IPO準備で経理・財務が整えるべきこと|上場準備で必要な管理体制・会計方針を解説

IPO準備で経理・財務が整えるべきこと|上場準備で必要な管理体制・会計方針を解説

経理更新日:2026-07-04

IPO準備で経理・財務が早めに整えるべきことを、月次決算、資金管理、会計方針、内部統制、監査対応の観点から解説します。N-2・N-1期になってから慌てないために、必要な管理体制と監査対応のポイントを整理します。

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シリーズB以降の資金調達やIPOを視野に入れたタイミングで、経理・財務が最初に直面するのは「今の数字や管理体制で監査に耐えられるのか」という問題です。

創業期は、会計ソフトへの入力や税務申告に必要な資料整理ができていれば、経理業務は回っているように見えます。しかし、IPO準備ではそれだけでは足りません。

月次決算を早く正確に締めること。予算と実績の差異を説明すること。資金管理や支払承認の仕組みを整えること。監査法人が検証できる資料を残すこと。これらを早い段階から整えておく必要があります。

監査法人やIPOアドバイザーとの面談では、月次決算の締め状況、会計方針、資金管理、証憑保存、システム運用、内部統制の状況を確認されます。

会計監査を受けるための最低ラインとして、決算に必要な情報を収集できること、一定の内部統制が存在すること、決算内容を第三者が検証できることが整理されています。(参考)日本公認会計士協会のIPO事前準備ガイドブック

IPO準備は、上場直前にまとめて整えるものではありません。N-2期やN-1期になってから経理体制を急に整えようとすると、過去処理の見直し、資料整備、システム設定、内部統制対応が一気に重なります。結果として、社内工数や外部コストが大きくなり、IPOスケジュールに影響することもあります。

本記事では、IPO準備で経理・財務が早めに整えるべきことを、月次決算、資金管理、会計方針、内部統制、監査対応の観点から解説します。

IPO準備とは

IPO準備とは、株式を証券取引所に上場するために、経理・財務や内部管理体制、会計方針、資料開示などを、上場企業に求められる水準へ整えていく一連の取り組みを指します。一般に上場申請期(N期)から逆算して数年かけて進めるもので、なかでも経理・財務体制の整備は、監査対応やスケジュールを左右する土台になります。

IPO準備で経理・財務に求められる役割

IPO準備における経理・財務の役割は、記帳や税務申告の延長ではありません。

上場を目指す会社では、投資家、監査法人、主幹事証券、証券取引所に対して、会社の数字を説明できる状態を作る必要があります。そのためには、会計ソフトに入力しているだけでは不十分です。

必要なのは、毎月の数字を早く正確に締め、予算との差異を説明し、資金管理や支払承認の仕組みを整え、第三者が検証できる資料を残すことです。

関連記事:スタートアップ経理の業務内容・特徴・体制づくりを解説

記帳や税務申告だけでは足りない

非上場の段階では、税務申告を目的に経理を行っている会社も多くあります。

資金管理と支払承認体制あ税理士に記帳や決算申告を依頼し、法人税や消費税の申告ができていれば、最低限の経理は回ります。しかし、IPO準備では、税務申告のための数字だけでは足りません。

監査法人は、会社の財務諸表が会計基準に従って作成されているかを確認します。税務上問題がないことと、財務会計上適切であることは同じではありません。

たとえば、売上をいつ認識するか、引当金を計上すべきか、固定資産の減損が必要か、資産除去債務を認識すべきかといった論点は、税務申告だけを目的にした経理では後回しになりやすい部分です。

IPO準備では、税務会計から財務会計へ、経理の考え方を切り替える必要があります。

監査法人に説明できる数字と管理体制が必要になる

IPO準備では、数字そのものだけでなく、その数字を作る体制も見られます。

月次決算をいつ締めているか。誰が仕訳を入力しているか。誰がレビューしているか。証憑や契約書はどこに保存されているか。支払承認は誰が行っているか。こうした経理・財務の運用体制が確認されます。

監査法人に説明できる数字とは、単に試算表が出ている状態ではありません。売掛金、買掛金、固定資産、前払費用、未払費用、引当金などの残高について、補助資料や計算根拠を示せる状態です。

