1. 【労働基準法改正】2020年4月〜|残業代請求等の変更点を総合的に解説
【労働基準法改正】2020年4月〜|残業代請求等の変更点を総合的に解説

【労働基準法改正】2020年4月〜|残業代請求等の変更点を総合的に解説

労務更新日:2024-09-23

2020年4月1日民法改正に伴い労働基準法の改正が行われました。労務管理上影響を受ける部分として賃金の時効延長が挙げられます。賃金とは基本給に限らず管理職手当や残業代なども含まれます。今回は労働基準法改正に伴い延長された残業代請求の時効延長など総合的に解説してまいります。

改正ポイント

旧労働基準法115条

改正前の労働基準法では、「この法律の規定による賃金(退職手当を除く)、災害補償その他の請求権は2年間(略)行わない場合においては、時効によって消滅する。」と定められていました。旧来は賃金請求権の時効を2年と定めていましたが、民法改正により契約に基づく債権の消滅時効期間は原則として債権者が権利を行使することを知った時から5年間に統一することとされました。

よって民法改正により、労働者保護を図る労働基準法の時効期間が民法の時効期間よりも短くなってしまい、労働者にとっては不利になることから、労働基準法上の時効消滅期間について延長されることとなりました。しかし、いきなり5年に統一してしまうと事務負担の壮大などが懸念され、実効性を確保する意味でも当分の間は3年にすることとされました。

賃金の時効

賃金の時効については2020年3月31日までは2年とされていました。しかし、2020年4月1日以降に支払いが発生する賃金については2年から5年(当分の間3年)に延長されました。よって、万が一不適切な賃金計算を行っていた場合、遡り是正となった場合は旧来よりも多くの額を支払う必要があるということです。

また、顕著な事例として残業代の計算が挙げられます。遡り是正の対象となるのは、残業代の計算式が誤っていた場合、残業代の基礎単価が誤っていた場合、そもそも支払っていない場合などが想定されます。残業代は賞与や退職金と異なり、対象となった場合は法律上必ず支払わなければならないもので、使用者側の裁量が働くものではありません

また、労働基準法第41条に規定する「管理監督者」として取り扱っている事業場で実態として管理監督者には当たらないとされた場合にも、当該期間に生じた時間外労働については残業代として支払いが必要となることから、労務管理上注意すべき点は多岐にわたります。 

給与明細の注意点

給与明細は支給額(基本給や残業代など)と控除額(所得税や社会保険料)ならびに残業時間数を記載しますが、それはあくまで使用者側からの一方的な通知であるため、正確で、かつ労働者が同意しているとまでは言えません。よって、給与明細書とは別に各月の残業時間について相違がない旨の合意を書面で取得しておくことで、将来的に残業代を遡り請求されるリスクは低減できると考えます。 

有給休暇請求権の時効

反対に、今回の法改正後も時効が延長されないものとして、有給休暇の請求権が挙げられます。有給休暇の請求権は2020年4月1日以降も旧来からの2年が維持されています。

これは、時効が3年に延びたことにより不適切な運用(例えば時効消滅延長を理由に有給休暇の取得が進まない)が常態化することを防ぐ意味もあると推察します。よって、残業代の時効延長と有給休暇請求権の時効は峻別して管理しなければなりません。

有給休暇中の賃金の時効

有給休暇中の賃金の時効は有給休暇請求権と異なり5年(当分の間3年)となります。尚、有給休暇中の賃金は以下の3通りとなります。

・平均賃金

・所定労働時間労働した場合の賃金

・健康保険法で定める標準報酬日額に相当する額(労使協定の締結が必要)

付加金の時効

解雇予告手当、休業手当、割増賃金、有給休暇中の賃金の支払いがなされない場合、裁判所が未払い額とその同額の賃金を付加金として支払う旨を命じることがあります。

この付加金の時効も2年から5年(当分の間3年)に延長されています。尚、付加金は裁判所から支払いを命じられる前に未払い額を支払っていれば支払う必要はありません。 

退職金の時効

退職金は労働基準法改正前後を問わず5年の時効で変更ありません

退職金は基本給や残業代よりも多額であることが多く、労働者保護の観点からも旧来から5年とされています。しかし、残業代と異なり、画一的に企業で支払いが義務付けられているものではないことからそもそも支給されない企業もあります。 

