1. 採用・求人における注意点を判例を用いて丁寧に解説!
採用・求人における注意点を判例を用いて丁寧に解説!

採用・求人における注意点を判例を用いて丁寧に解説!

労務 更新日:
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自社の労働者となる前には求職者という形で採用するか否か面接を通じて決定することが多いでしょう。コロナ禍以降は感染拡大防止の観点から面接の形態もオンラインの導入など多様化しています。特にオンライン面接の場合は対面以上に機械的なトラブルへの事前対処法を用意しておくなどの周到さが重要です。

目次

今回は採用分野にフォーカスをあて解説してまいります。 

求人票作成時の注意点

求職者が応募の際に確認するものとして求人票があります。縁故採用の場合を除き、どのような職種でどのような労働条件で募集をしているのか気にならない求職者はいないでしょう。そこで、求人票を作成するにあたっての注意点を確認しましょう。

言うまでもなく求人票は求職者の申し込みに際しての誘引となることから、虚偽の内容を記載することは許されません。しかし、求人票作成時期と実際の採用時期が乖離している場合にはwithコロナ時代において採用時期まで同一の条件を維持できるかは断言できないとの意見もあります。

よって、万が一求人票に作成した条件と異なる場合は、最初の面接時に変更部分を伝えて認識齟齬を回避することが重要です。特に基本給や労働時間などは労働者の生活にとっても大きなウエートを占める部分であり、説明がなかった(または不足していた)場合には採用後にトラブルとなり、最悪の場合早期離職を招く恐れもあります。

また、近年は固定残業代を採用する企業が増えていますが、以下の内容を求人票に記載しなければなりません。

・固定残業代を除いた基本給の額
・固定残業代に係る労働時間数と金額等の計算方法
・固定残業代を超える時間外労働、休日労働、深夜労働には追加で割増賃金を支払うこと

上記の内容を記載しなければなりません。尚、ハローワークに寄せられる相談において、賃金(固定残業代含む)に関する相談は毎回上位に位置しています。

採用内定後の注意点

面接を終了し、採用内定を出した状態は法的にはどのような立ち位置となるのでしょうか。

採用内定後は「始期付解約権留保付労働契約」と呼び「始期付」とは、内定の時期から実際に入社し就労するまでは一定の期間があることから「始期付」と呼ばれています。また「解約権留保付」とは、入社までにやむをえない事由(例えば犯罪行為)が発生した場合には内定を取り消すことがあるため、条件付きの労働契約と解されます。

大日本印刷事件

採用内定後の採用取り消しのリーディング的な判例として大日本印刷事件があります。事件の内容は以下のとおりです。

会社が大学に対して入社希望の学生を推薦してもらうよう依頼し、求人をしました。その後、大学卒業予定の学生が大学の推薦を受けて求人へ応募し、筆記試験等を受け、その後面接を行い、採用内定通知書を受け取りました。当該採用内定通知書には誓約書が同封されていたことから、署名後に会社へ送付しました。
尚、採用内定通知書には一定の事由が確認された場合は採用内定を取り消されても異論がない旨が記載されていました。採用内定を得た学生は同時に他の企業にも応募していましたが、採用内定を得たことから辞退しました。すると、数か月後に採用内定を得た会社から採用内定を取り消す旨の通知を送付されてきました。時期的にも卒業直前であったため、他社への就職も難しく就職先が未定のまま大学を卒業することとなりました。そこで、従業員としての地位確認を求めて提訴に踏み切った事件です。

会社が出す求人募集に対する学生の応募は労働契約の申し込みであり、これを受けて行われた会社からの採用内定通知は当該申し込みの承諾と解され、学生からの誓約書の提出によって労働契約が成立したと考えるのが妥当と言えます。

しかし、当該労働契約は解約権が留保されたものであり、採用内定者が入社までの間に誓約書に記載されている内定取り消し事由に該当した場合、会社は解約権を行使できると解されます。しかし、会社が行う採用内定取り消しは実質的に労働契約の解約であり、その事由が社会通念上是認できるものでなければなりません。

また、採用内定を得た学生は他社への就職活動を辞めることも珍しくありません。採用内定の取り消し事由は採用内定を通知した当時では知ることができず、また、知ることが期待できない事実であり、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的な理由であり、社会通念上妥当と認められる場合に限られます。

今回の事件では学生の性格が陰気であることが採用内定の取り消し事由とされていますが、陰気な性格は採用内定を出す以前は全く予見できなかったとは言い難く従業員としての適格性は判断できたと考えられます。よって、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当な事由として是認できないとされ、解約権の濫用により、内定取り消しは無効と判断されました。

労働基準法と採用

労働基準法第3条では、使用者は労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由とした労働条件の差別的取り扱いを禁止していますが、労働者の雇入れは労働条件に含まれないものとされているため、その者の信条を理由として採用を拒んでも労働基準法第3条には違反しないと解されます。

三菱樹脂事件

「採用の自由」について、最高裁まで争われた三菱樹脂事件を確認しましょう。事件の概要は以下のとおりです。

大学を卒業し、会社に採用された者が採用試験時に学生運動に参加していたにも関わらず虚偽の回答をしたことが発覚し、会社は試用期間中であった当該従業員の本採用を拒否し、解雇しました。そこで、従業員の本採用拒否は思想、信条の自由を侵害するものであり、本採用拒否(解雇)は無効であるとして提訴しました。

憲法と法律における事由

日本国憲法第14条において、『すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。』とされています。

また、日本国憲法第19条では、『思想及び良心の自由はこれを侵してはならない。』とされています。

しかし、憲法は国民の権利や自由を守るために国がおこなってはならないことを定めたものです。反対に法律は個人や会社が守らなければならないもので、違反すると処罰されることもあります。よって、法律と憲法では向いている方向が違うと言えます。

