健康保険証廃止で企業はどう対応する?人事・労務担当者の実務ポイントを解説

健康保険証廃止で企業はどう対応する?人事・労務担当者の実務ポイントを解説

労務更新日:2026-03-15

2024年12月1日をもって健康保険証が廃止され、2025年12月2日以降は使用不可に。マイナ保険証への移行や資格確認書の取り扱い、入退社手続きの変更点、想定トラブルへのリスク回避策まで、企業の人事・労務担当者が押さえるべき実務対応を網羅的に解説します。

医療機関等を受診する際、保険診療を受けるためには、これまで健康保険被保険者証(以下、保険証)を窓口で提示することが求められていました。しかし、2024年12月1日をもって、保険証は廃止され、2025年12月2日以降、保険証は使用できなくなります。今回は企業が直面する当該改正において実務上重要度の高い論点に絞って解説していきます。

保険証廃止で企業実務はどう変わる?

保険証廃止のスケジュール

2025年12月1日までは保険証使用可能
2025年12月2日からは新規発行が終了(原則、マイナ保険証での受診)

経過措置の有無

マイナンバーカードを持ち合わせない者に対して資格確認書の交付があります。また、厳密には保険者によって様式、発行形態は異なりますが、有効期限は、5年以内において各保険者が定めることとなっています。

「従業員から何を聞かれるのか?」

まず、企業労務に精通している一部の従業員を除き、保険証廃止後の「医療機関受診方法」についての質問が最も多くなります。後述するマイナ保険証への切り替えが望ましいものの、マイナンバーカードを持ち合わせていない場合は、「資格確認書」を用いて受診することが可能です。なお、資格確認書は各保険者より無償で交付されます。

マイナ保険証の位置づけ

マイナ保険証とは、保険証の「利用登録」がなされた「マイナンバーカード」のことです。旧来の保険証で行っていた医療機関・薬局での受付をマイナンバーカードで行うことができ、デジタル化の一つの施策として運用が開始されています。マイナ保険証を使用する際は、医療機関や薬局の受付に設置されている顔認証付きカードリーダーで受付を行います。当然、システマチックに正確な本人確認や資格確認ができ、同意に基づき、過去の医療情報や処方された薬の情報を共有できるなどのメリットがあります。他にも限度額適用認定証を提示することなく、窓口にて高額療養費制度の限度額を超えた額の一時的な支払が不要になることから、急な怪我や病気による手術や入院が必要になった場合であっても安心して医療を受けることができるようになります。

企業に直結する実務変更点

入社手続きはどう変わるか

中小企業の実務においては、マイナンバーカードを持ち合わせているか否かを事前に把握できないことも多くあるため、発行を希望する場合には、入社手続き時に資格取得届の中の「資格確認書発行要否」欄へ「発行を希望する」にチェックをいれることで、保険者より資格確認書が会社宛てに交付されますので、その後各従業員へ交付することとなります。

退職時の対応は?

資格確認書も保険証同様に退職日までが有効であり、退職日の翌日(いわゆる資格喪失日)からは使用することができません。退職後は旧保険証同様に、本人だけでなく、扶養家族全員分の資格確認書を速やかに回収し、保険者へ返送する必要があります。また、紛失した場合は、「健康保険被保険者証回収不能届」を送付しなければなりません。

扶養認定は?

旧来同様に通常の入社手続きとあわせて扶養異動届の手続きが必要です。また、被保険者と同様に被扶養者についても「資格確認書発行要否」欄へ「発行を希望する」にチェックをいれることで、保険者より資格確認書が交付されます。

資格確認書の扱い

効力としては保険証と同じです。また、資格確認書のメリットとしては、病態の変化などにより、マイナ保険証での顔認証付きカードリーダーが読み込めないときは、資格確認書を持ち合わせておくことで安心材料になります。しかし、資格確認書を持つことで物理的な「個人情報」を多く持つこととなるため、人事部門としてはその点も踏まえた助言が望まれます

人事が今すぐやるべき対応チェックリスト

従業員への周知文並びに社内Q&Aの整備

前述の通り、従業員からの質問対応は都度人事部門が時間を取られてしまう要因となるため、予め周知文の作成をしておくことが望まれます。質問の上位を占める内容としては以下の3点が挙げられます。