書類の保管

改正労働基準法以前から労働基準法上の書類の保管期限は3年と定められていました。当然改正労働基準法におって、2年経過から3年までの書類保管の重要性は増しています。

書類の保管方法については、紙保管の他、必要時に直ちに出力できる等の要件を具備しておくことで、電子端末上での保管も可能です。言うまでもなく、検索スピードや場所的な問題も総合的に勘案すると電子端末上での保管が有用です。

労働時間とは

労働時間とは労働者が使用者の指揮命令下におかれた時間と解されます。また、労働時間は就業規則や労働契約などにより形式的に定められるものではなく、客観的に判断されます。慢性的に不適切な労働時間管理がなされていた場合は是正対象となります。

所定労働時間と法定労働時間

所定労働時間とは会社で定める労働時間であり、法定労度時間は労働基準法上定められた時間であり、1日8時間、週40時間となります。そして、法定労働時間を超えて労働させた場合は割増賃金を支払わなければなりません

割増率

時間外労働については2割5分以上休日労働は3割5分以上深夜労働は2割5分以上時間外労働が深夜の時間帯に及んだ場合は5割以上休日労働が深夜の時間帯に及んだ場合は6割以上の割増率となります。尚、中小企業に対する2023年4月からの改正として、月60時間を超える時間外労働に対しては5割の割増率が適用されます。

時間外労働については、法定労働時間を超えた部分については上記の割増率が最低基準とされ、それを上回る率を定めることは問題ありませんが、下回ることは許されません。そして、所定労働時間が7時間の会社で7時間を超えて8時間に達する部分については労働基準法上の割増率が義務として課せられませんが、就業規則または給与規定(以下、就業規則等)において労働基準法と同様の割増率を適用することを定めている場合は当該就業規則等の最低基準効が働き、それを下回ることはできません。

 割増賃金の基礎となる賃金から除外されるもの

・家族手当

・通勤手当

・別居手当

・子女教育手当

・住宅手当

・臨時に支払われた賃金

・1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金

これらは限定列挙であり、上記に該当しない手当は割増賃金の基礎となる賃金に含めることとなります。また、家族手当と称していても家族数に関わりなく一律に支給される場合は割増賃金の基礎となる賃金に含めることとなります。

その他

滞留時間

滞留時間とは例えば所定労働時間が終了し、特段仕事がないにも関わらず社内で談笑するなど、仕事をしていない時間を指します。当然滞留時間に対しては賃金を支払う必要はありません

しかし、適切に労務管理ができていない企業の場合は、労働者から申請があった場合、画一的に賃金を支払っていることが珍しくありません。この点については、労働時間と峻別して考えるべきですが、一定の社員教育が必要との見方もあります。また、管理職としても部下への啓蒙と管理が必要です。

着替え時間

残業代請求のたびに議論になる部分として着替え時間の労働時間制が挙げられます。

まずは、始業時刻前に会社が指定する着衣室で会社が指定するユニフォーム(例えば安全保護具の装着)に着替えることを義務付けている場合当該時間は労働時間と解されます。しかし、着替え時間は従業員によっても異なるもので、着替えが遅い従業員ほど労働時間が長くなり結果的に賃金も増えてしまうのはいかがなものかという声もあります。

そこで、前述のような義務付けをしている企業の場合は着替え時間を一律で労働時間に参入するという運用が取られています。しかし、注意点はイレギュラー時の対応です。感染拡大防止の観点から旧来よりユニフォームの着用に時間を要してしまう(例えば追加の防護具の着用)場合には何らかの検討、対応をすることが求められます。

残業の上限時間

残業を命じるには36協定を締結し、所轄労働基準監督署長へ届け出なければなりません。その場合であっても残業時間は原則月45時間年間360時間となります。そこで、臨時的な場合に限り単月100時間未満(休日労働含む)、複数月(2~6カ月)平均80時間以下(休日労働含む)が上限となります。また、臨時的な場合とは年6回に限ります。

