1. 事業内容ごとの適切な労務管理とは?コロナ禍における新たな対応
事業内容ごとの適切な労務管理とは?コロナ禍における新たな対応

事業内容ごとの適切な労務管理とは?コロナ禍における新たな対応

労務 更新日:
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人事労務の分野では企業の事業内容によって異なった労務管理が必要となります。例えば医療と飲食店では全く異なった事業内容であることから、画一的な人事労務管理は危険です。今回は事業内容ごとに社内の人事労務に関して必要な役割を解説してまいります。

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事業別の労務管理

事業別の労務管理の表

飲食業

今後はWithコロナの時代であり、コロナが終息したとしても旧来の生活様式に戻るとは想定し難いと考えます。よって、顧客の感染防止対策はもとより従業員の安全確保も無視できません。そうなると設備投資に一定の費用がかかってしまい、経営の合理化が必須となります。そこで、時短営業の協力金や各種助成金や補助金を活用するという選択が出てまいります。

特に助成金等を活用するには法令に則った労務管理が必要となります。旧来の飲食業はそもそも顧客が仕事終わりの夕食時等に利用するため、仕込みの時間を逆算しても営業時間は長く、深夜に入るケースも珍しくありませんでした。しかし、新常態となり、営業時間が短縮傾向となりました。必然的に労働時間も短縮していることから、旧来と比して労務管理やしやすくなったと考えます。しかし、変形労働時間制を導入している場合は適正な割増賃金の計算がなされていないこともあり、是正が必要なケースも散見されます。

またテイクアウトを始め「巣篭り需要」として宅配サービス等を利用して店内を利用せず、自宅で食事を楽しむ層も出てきています。その場合、自社の労働者としてバイク等で宅配中に万が一事故に巻き込まれた場合は労災保険の対象となります。しかし、2019年に物議を醸しだした部分ですが、労働者ではなく個人事業主などのフリーランスとして事故に巻き込まれた場合は労働法の保護を受けられないという問題があります。また、業務災害として労災保険の対象であるにも関わらず、労災保険料の上昇を危惧し、健康保険を使うよう人事担当者が進言することはあってはなりません。

運送業

運送業も飲食業同様に人が動かなくなった代わりに物流が促進されています。当然運送業に従事する労働者は多くの場合、旧来よりも労働密度が濃くなったと言えます。運送業が一般的な業種と異なる点としては2019年4月1日に大企業が先行的に施行された時間外労働の上限規について「自動車運転業」は5年間猶予された点です。これは、業界特有の問題(例えばトラック運転手の荷物を降ろすまでの待ち時間)があり、早期に画一的に一般的な業種と同様に規制するのは適切ではないと判断されたと考えます。

運送業特有の労務管理として1日の拘束時間は原則として13時間以内であることや、1日の最大拘束時間は16時間以内であることなど、一般的な業種とは全く異なる点があることはおさえておきましょう。

また、人事労務担当者として運行管理者をおくこと(退職の場合は後任を探す)も忘れてはなりません。

クレーンと貨物

医療業

エッセンシャルワーカーの代名詞とされる医療業も特殊な労務管理が必要です。特に大学病院等の大組織となると多職種の医療従事者が存在します。例えば、看護師は必要な人員を確保しなければ加算が取れず、医療機関としての収入が減ってしまうこととなります。また、業務の特性上、病院となれば夜勤を組み入れなければならず最低限の休日の確保をしたうえで、シフトを作成しなければなりません。適正なシフトを作成できない場合、法令違反以前に従業員の健康問題にも発展します。

また、新型コロナウイルスが未だ終息しない中でもその最前線で業務を行う業種であることから労働時間中における疲労の築盛は計り知れないものです。よって、労働時間が極端に長くなってしまった従業員や年次有給休暇の取得が極端に進まない従業員へは担当部門の管理者を通じて体調の確認を行うなどが極めて重要です。そして、医療業であっても2019年4月1日に施行された年次有給休暇の5日指定は免除されていません。よって、適正な取得を念頭に先行的な労務管理(計画的付与などを活用)が必要です。

そして、同じ医療従事者であっても医師については時間外労働の上限規制が法施行(2019年4月1日)から5年間猶予されています。よって、同じ事業所内であるにも関わらず時間外労働の上限規制が異なることから、36協定の締結方法なども実態と合わせる意味で医師のみ分けて提出するなどの選択肢があります。

医療の場合は手術などの「手待ち時間」や医師による「宿日直」、「オンコール」など、一般的な職種ではあまり馴染みのない制度が活用されています。手待ち時間は労働からの解放が保障されているとは言えず、休憩時間とはなりません。よって、労働時間として考えなければなりません。しかし、宿日直については所轄労働基準監督署の許可を受け、他の要件を満たしていることが前提となりますが、労働時間とはなりません。

しかし、宿日直の時間帯に昼間と同様の業務(例えば夜間に救急搬送された患者の対応)を行った場合は労働時間と解されます。

また、オンコールで単に自宅内で待機しているに留まるのであれば労働時間とは解されません。しかし、実際に呼び出され、通常の業務を行った場合は労働時間と解されます。オンコールについては単に自宅で待機している間も一定の心理的拘束があることから、一定の手当を支給するなどして手当を創設する事業所もあります。

