはトラブルの火種を抱えたままになっているケースが少なくありません。
この記事では、飲食店の経営者・店長向けに、労務管理の基本と飲食店でよく起きるトラブル、負担を減らすコツを整理しました。

労務管理とは、スタッフが気持ちよく働けるようにルールと仕組みを整える仕事全般を指します。経営の3要素「ヒト・モノ・カネ」のうち「ヒト」に関わる部分です。
主な業務は次のとおりです。
社会保険(健康保険・厚生年金)は、法人であれば原則として加入義務があります。個人経営の店舗でも、常時5人以上のスタッフを雇う場合は加入対象です。雇用保険・労災保険は、週20時間以上・31日以上の雇用見込みがあるスタッフが対象となります。雇用形態ごとに加入要件が異なるため、採用時に確認する流れを作っておくと安心です。
数ある業種のなかでも、飲食店は労務管理の負荷が高い業種です。理由は主に3つあります。
1. 営業時間が長く、人手が常に不足しがち
仕込みから深夜営業まで、1日の稼働時間が長くなります。結果として長時間労働になりやすく、残業代の管理も複雑になります。
2. アルバイト・パート比率が高い
シフト制で多くの短時間勤務者が入れ替わるため、契約書・勤怠・有給の管理が煩雑になります。
3. 職人気質の文化が残っている
「修行」という感覚で長時間労働を当たり前とする風土が残る店舗もあり、残業代や休憩の感覚が曖昧になりがちです。
こうした構造的な事情から、飲食店では労働基準法違反や残業代請求のトラブルが発生しやすくなっています。

労働基準法では、働かせてよい時間の上限が決まっています。
飲食店には特例措置対象事業場という仕組みがあります。常時雇用する労働者が9人以下の小規模店舗では、週44時間まで労働させることが認められる場合があります(1日8時間の上限は変わりません)。自店が該当するかは、労働基準監督署で確認できます。
有給休暇はアルバイト・パートにも付与義務があります。「うちは時給だから有給はなし」は誤解で、法律違反にあたります。また、年10日以上の有給休暇が付与される労働者には、年5日の取得義務があり、これに違反すると罰則の対象になる可能性があります。
飲食店の悩みどころが休憩時間です。ランチとディナーの間に店を閉めない「通し営業」の場合、まとまった1時間の休憩を取らせるのが難しいケースがあります。
この場合、休憩を分けて取らせることも可能です。例えば20分×3回で合計60分、食事休憩40分+短い休憩20分といった取り方ができます。
関連記事:休憩時間のルールを詳しく解説!休憩時間のトラブルや原則
ただし重要なのは、休憩は「完全に仕事から離れている」ことが条件だという点です。店内で客待ちをしながら座っている、注文が入ったら対応するために待機している、といった時間は法律上は休憩ではなく「手待時間」として扱われ、労働時間に含まれます。休憩中のスタッフには、店外に出てもよいと明示する、バックヤードで対応不要とするなど、完全に業務から解放する運用を徹底します。