休憩時間とは

労働基準法では労働時間が6時間を超える場合には労働時間の途中に休憩を与えなければなりません

尚、休憩時間とは労働からの解放が保証された時間であり、休憩時間と称しながら、昼食と同時に昼間の来客当番を行わせている場合は休憩時間として評価されません。よって、当該時間は実質的に労働時間であったと判断された場合は賃金請求されるリスクがあります。尚、実際に来客や電話対応すらなかった場合でもそれは結果論であり、一定の心理的負荷は否定できず、実際に対応実績がなかったからといって解釈が変更されることにはなりません。

強行規定

割増賃金は労使双方で支払いを行わないとの申し合わせを行っていても強行法規であるがゆえに支払いを免れられることにはなりません。すなわち、労使双方で真意に基づいた合意があったとしてもその合意が無効となり、割増賃金の支払い義務があるということです。

健康診断受診に要した時間の賃金

特殊健康診断は業務遂行上実施しなければならないものであるため、所定労働時間内に実施することを原則とします。万が一、所定労働時間外に行われた場合は割増賃金の支払い対象となります。

派遣労働者への割増賃金

派遣労働者については法定時間外労働を行わせるのは派遣先の使用者であるものの、派遣元の使用者が割増賃金支払い義務を負います

タイムカードでの労務管理の注意点

タイムカードでの労働時間管理は手書きでの自己申告制と比べると客観的であると言えますが、毎日同じ時刻での出退勤となると時間調整がなされている可能性があり、注意が必要です。

また、36協定の限度時間が近づく月末等に毎日同じ時間での打刻が記録されている場合も同様の可能性が否定できなくなるため、管理職を含めて実態を確認することが適切です。

休業手当の時効

コロナ禍以降は労働者を休業させる企業が散見されました。まず、法的に休日、休暇、休業を確認しましょう。

休日とはそもそも就労義務がない日であり、休暇とは就労義務はあるものの労働者が権利を行使したことにより就労義務が免除された日を指します。そして、休業とは就労義務はあるものの使用者側から労務の受領を拒むことです。労働者には就労請求権(働くことを請求する)はありませんが、使用者側の事情により就労させない場合は一定の賃金補償が必要となります。

そこで、休業手当の支払い問題が議論となります。休業手当とは労働基準法上の平均賃金の100分の60以上であり、端的には平均賃金の6割を支払っていれば違法とはなりません。しかし、休業手当は不可抗力に該当する場合、支払いは不要となります。尚、休業手当の時効も残業代同様に5年(当分の間3年)に延長されます

最後に

近年は労働関係法令の法改正が頻発しており、労務担当者にとってもその負担は増しています。また、その中でも労働基準法は強行法規という性質上、改正後の対応を無視することはできません。また、近年のネット社会の性質上、労働者からの注目度も高いと言えます。

そして、重要な部分として残業代の時効消滅延長に戦々恐々とするのではなく、まずは、残業が発生する理由を精査し、仕事の棚卸、人員の適正配置など、単純に法改正に対応するだけでなく、他の部分にも目を向けることで「働き方改革」を推し進めることができると考えます。働き方改革は一朝一夕に完結するものではなく、労使双方がそのメリットを理解し、推し進めていくことがよりよい職場環境の形成にも繋がると言えます。今後も高齢化社会は解決の糸口が見えず、人手不足の状況は続きます。この法改正を契機として職場内の適正な労務管理に舵を切り生産性の高い職場環境を築いていくという姿勢が、同業他社との差別化にもつながり、労働生産性の向上にも資すると考えます。

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この記事の監修者

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柳沢智紀

株式会社リクルートホールディングスでWEBマーケティング業務および事業開発を経験し、アメリカの決済会社であるPayPalにて新規事業領域のStrategic Growth Managerを担当の後、株式会社Enigolを創業。対話型マーケティングによる顧客育成から売上げアップを実現するsikiapiを開発。

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