  • 医療機関受診時の対応
  • 資格確認書が発行されるまでの期間(保険者にもよるため、事業所ごとの平均値を記載しておくことで客観性のある案内となり得る)
  • 紛失した場合の対応(再交付も可能)

入社時説明資料の改訂

多くの企業の場合、入社時の説明資料を予め作成しておき、人事部門の工数を削減する取り組みがなされていますが、当然、今回の改正にあたっての資料改訂が求められます。特に保険証の新規発行終了は報道等でも盛んに取り上げられていたため、未整備の場合は不安感を持たれてしまうことにも繋がります。また、オリジナルの資料ではなくとも、各保険者がオンライン上で公開している資料を引用することで情報精査の時間も節約することができ、早期に周知体制が整うことでしょう。

マイナンバー管理体制の再確認

旧来通り、マイナンバーに限らず個人情報の管理は徹底が求められますが、特にマイナンバーは様々な個人情報を集約している関係で、より徹底した管理が求められます。システム入力時のダブルチェックはもとより、管理する側も不必要にマイナンバーに接触可能な人員を増やすのは得策とは言えない面があります。

想定トラブルとリスク回避策

マイナンバーカード未取得者への対応

当然、資格確認書がなければ医療機関への受診ができないため、入社手続き時に資格取得届の中の「資格確認書発行要否」欄へ「発行を希望する」にチェックを入れる作業が必要です。また、マイナンバーカードが従業員の手元にないゆえに、マイナンバーを誤って記載したことで、手続きが滞るといった全面的に人事部門側に非があるとは言い難い事例であっても、このような事象が生じた際には双方気持ちの良いことではありません。また、現在は廃止されているマイナンバー通知カードを確認後に確実なマイナンバーを報告してもらうように対応すること、あるいは、マイナンバー記載付きの住民票を取得したのちに報告してもらうことが望まれます。また、マイナンバーカードは保有しているものの暗証番号が不明で再設定しなければならないケースも想定しておく必要があります。その場合、住民登録のある市区町村窓口にて、初期化・再設定が可能です。よって、該当者には、個々人の住民登録のある市区町村窓口に問い合わせするよう進言することが適切です。

高齢社員・外国人社員対応

言葉を選ばず申し上げるとこれらの高齢社員、外国人従業員は人事部門としてやりとりにより多くの時間を要することが考えられます。しかし、手続きが遅れることで資格確認書の到着が遅れることは誰もが望まない結果であるため、入社が決定した段階で、早めに準備をしておくことが望まれます。現在はテレワークから徐々に出社に「回帰」する企業が増えていますが、テレワークと出社、あるいは現場直行型の職種の場合は、日常的に社内に出勤する従業員と比べて情報を取得できるまでに更に時間を多く見積もっておくことが望まれます。

被扶養者対応

修学旅行等の学校行事や部活動の合宿や遠征、あるいは幼少の為、被扶養者自身での管理が難渋する場合(例えばそもそも被扶養者である児童等がマイナ保険証を持参すること自体が容易ではない場合)の対応についても意識しておく必要があります。この場合、保育所等が保護者に代わって園児等を連れて医療機関等を受診する場合、予めマイナポータルから取得できるPDFファイル(印刷可)や資格情報のお知らせ(写し可)を提示するといった柔軟な対応も可能となりますが、念のため受診予定の医療機関へ確認を入れておくよう進言しておくのが無難です。

休職者対応

休職中の従業員については、社内での周知が行き届かないため、別途周知する必要があります。更に休職中ということは、一般的には病気療養のためといった事情が多く、医療機関への受診は通常の従業員よりもより高頻度であることが多いでしょう。そうなると、周知はより重要な意味を持ちます。また、顔認証端末は、車椅子の方でも顔認証ができるように広角レンズを用いていること、端末を取り外し、手元で操作も可能です。また、受付の窓口が物理的に高い位置にあるため、端末の操作に難渋する場合には、医療機関等の職員がカードの写真を確認し、受付をする方法(目視モード)も搭載されていますので該当し得る休職者には別途情報提供することで信頼関係の醸成に寄与すると考えられます。

情報管理リスク

また、マイナンバーが不明の場合、協会けんぽの場合は、基礎年金番号でも資格取得の申請は可能ですが、健保組合の場合、原則としてマイナンバーが求められます

医療費について

マイナ保険証と資格確認書、旧来の保険証いずれかの中で、医療費に差が出ることはありません

マイナ保険証を利用登録しているか否かの確認

マイナ保険証の利用登録はマイナポータルのログイン後のトップ画面で確認することができます。

実務対応モデル(中小企業向け)