数字の根拠が担当者の頭の中にしかない状態では、監査対応は難しくなります。第三者が見ても分かる資料を残しておくことが、監査対応の前提になります。

N-2・N-1で慌てるとコストと工数が大きくなる

IPO準備では、上場申請期をN期、その前期をN-1期、さらにその前期をN-2期と呼ぶことがあります。

一般に、上場準備ではN-2期やN-1期の監査対応が重要になります。新規上場申請において、最近2年間に終了する各事業年度等の財務諸表について、金融商品取引法に準じた監査報告書の添付が必要になることが示されています。(参考)JPXの新規上場ガイドブック

また、日本公認会計士協会のIPO事前準備ガイドブックでは、監査対象期間に入ってからの遡及監査の依頼は難しい場合が多いとされています。

N-2やN-1になってから経理体制を急に整えると、月次決算の見直し、会計方針の修正、証憑や契約書の整理、システム権限の見直し、内部統制の整備が一気に発生します。

早めに完璧な体制を作る必要はありません。ただし、月次決算、資金管理、証憑管理、支払承認、システム運用の基本ルールは、できるだけ早い段階から整えておくべきです。

コメント:公認会計士・税理士 辻田和弘

公認会計士・税理士 辻田和弘

IPO準備でよくあるのは、N-2やN-1になってから「監査法人に言われたので急いで整える」というケースです。この場合、過去の月次資料を作り直したり、証憑を探したり、システムの権限設定を見直したりするため、社内工数も外部コストも大きくなります。早めにすべてを完成させる必要はありませんが、月次決算、資金管理、証憑保存、支払承認の基本ルールは、IPOを意識した段階で整え始めるべきです。

IPO準備はいつから経理・財務体制を整えるべきか

IPO準備では、上場申請期から逆算して経理・財務体制を整える必要があります。

上場申請の直前に経理体制を整えればよいわけではありません。監査対象期間に入る前から、決算に必要な情報を集められる状態、一定の内部統制が運用されている状態、第三者が検証できる資料が残っている状態を作る必要があります。

フェーズ

経理・財務が整えること

N-3以前

月次決算、資金管理、会計方針、システム運用の土台を作る

N-2

監査対象期間として、決算・内部統制・証憑管理を運用する

N-1

上場会社に近い水準で月次・予実・内部管理体制を運用する

申請期

申請書類、監査対応、審査対応、開示資料の整備を進める

N-3以前:月次決算・資金管理・会計方針の土台を作る

N-3以前は、IPO準備の土台を作る時期です。

この段階では、完璧な経理体制を作ることよりも、毎月同じ流れで数字を締められる状態を作ることを優先します。

具体的には、月次決算の締め日を決める、証憑回収のルールを作る、支払承認の流れを整理する、資金繰り表を作る、会計方針の論点を洗い出す、クラウド会計やワークフローの運用を始める、といった対応です。

人数が少ないうちにルールを作っておくと、後から定着させやすくなります。従業員数が増えてからルールを変えると、社内説明や教育の負担が大きくなります。

N-2:監査対象期間として運用できる状態にする

N-2期では、経理・財務の運用が監査対象になることを意識する必要があります。

試算表が出るだけでなく、残高の根拠資料があること、証憑や契約書が保存されていること、支払承認や権限管理が運用されていることが求められます。

この時期に、月次決算が数ヶ月遅れている、証憑が担当者のローカルフォルダに分散している、支払承認の証跡が残っていない、会計方針が整理されていない状態だと、監査対応の負荷が大きくなります。

N-2期に入る前に、最低限の経理運用を整えておくことが、手戻りを減らす土台になります。

N-1:上場会社に近い管理体制で運用する

N-1期は、上場会社に近い管理体制で運用する時期です。

月次決算の早期化、予算実績管理、支払承認、証憑保存、会計方針、システム権限、内部統制などについて、実際に運用できていることが求められます。

この段階では、「ルールを作った」だけでは不十分です。ルール通りに運用され、記録が残っていることが求められます。

経理・財務は、単に処理をする部門ではなく、会社の数字と管理体制を支える部門として機能する必要があります。

申請期:資料作成と審査対応が中心になる

申請期は、上場申請書類、監査対応、審査対応、開示資料の整備が中心になります。

この段階で月次決算や証憑管理、会計方針、システム運用を一から整えようとすると、申請準備と改善対応が重なります。

申請期に集中すべきなのは、すでに運用されている管理体制を前提に、資料作成や審査対応を進めることです。そのためには、N-3以前やN-2期から、経理・財務体制の土台を整えておく必要があります。