夜22時から翌朝5時までの勤務には、深夜割増賃金として通常の給料の25%アップが義務付けられています。
例えば時給1,200円のスタッフが22時以降に働いた場合、時給は1,500円(1,200円×1.25)になります。さらに、法定労働時間(1日8時間)を超えた残業が深夜時間帯に及んだ場合は、残業の25%と深夜の25%が加算され、合計50%アップの時給1,800円が必要になります。
深夜営業をしている飲食店では、計算ミスが起きやすい部分です。給与計算ソフトや勤怠管理アプリを使って自動計算できる仕組みを整えておくと安心です。
「店長は管理職だから残業代は不要」と考える経営者は少なくありません。しかし、労働基準法で残業代が不要とされる「管理監督者」に該当するには、かなり厳しい条件があります。
単に「店長」という肩書きがあるだけ、現場のシフト管理や売上集計をしているだけでは、管理監督者とは認められません。条件を満たさない場合は「名ばかり管理職」とされ、過去分の残業代を請求される可能性があります。
店長の労働時間を記録し、管理監督者の条件を満たしているかを定期的に確認することが大切です。
アルバイト・パートには次の3点を押さえます。
有給休暇の付与ルールは雇用形態を問わず適用されるため、アルバイトが多い飲食店では特に漏れが発生しやすい部分です。付与日と残日数を管理する「有給管理簿」の作成も義務付けられています。
外国人スタッフを雇う際は、在留カードで就労資格を確認する必要があります。特に留学生は「資格外活動許可」がなければアルバイトができず、許可があっても週28時間までと上限が決まっています(長期休業期間中は1日8時間まで)。
許可証の確認を怠ったまま雇用し、上限を超えて働かせてしまうと、経営者側も不法就労助長罪に問われる可能性があります。採用時には在留カード等で就労資格を確認し、必要情報を記録・保管します。あわせて、ハローワークへの外国人雇用状況の届出も雇用主の義務です。
飲食店で最も多いトラブルが、退職後の残業代請求です。未払い賃金の時効は3年(2020年4月以降の給与)に延長されており、辞めてから数年経った元スタッフからも請求される可能性があります。
防ぐポイントは次の3点です。
「長時間労働の証拠がなければ請求は通らない」という認識は誤りです。裁判所は労務管理が不十分な企業に対して厳しく判断する傾向があります。
関連記事:【労働基準法改正】2020年4月〜|残業代請求等の変更点を総合的に解説
「15分単位で給料を計算している」「5分遅刻したら15分遅刻扱いにしている」といった運用は、飲食店でよく見られます。しかしこれは労働基準法違反にあたる可能性が高い運用です。
労働時間は1分単位で記録し、賃金もそれに応じて計算するのが原則です。例外として、1か月単位での集計で30分未満を切り捨てる運用は認められていますが、毎日の切り捨ては不可です。
飲食店でよく論点になるのが、次の3つです。
特に待機時間の扱いは、残業代トラブルの原因になりやすい部分です。「仕込みは勤務開始前だから給料は出さない」という運用は通用しません。

日常業務に追われる飲食店経営者が、すべての労務管理を自力で完璧にこなすのは現実的ではありません。
まずは最低限そろえたい書類・仕組みを確認しておきます。
これらを整えたうえで、次の3段階で負担を減らしていきます。
まず取り組みたいのが、就業規則とシフトルールの書面化です。常時10人以上のスタッフを雇用する店舗には、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務付けられています。10人未満でも、以下を文書で残しておくとトラブル予防になります。
厚生労働省のモデル就業規則を参考にすると、ゼロから作るよりも大幅に手間が減ります。
関連記事:賃金支払い5原則とは?平均賃金や最低賃金・賃金台帳も解説
次のステップが、勤怠管理アプリや給与計算ソフトの導入です。
初期費用が抑えられ、月額数千円から始められるサービスも増えています。手計算によるミスや抜け漏れを防ぐ有効な手段です。
関連記事:給与計算の手順をわかりやすく解説。計算の注意点やよくあるミスとは?
店舗数が増えたり、スタッフ数が多くなったりすると、自社だけで対応しきれない場面が出てきます。次のような状態なら、外部の専門サービスを検討するタイミングです。
関連記事:【保存版】社労士が教える労務運営における効率化の方法12選
外部サービスには次の選択肢があります。
Remobaの労務BPOサービスは、給与計算・勤怠管理・社会保険手続きをワンストップで代行できます。飲食店のようにシフトが複雑で深夜勤務が発生しやすい業態でも、専門スタッフが実務を巻き取るため、経営者は店舗運営に集中できます。
飲食店の労務管理は、スタッフの採用から給与計算、社会保険手続きまで幅広い領域をカバーします。特に飲食店は長時間労働・深夜営業・アルバイト中心の雇用という構造から、労務トラブルが起きやすい業種です。
この記事の要点は次の4つです。
労務管理は後回しにしがちな領域ですが、整えておくことで将来のトラブルを大きく減らせます。日常の小さなルール作りから、一つずつ見直してみるとよいでしょう。