規模別の対応例

大企業の場合、個人情報は特定のシステムを用いて厳重に管理されます。従業員個々人が当該システムにアクセスして自身の情報を報告できるシステムが構築されています。また、企業にもよりますが、人事部門には勤務社会保険労務士や人事労務業務に習熟した社員を雇用していることもあり、様々な事例に対しても多くの蓄積された知見を基に組織作りされています。しかし、順調な時ほど危険が潜んでいるということもあり、当該システムは定期的にメンテナンスをしていく必要性が高く、メンテナンス中はアクセスができなくなること等の一定の制約がありますので、事前にアクセス不可となる時間帯を案内しておくことで無用なトラブルを防止できます

次に中小企業の場合は、大企業のようなシステムは採用されておらず、アナログで管理されているケースが多くあります。もちろん鍵付きのキャビネットへの保管等はされていますが、大企業のようなシステムにより一元管理と言ったケースは多くありません。しかし、メンテナンスにより一定の時間アクセスできなくなる等の事情はないといったメリットがあります。

顧問社労士との連携方法

手続きについては顧問社労士に入退社等の手続きの依頼をしているケースは増えてきています。多くの場合、士業については、まずは顧問税理士、次に人の採用が増えてくれば顧問社労士といった意思決定をする事業所が多い印象です。その場合、社内の従業員と直接的に接触する人事部門の職員は、顧問社労士と速やかな連携体制を構築することで滞りない手続きが実現できます。昨今、デジタル化への移行が進み、対面を前提としなくても外部の専門家との連携が可能となっています。

保険証廃止は「手続きの話」ではない

労務DXへの入口

今後AIの発達はより加速し、ペーパーレスを始め、「労務DX」はより加速していくことが容易に想像できます。しかし、法改正がなされるたびに自動化されたプログラムは一度テコ入れが必要となるため、そこには「人の目と手」が必要となる点は否めません。保険証の廃止は単なる手続きの話で終わらず、後述する法改正を見据えた労務管理にシフトしていくべき時期に突入していることを認識する契機とすべきです

今後の制度改正への備え

社会保険関係の法令は近年目まぐるしい改正が行われており、特に健康保険・年金関係の改正は複雑かつ、改正頻度も多いため、人事部門の負担の大きさは容易に想像できます。また、法改正前後は行政窓口への問い合わせも混雑するため、その点も踏まえた業務スケジューリングが必要です。

最後に

人事部門と労務管理は切っても切り離せず、労働関係に関する対応だけでなく、社会保険関係への対応も年々難化傾向にあります。特に医療機関への受診は「会社を出た後」が多く、人事部門に連絡がつかない時間帯になることから、会社に在社しているうちに全て解決したいという心理にかられ、人事部門には多くの質問が寄せられることが多い傾向にあります。

しかし、多くの場合は質問には一種の傾向がみられることから、人事部門内で当該質問の傾向を共有し、習熟した職員が不在であっても、業務が滞ることのないよう、また、俗人化することのないように業務運営体制を構築しておくことが望まれます

SaaS×BPOで人事労務業務を効率化

人事労務クラウドサービスの導入や運用を任せるならSaaS運用のプロ "Remoba"

資料バナー

この記事の監修者

蓑田真吾のプロフィール画像

株式会社Enigol

蓑田真吾

千葉経済大学経済学部経済学科卒業。東京都社会保険労務士会所属(登録番号 第13190545号)。 都内医療機関において、約13年間人事労務部門において労働問題の相談や社会保険に関する相談を担ってきた。対応した医療従事者の数は1,000名を超え、約800名の新規採用者、約600名の退職者にも対応してきた。社労士独立後は労務トラブルが起こる前の事前予防対策に特化。現在は様々な労務管理手法を積極的に取り入れ労務業務をサポートしている。また、年金・医療保険に関する問題や労働法・働き方改革に関する実務相談を多く取り扱い、書籍や雑誌への寄稿を通して、多方面で講演・執筆活動中。

資格
社会保険労務士

\ Remobaなら労務をまるっと請け負います/

サービス一覧

Remoba経理
Remoba労務
Remoba採用
Remobaアシスタント
Remobaチャット
Remoba営業事務
Remoba医療事務
バナーを閉じるボタン