監査を受けるために経理体制で整えておきたい最低ライン

IPO準備で重要なのは、監査法人に相談する前に、監査を受けられる状態を作ることです。

監査法人は、決算書が正しいかどうかだけを見ているわけではありません。その決算を作るために必要な情報が集まるか、社内に一定のチェック体制があるか、第三者が検証できる資料が残っているかを確認します。

日本公認会計士協会のIPO事前準備ガイドブックでは、会計監査を受けるための最低ラインとして、次の3つが整理されています。

  • 決算に必要な情報を収集できること
  • 一定の内部統制が存在すること
  • 決算内容を第三者が検証できること

決算に必要な情報を収集できること

まず必要なのは、決算に必要な情報を集められることです。

売上、請求、入金、支払、給与、経費、固定資産、契約書、稟議、在庫、前払費用、未払費用など、決算に必要な情報が社内のどこにあり、誰が管理しているかを把握する必要があります。

たとえば、契約書が営業担当者の個人フォルダにあり、経理が見られない状態では、売上計上や契約条件の確認に時間がかかります。請求書や領収書が月末にまとめて集まる状態では、月次決算も遅れます。

IPO準備では、必要な情報が毎月決まったタイミングで経理に集まる仕組みを作ります。

一定の内部統制が存在すること

次に必要なのは、一定の内部統制です。

内部統制とは、会社の業務が正しく行われるようにする仕組みです。経理・財務でいえば、支払承認、権限管理、証憑保存、残高照合、レビュー、承認履歴などが含まれます。

内部統制は組織の規模や事業特性に応じて整備・運用されるものと整理されています。(参考)金融庁の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」f

たとえば、支払データを作成する人と承認する人が同じで、銀行口座の権限もその人に集中している状態は、統制上のリスクがあります。

少人数のスタートアップでは、完全な分業が難しい場合もあります。しかし、その場合でも、経営者への通知、承認履歴の保存、口座残高の定期確認など、最低限の牽制を作ることが現実的です。

決算内容を第三者が検証できること

最後に必要なのは、第三者が決算内容を検証できることです。

経理担当者が「この数字で合っています」と説明できても、根拠資料がなければ監査法人は検証できません。試算表の残高と補助資料の数字が一致していること、計算根拠が残っていること、契約書や請求書などの証憑が確認できることが必要です。

監査対応で求められるのは、担当者本人しか分からない資料ではなく、第三者が見ても理解できる資料です。

IPO準備で経理・財務が整えるべき主な領域

IPO準備で経理・財務が整えるべき領域は多岐にわたります。

ただし、最初からすべてを完璧に整える必要はありません。優先度が高いのは、月次決算、予実管理、資金管理、会計方針、証憑・契約書、システム運用、原価計算・管理会計の仕組みです。

領域

整えるべきこと

確認ポイント

月次決算

締め日・担当・レビュー手順を決める

月次試算表を毎月何営業日で出せるか

予算実績管理

予算と実績の差異を説明できる状態にする

売上・人件費・広告費・開発費の差異理由を説明できるか

資金管理

支払承認・残高照合・権限分離を整える

支払データ作成者と承認者が分かれているか

会計方針

税務会計から財務会計基準へ見直す

売上認識、引当金、減損、資産除去債務の論点を洗い出しているか

証憑・契約書

監査で確認できる保存体制を作る

契約書・請求書・稟議を第三者が探せる状態か

システム運用

権限設定・承認フロー・変更管理を整える

誰が申請・承認・権限付与するか決まっているか

原価計算・管理会計

部門別・PJ別の損益を把握する

PJコードや工数管理で原価を集計できるか

月次決算の早期化

IPO準備では、月次決算の早期化が求められます。

月次決算が遅いと、経営判断が遅れるだけでなく、予実管理、資金繰り、投資家報告、監査対応にも影響します。

月次決算を早めるには、担当者の努力だけに頼らないことが大切です。締め日、作業担当、レビュー担当、提出期限を決める必要があります。

また、請求、支払、給与、経費、固定資産、前払費用、未払費用など、毎月確認する項目をチェックリスト化しておくと、担当者が変わっても同じ手順で月次を締めやすくなります。

関連記事:月次決算が遅い原因とは?データ確定の遅れ・作業負荷に分けて解説

予算実績管理と事業計画

IPO準備では、予算と実績の差異を説明できる状態が必要です。

事業計画を作るだけでは不十分です。毎月の実績と比較し、なぜ差異が出たのか、今後どう改善するのかを説明できる状態を作る必要があります。

特にスタートアップでは、採用、広告、開発投資の意思決定が業績に大きく影響します。月次で予実を確認し、経営判断に使える管理資料を作ることで、事業計画の精度も上がります。

