1. インボイス制度で必要となる買手の業務負担とその対策を具体的に会計士・税理士が解説
インボイス制度で必要となる買手の業務負担とその対策を具体的に会計士・税理士が解説

インボイス制度で必要となる買手の業務負担とその対策を具体的に会計士・税理士が解説

経理更新日:2024-09-22

2023年10月から始まった適格請求書等保存方式(インボイス制度)は、消費税の正確な納税を目的とし、事業者に大きな影響を与えます。この新しい制度は、請求書の発行から保存に至るまで、税務に関する取引の透明性を高めることを意図しています。特に事業者の中でも買手は正しい税率の適用と税額控除のために、これらの変更に迅速に適応する必要があります。本記事ではインボイス制度移行後、買手の観点で、経理が対応しないといけない事項と増える業務負担について解説し、さらにその対応策についても解説します。

インボイス制度の理解

インボイス制度は、「適格請求書等保存方式」として知られ、令和5年10月1日から導入されました。

この制度では、課税事業者は適格請求書(インボイス)を発行し、保存する必要があります。消費税の入力税額控除を受けるためには、これらのインボイスの保存が必要になります。インボイス制度により税法上求められる記載要件が以下のように変わりました。

従来の「区分記載請求書」の記載事項は次のとおりです。

(1) 請求書発行事業者の氏名又は名称

(2) 取引年月日

(3) 取引の内容(軽減対象税率の対象品目である旨)

(4) 税率ごとに区分して合計した対価の額

(5) 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

インボイスは従来の「区分記載請求書」の記載事項に加え、次の3つが追加されています。

(1) 登録番号(適格請求書発行事業者のみ発行可能)

(2) 適用税率

(3) 税率ごとに区分した消費税額等

この新しい仕組みによって、課税事業者は消費税の適正な計算と申告が求められるため、記載要件の理解と適格なインボイスの管理が不可欠です。

事業者への影響

インボイス制度導入により、売買取引における税務面での手続き・求められる要件が大きく変わります。

売手は、取引先から要求された際に、適切な税率と消費税額を記載した適格請求書(インボイス)を交付し、これを保存する義務があります。買手にとっては、仕入税額控除を受けるために、登録事業者から交付されたインボイスを保管することが必要です。また、自分で作成した仕入明細書に必要事項を記載し、取引相手の確認を得た文書も保管できます。

インボイス制度のもとでは、企業は新しい税務処理の要件に対応するために、今まで以上に適切な文書管理を行うことが求められます。これにより売手、買手両方で、今まで以上に。事務負担の増加が予想されます。

買手のインボイス制度の対応と業務負担の増加

インボイス制度の導入に伴う、買手側の業務負担増加として、以下のものが挙げられます。それぞれについて詳しく解説していきます。

(インボイスと非インボイスの区別:請求書がインボイス制度の要件を満たしているかの判断。)

  1. 取引先とのコミュニケーション
  2. インボイス制度の要件を満たすものと満たさないものを区別した記帳
  3. 例外処理への対応

1. インボイスと非インボイスの区別

インボイス制度の導入により、従来の領収書・請求書等では仕入税額控除の対象とはなりません。これを対象としてしまうと、消費税の計算を間違えてしまう可能性があります。

そのため、買手は、取引先から受け取った領収書・請求書等がインボイス要件を満たしているか一つづつ確認作業が必要となります。(インボイスの要件チェック)

「適格請求書発行事業者の登録番号の記載があるか」

「税率ごとに区分した対価の額(税込あるいは税抜)の記載があるか」

「税率ごとに区分した消費税額等の記載があるか」

「適用税率の記載があるか」

2. 取引先とのコミュニケーション

請求書等を取引先から受け取った場合、インボイス要件を満たしているかの確認が必要でしたが、確認の結果、取引先の作成した請求書等が要件を満たしていない場合に業務負担が増えます。具体的には、取引先に連絡をして確認し、場合によっては請求書等を再発行してもらう必要があります。

新規の取引先との取引が発生した場合、その取引先が適格請求書発行事業者であるかどうかの確認といったやりとりも発生します。

このように取引先とのコミュニケーション負担も生じます。

3. インボイス制度の要件を満たすものと満たさないものを区別した記帳

従来、取引を記帳する際に、消費税額が8%の取引と10%の取引、消費税のかからない取引とを区別して記帳する必要がありました。

インボイス制度が始まることで、会計システムに記帳を行う際に、今までの消費税区分の区別の手間に加えて、受け取った請求書等がインボイス要件をみたすものかインボイス要件を満たさないものかの区分をした後に、その取引がインボイス要件をみたすものであるか、もしくはインボイス要件を満たさなものであるかを判別できるよう記帳する必要があります。

4. 例外処理への対応

インボイス制度の運用にはインボイス要件を満たした請求書等の保存が不要で、以下のような場合に、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる規定があります。

① 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送

② 適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除きます。)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引

③ 古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物の購入

④ 質屋を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの質物の取得

⑤ 宅地建物取引業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの建物の購入

⑥ 適格請求書発行事業者でない者からの再生資源又は再生部品の購入

⑦ 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等

⑧ 適格請求書の交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストにより差し出されたものに限ります。)

⑨ 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤

経理はこれらの場合、領収書がインボイス要件を満たしていないとしても、通常の帳簿の記帳に加えて「帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるいずれかの仕入れに該当する旨」を記載して、仕入税額控除がかされる消費税区分として記帳していくことが求められます。つまり、経理業務の中で、より記帳の複雑性と業務負担が増加します。

インボイス制度移行に伴う業務負担増加の対応策

説明の通り、インボイス制度導入によって、経理の業務負担は大きく増加し、複雑性も高まっています。

そのため効率的、正確に業務を遂行するには、システム面でのインボイス制度対応が必要でしょう。インボイス制度に関連して、見直しが必要なシステムには以下のようなものがあります。

  • 会計システム
  • 請求書受取システム
  • 販売管理システム
  • 経費精算システム

しかし、システムを導入したとしても、その運用の複雑性は高くなるため、システムを使った業務フローを構築できる専門人材・そしてシステムを使った運用ができる人的リソースの確保も必要でしょう。具体的には以下のような選択肢があります。

  • 経理専門人材の採用
  • 経理コンサルティングやアウトソーシングの活用

まとめ

上記のようにインボイス制度によって、買手の側の経理・事務負担が急増し、また記帳難易度も高くなります。インボイス制度の対応方針が明確ではない場合や、業務負荷が増加して現在の人員では処理することができない場合、解決手段としてシステム面での対応と人的リソース面での両面での対応が必要になります。

経理オンラインアウトソーシングサービスのRemobaではインボイス制度に対応した業務アウトソーシング、さらにはインボイス制度対応のクラウド会計システムを活用した業務運用を得意としております。

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この記事の監修者

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株式会社Enigol

辻田和弘

東京大学経済学部を卒業後、丸紅株式会社に入社し経理部にて事業投資案件の会計面での検討、支援を行う。また子会社の内部統制の構築、IFRS導入プロジェクト、全社連結会計システム導入プロジェクトに従事。現在は株式会社Enigolを創業し、Remoba経理全体の監修を行い、スタートアップから中小企業および大企業の経理業務の最適化オペレーションの構築を担う。

資格
公認会計士
税理士

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