日本国憲法22条では『何人も公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。』また、同29条では『財産権は、これを侵してはならない。』として経済活動の自由などを広く保障しています。

そこで、会社として経済活動の一環としては契約の自由があり、どのような者を雇い入れるか、また、どのような条件で雇入れるかは法律によって特別な制限がない限り、原則として自由に決定できる部分です。よって、会社が特定の思想や心情を理由として雇い入れを拒んでも、そのことをもって当然に違法とすることはできません。

また、労働基準法第3条は労働者の信条等により労働条件(例えば賃金)について差別的取り扱いをすることを禁止しているのであり、いわば採用後の制限であり、雇入れそのものを制限する規定ではありません。よって、雇入れについては広い範囲で自由があると言えますが、一旦雇入れた後においては規制があるということです。当然雇入れ後に特定の信条を理由とした解雇は違法と解されます。

尚、近年は少なくなっていますが、学生運動自体が解雇事由として正当か否かは議論の余地はあると言えます。

採用におけるその他の事項

労働条件通知書

労働基準法第15条に「労働条件の明示」として以下の定めがあります。『使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法(書面の交付)により明示しなければならない。』とされています。

明示すべきタイミングは「労働契約の締結に際し」であり、労働基準法上は募集時点での明示を義務付けているということではありません。しかし、職業安定法上では一定の明示が必要です。また、有期労働契約の期間が満了した場合に契約を更新する際には再度明示が必要です。

採用後のフォロー

中途採用が活況となってきた現代においても新卒一括採用はなくなることはありません。そこで、能力不足が散見する場合もあります。その場合、直ちに解雇に踏み切るという判断は短絡的です。特に中途採用に比べて新卒者は社会人経験も乏しく会社として一定期間育成し、成長する機会を付与することが求められます。そこで研修の受講や能力の向上を図ることができる機会を与え、場合によっては配置転換を命じることも選択肢です。

また、どのような取り組みをおこなったかを記録として残しておくことで将来的に同様の事案に遭遇した場合には参考にすることができます。

採用担当者としての留意点

面接官から見た場合の異性を採用する場合は同性以上に注意が必要です。同じ面接であったとしても同性と異性では印象が異なり、同性の場合の方がビジュアルや雰囲気に影響されにくく、冷静な判断がしやすいと言えます。そこで、あえて求職者と同性の面接官を入れる等の対応が妥当と考えます。また、人員の関係でその選択が難しい場合は、来社時の受付を担当した者の証言を参考にするなどの対策もあり得ます。

一度採用をしてしまうとミスマッチであった場合には労使双方にとって不幸となることもあり、おさえておきたい部分です。 

今後の採用の展望

コミュニケーション能力

withコロナの時代においてはエッセンシャルワーカーを除き、労務の提供場所は対面一択ということは少ないでしょう。そこで、場所的に離れた空間でも業務を完遂していくにはコミュニケーション能力は必須と言えます。これは文字のみでのやりとりとなると相手に尖った印象を与えることが多く、プラスアルファのコミュニケーションを取りながら円滑な業務遂行を目指すという発想が重要です。

また、その後の人生にも大きな影響を与える学生時代の過ごし方についても昭和、平成、令和と3つの時代を過ごした労働者が混在していくことから、そもそも価値観が一致していることは少なく、コミュニケーション能力は無視できないものと考えます。

ITスキル

リモートワーク促進の時代背景上、採用にあたっては一定のITスキルは必須能力と言えます。また、見切り発車的にリモートワークを開始した企業においては、特にベテラン層へのレクチャーに難渋したケースが散見され、一定以上のITスキルを有した新規採用者がベテラン層へレクチャーをすることで、シナジー効果を生み出していきます。

また、新規採用者自身も早期に自信の存在価値を示すことができ、採用後の早期離職の防止にも繋がると考えます。

主体性

我が国は戦後の高度経済成長期からメンバーシップ型の人事施策が一般的であり、今後も当分の間はメンバーシップ型の人事施策が主流であると考えます。メンバーシップ型の人事施策は年齢や入社年、労働時間等によって賃金が決定する制度であり、コロナ禍以降は時代にそぐわない制度と揶揄されることも多くなってきました。

そこで、欧米で見られる仕事と賃金が紐づくジョブ型の人事施策への転換が叫ばれていますが、職務記述書の作成など、完全に導入するには相当の時間を要することから、メンバーシップ型を基軸として、一部ジョブ型を導入する動きが出てきています。その場合、主体性を持ち自身のスキルアップ等を行っていかなければ仕事に紐づいた賃金ゆえに、年齢や勤続年数が上昇したとしてもメンバーシップ型のように賃金も上がっていくということにはならないため、自身のモチベーションも困難を極めます。

最後に

採用は会社にとっても労働者にとっても一つの大きなイベントであり、多いとは言えない事前情報の中から決断を迫られます。また、法律上は労使対等の立場とは言いつつも事実上、使用者側の方が強い立場にあることから、双方で認識に隔たりが生まれることも少なくありません。また、実際に採用をするまでには求人票の作成から始まり、多くの時間と労力をかけることとなります。そこで、可能な限り適正に情報を開示し、ミスマッチが生まれにくい採用活動を展開していくことが労使双方にとって有益であると考えます。

 

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この記事の監修者

蓑田真吾のプロフィール画像

社会保険労務士

蓑田真吾

社会保険労務士(社労士)独立後は労務トラブルが起こる前の事前予防対策に特化。現在は労務管理手法を積極的に取り入れ労務業務をサポートしています

資格
社会保険労務士
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