資金管理と支払承認体制

資金管理は、IPO準備で早めに整えるべき重要領域です。

支払データを作成する人と承認する人を分ける、振込前に経営者や管理責任者が確認する、マスタ追加権限を制限する、口座残高を定期的に確認する、といった仕組みが必要です。

また、通帳、印鑑、キャッシュカード、インターネットバンキングの権限が一人に集中している状態は避けるべきです。

資金管理の不備は、単なる経理ミスでは済みません。不正送金や横領などの資金インシデントが起きると、投資家からの信頼を失い、次の資金調達に影響する可能性があります。

関連記事:資金繰りってなに?資金繰り表の作り方がわかる!改善方法10選

コメント:公認会計士・税理士 辻田和弘

公認会計士・税理士 辻田和弘

スタートアップでは、少人数のうちは支払権限や口座管理が一人に集中しがちです。ただし、不正送金や横領などの事案が起きると、投資家の信頼を失い資金調達の障害になる可能性があります。支払データの作成者と承認者を分ける、マスタ追加権限を制限する、経営者に支払通知が届く仕組みを作るなど、最低限の分離統制は早めに整えるべきです。

会計方針の見直し

IPO準備では、会計方針の見直しも必要です。

非上場の段階では、税務申告を目的とした会計処理で運用している会社もあります。しかし、IPO準備では、財務会計の観点から会計方針を整理する必要があります。

売上の認識時点、棚卸資産の評価、固定資産の減価償却、減損、引当金、資産除去債務、金融商品、退職給付など、会社の事業内容に応じて論点を洗い出します。

会計方針の見直しでは、過去データや契約内容の確認が必要になることもあります。早めに論点を洗い出しておくと、直前期に過去データをさかのぼって修正する負担を抑えられます。

証憑・契約書・稟議の保存体制

監査対応では、証憑や契約書の保存体制も重要です。

請求書、領収書、契約書、稟議、発注書、検収書などが適切に保存されていなければ、取引の根拠を確認できません。

クラウドストレージや証憑管理システムを使う場合でも、保存場所、ファイル名、アクセス権限、保存期限、承認履歴を決めておく必要があります。

保存ルールが整っていると、監査法人から資料を求められたときにも、社内で探し回る時間を減らせます。

システム運用とIT全般統制

IPO準備では、会計ソフト、経費精算、ワークフロー、勤怠管理、販売管理などのシステム運用も確認対象になります。

システムを導入していても、権限設定や承認フローが曖昧なままでは、統制として十分とはいえません。誰が申請し、誰が承認し、誰が権限を付与・変更するのかを決める必要があります。

特に、管理者権限、マスタ変更権限、支払承認権限、会計データの修正権限は、担当者任せにしないことが大切です。権限変更の履歴や承認記録が残る状態にしておくと、監査対応でも説明しやすくなります。

人数が少ないうちにシステム運用ルールを定着させると、後からの変更負担を抑えやすくなります。従業員が増えてからルールを変えると、社内説明や教育の負担が大きくなるためです。

原価計算・管理会計の仕組み

スタートアップでは、事業が成長するにつれて、部門別・プロジェクト別の損益管理が必要になります。

売上が伸びていても、固定費を配賦すると実は利益が残っていないプロジェクトが見えることがあります。事業判断の精度を上げるには、早い段階から管理会計の仕組みを整える必要があります。

たとえば、製造原価と販管費を分ける、部門コードを設定する、プロジェクトコードを発番する、工数比や人数比で費用配賦ルールを決める、といった対応です。

SaaSや受託開発では、収益認識や原価計算の論点が出やすいため、後回しにすると過去データの整理に大きな工数がかかります。

関連記事:原価計算とは?原価計算の5つの目的と種類について理解しよう

IPO準備で見直すべき会計方針

IPO準備では、会計方針の見直しが大きな論点になります。

会計方針とは、会社がどのような基準で売上や費用、資産、負債を計上するかを決めるルールです。

非上場の段階では、税務申告を目的にした会計処理が中心になっていることがあります。しかし、上場を目指す場合は、投資家や監査法人に説明できる財務会計の考え方に切り替える必要があります。

税務申告のための会計から財務会計へ切り替える

税務申告のための会計と、財務会計は目的が異なります。

税務申告では、法人税などの税額計算が目的になります。一方で、財務会計では、投資家や金融機関など外部の利害関係者に、会社の財政状態や経営成績を適切に示すことが目的です。

IPO準備では、税務上問題がないかだけでなく、会計基準に照らして適切かを確認する必要があります。

税務会計の延長で月次決算を進めている場合は、会計方針の見直しが必要になります。

引当金・減損・資産除去債務などの論点を洗い出す

IPO準備では、会社の事業内容に応じて、会計論点を洗い出す必要があります。

たとえば、賞与引当金や退職給付、貸倒引当金、固定資産の減損、資産除去債務、金融商品、過年度遡及修正、収益認識などです。

これらは、決算時に一度だけ確認すればよいものではありません。月次決算や四半期決算でどのように見積もるか、どの資料を使って計算するか、誰がレビューするかを決める必要があります。

資産除去債務や引当金などは、計算シートやフォーマットを整えておくと、毎期の確認がしやすくなります。

SaaSや受託開発では収益認識と原価計算が論点になりやすい

SaaSや受託開発の会社では、収益認識と原価計算が論点になりやすいです。

収益に関する会計基準では、基本となる原則に従って収益を認識するための5つのステップが示されています。

ステップ

確認すること

1. 契約の識別

顧客との契約が成立しているか

2. 履行義務の識別

会社が顧客に何を提供する義務を負っているか

3. 取引価格の算定

顧客から受け取る対価はいくらか

4. 取引価格の配分

複数のサービスがある場合、価格をどう配分するか

5. 収益の認識

義務を果たした時点または期間に応じて売上を計上する

参考:ASBJの収益認識に関する会計基準

SaaSの場合、初期設定費用、月額利用料、カスタマイズ費用、解約条件、最低利用期間などによって、売上を一時点で認識するのか、一定期間にわたって認識するのかが論点になります。たとえば、月額利用料は利用期間に応じて売上を認識する一方で、初期設定費用やカスタマイズ費用は、契約内容や提供するサービスの実態によって判断が分かれることがあります。

受託開発の場合は、契約内容、進捗、検収条件、工数管理によって売上や原価の認識が変わります。契約書、検収書、工数データ、プロジェクト別原価を後から整えるのは大きな負担になります。

IPOを見据えるなら、売上の認識単位、原価の集計単位、プロジェクトコード、工数管理のルールを早めに決めておく必要があります。

監査対応で求められる資料の作り方

IPO準備では、監査法人に提出する資料の品質も問われます。

監査対応で求められるのは、単に資料を提出することではありません。試算表と補助資料が一致していること、計算根拠が分かること、第三者が見ても理解できることが必要です。

資料の品質が低いと、監査法人から追加質問が増え、監査時間も社内工数も増えます。

試算表と補助資料の数字を一致させる

監査対応では、試算表の残高と補助資料の数字が一致していることが基本です。

たとえば、試算表の売掛金残高と、売掛金管理表や年齢表の合計が一致していない場合、監査法人は差額の原因を確認する必要があります。

このような不一致が多いと、監査法人は他の資料にも疑問を持ちやすくなります。主要な勘定科目について、試算表と補助資料の整合性を確認しておくと、監査対応の手戻りを減らせます。

コメント:公認会計士・税理士 辻田和弘

公認会計士・税理士 辻田和弘

監査対応でよく問題になるのは、試算表の数字と補助資料の数字が一致しないケースです。たとえば、売掛金の残高は試算表では4億円なのに、年齢表や管理表では3.7億円しか説明できない場合、監査法人は差額の原因を確認する必要があります。こうした不一致が多いほど監査に時間がかかり、結果的に監査報酬や社内工数も増えます。

第三者が見て分かる計算根拠を残す

監査対応では、第三者が見て分かる計算根拠を残す必要があります。

担当者本人には分かる資料でも、数式の意味や前提条件が分からなければ、監査法人は検証できません。

計算シートには、入力値、計算式、参照元資料、確認日、作成者、レビュー者を残すと、後から確認しやすくなります。

IPO準備では、属人的な資料ではなく、誰が見ても理解できる資料を作る意識が求められます。

重要な会計論点は事前に監査法人へ共有する

重要な会計論点は、決算が終わってから監査法人に相談するのではなく、事前に共有します。

たとえば、収益認識、資産除去債務、減損、ストックオプション、関係会社取引、原価計算などは、決算後に初めて議論すると修正に時間がかかることがあります。

論点になりそうな事項は、早めに監査法人やアドバイザーと相談し、必要な資料を準備しておくと、決算後の手戻りを減らせます。

IPO準備で経理アウトソーシングを活用する場合の注意点

IPO準備では、経理アウトソーシングを活用することも選択肢になります。ただし、記帳代行だけを依頼すればIPO準備が進むわけではありません。IPO準備では、月次決算、資金管理、証憑整理、支払承認、管理資料作成、税理士・監査法人との連携まで見据える必要があります。

関連記事:スタートアップ向け経理アウトソーシング徹底解説|導入タイミング・費用・選び方

記帳代行だけではIPO準備には足りない

記帳は重要ですが、監査対応では、残高の根拠資料、証憑、契約書、承認履歴、会計方針、内部統制が必要になります。記帳だけを外注しても、証憑回収、請求管理、支払管理、月次締め、残高確認が社内に残っている場合、経理体制は整いません。

IPO準備を見据えるなら、月次運用全体をどう整えるかを考える必要があります。

関連記事:経理アウトソーシングとは?記帳代行との違いと向いている会社を解説

社内に残す判断業務と外部に任せる運用業務を分ける

経理アウトソーシングを活用する場合でも、すべてを外部に任せることはできません。

支払の最終承認、資金繰り判断、会計方針の最終判断、投資判断、経営判断は社内に残すべき業務です。

一方で、記帳、証憑整理、請求管理、支払予定表の作成、月次資料の作成補助などは外部化しやすい業務です。

重要なのは、外部に任せる作業と、社内に残す判断を分けることです。

税理士・監査法人・IPOアドバイザーとの役割分担を明確にする

IPO準備では、税理士、監査法人、IPOアドバイザー、経理アウトソーシング会社の役割分担を明確にする必要があります。

税理士は税務申告や税務相談の専門家です。監査法人は財務諸表の監査を行います。IPOアドバイザーは上場準備全体の課題整理やスケジュール管理を支援します。

経理アウトソーシング会社に依頼する場合は、日常経理や月次運用のどこまでを担うのか、監査法人や税理士との資料連携をどこまで行うのかを確認しましょう。

IPO準備を見据えた月次運用まで対応できるか確認する

IPO準備で外注先を選ぶ場合は、記帳だけでなく、月次運用まで対応できるかを確認する必要があります。

月次決算の締め日、必要資料の回収、残高確認、支払管理、証憑保存、管理資料作成、レビュー体制まで見られるかを確認しましょう。

また、IPO準備では、担当者一人に依存しない体制も必要です。外注先が個人対応の場合、社外に属人化が移るだけになることがあります。

IPO準備を見据えるなら、チーム体制やレビュー体制があるかも確認すべきです。

まとめ:IPO準備は経理・財務体制の早期整備から始まる

IPO準備では、経理・財務は単なる処理部門ではありません。
月次決算を早く正確に締め、予算と実績の差異を説明し、資金管理や支払承認の仕組みを整え、監査法人が検証できる資料を残す役割を担います。

特に重要なのは、次の3点です。

- 決算に必要な情報を収集できること
- 一定の内部統制が存在すること
- 決算内容を第三者が検証できること

この状態を作るには時間がかかります。N-2やN-1になってから急いで整えると、過去処理の見直し、資料作成、システム運用、内部統制対応が重なり、社内工数や外部コストが大きくなります。

IPOを見据え始めたら、まずは月次決算、資金管理、会計方針、証憑保存、システム運用の現状を棚卸ししましょう。

経理・財務体制を早めに整えることは、監査対応をスムーズにするだけではありません。投資家や監査法人から信頼される管理体制を作り、上場準備のコストと手戻りを抑えるための土台になります。

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この記事の監修者

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株式会社Enigol

辻田和弘

東京大学経済学部卒業後、丸紅株式会社に入社。経理部にて事業投資案件の会計面での検討・支援を担当するほか、子会社の内部統制構築、IFRS導入プロジェクト、全社連結会計システム導入プロジェクトに従事。公認会計士・税理士として長年にわたり会計・税務専門業務に携わった経験を持つ。現在は株式会社Enigolを創業し、Remoba(リモバ)経理・労務の総合監修を担当。スタートアップから中小企業・大企業まで、経理・労務を含むバックオフィス業務全般の支援を行っている。

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