以上のように人事労務担当者としては医療従事者の労働時間管理が一般的な業種と比べて圧倒的に難易度が上がる点はおさえておきましょう。

男性の医者

介護業

医療業と同様に介護業もエッセンシャルワーカーとしてなくてはならない業種です。そして、慢性的な人手不足の業種でもあり必要な人員が確保できなければ加算を取得することが出来ず、人事労務担当者の役割として離職率を低減させる努力は必須となります。

現場では体の不自由な方々への食事の提供や身の回りのお手伝い等、きめ細かな対応が求められ、労働密度の濃い業種となります。人事労務担当者としては医療業と同様に時間外労働が増えている従業員や有給休暇の取得が著しく少ない従業員に対して面談の機会を設定するなど離職や事故に繋がる前に早めの労務管理を意識することが適切です。

農業

労働基準法第41条では労働時間、休憩、休日について適用しない業種が定められており、農業はそれに含まれます。農業は自然条件に左右されることが多く、労働時間等の規制を当てはめることが適切とは言えず、適用場外となっています。しかし、安易に長時間労働を黙認することは適切でなく、健康管理の観点からも労働時間の管理はしておくべきです。

また、派遣労働者を迎え入れた場合は、労働基準法上適用除外となる部分は多くの人に知れ渡っているとは言えません。よって、人事労務担当者は予めその旨の説明をしておくことでトラブルの予防となり得ます。

特に家族での個人経営から家族以外の労働者を雇用して農業法人へと移行する場合は労務管理も煩雑になります。法人の場合は社会保険の加入が義務となるなど、人事労務担当者としては労働法の順守はもとより人事評価制度の構築なども進めていく必要があります。

トラクター

美容業

従業員の入れ替わりが激しい業種となります。これは一定期間技術を磨いた後に独立する傾向が高い業種であり、人の管理に難渋することがあります。2020年4月1日以降に支払いが発生する基本給や残業代の時効は3年であり、その証拠となる資料も3年間保存しておかなければなりません。当然、入退職によって人の入れ替わりが多いほどその管理は煩雑になります 

また、労働時間の管理が難しい業種でもあります。労働時間とは労働者が使用者の指揮命令下におかれた時間であり、例えば自主的に職場内に残りスキルアップのための練習をしている場合は労働時間とは解されません。しかし、店長などから命じた場合は内容によっては労働時間と解される可能性が高くなります。 

多くの場合、医療業などと異なり年末や成人式など繁忙期とされる時期が明確です。その時期の労働負荷は強く、当該時期に入る前に年次有給休暇の取得を促すなど、先行的な労務管理が必須です

坑内労働

現在は少なくなってきた業種ですが、休憩時間に関して他の業種と異なる点があり、確認しましょう。坑内労働は労働者が坑口に入った時刻から坑口を出た時刻までが「休憩時間も含めて」労働時間とみなされます。よって、労働基準法で明記する一斉休憩の原則、休憩時間の自由利用の原則も適用されません。

休憩時間を含めて労働時間とみなされることから1日8時間又は1週間で40時間を超えた場合には割増賃金の支払い義務が発生します。人事労務担当者は一般的な業種と同じ感覚で賃金計算をしてしまうことのないよう注意しなければなりません。給与計算をする際にネットで調べながら進めていくこともあるでしょう。しかし、多くの場合は一般的な業種を想定して書いてあることが多く、坑内労働を前提に書かれているとは限らないために注意が必要です。

尚、労働基準法第63条により18歳未満の労働者を坑内で労働させることはできません。(職業訓練に関する特例に該当する場合を除く)これは就業場所が坑内であれば一切の直接・関節作業および事務労働も禁止されているということです。

また、妊娠中の女性、坑内で行われる業務に従事しない旨を使用者に申し出た産後1年を経過しない女性も坑内で行われる全ての業務に就かせることはできません。

2隻の船

港湾運送業

職業安定法では有料職業紹介の対象から除外されている業種です。

また、労働者派遣法上ではそもそも労働者派遣として対象に含めることができない業種です。

建設業

港湾運送業務と同様に有料職業紹介、労働者派遣からも除外されている業種です。労災事故が多い業種でもあり、事故が多発すると離職率の増加やレピュテーションリスク、経営的には労災保険料率の上昇などが危惧されます。

建設業は休日が少ないなどのイメージが先行し、建設業を志す労働者が減少傾向にあります。そこで、人事労務担当者は適正な労務管理ができていることを外部に示していくことが採用力の強化に繋がると考えます。

まずは、法令順守は言うまでもありません。次に物理的な対策が必要です。これは、長時間労働、休日労働に繋がる業務の見直しです。人事労務担当者の仕事として勤怠管理の自動化を導入するだけでも紙運用とは比較にならないほど時間効率が上がります。

次に人的対策として個人用保護具の着用などは極めて重要です。安全配慮義務(労働契約法第5条)違反となる前にどれだけ事故を防ぐための努力をしたのかが極めて重要です。

家の建築作業

警備業

労働者派遣法で労働者派遣が除外されている業種です。警備業務は一般的に請負契約で行われることが多いのが特徴です。警備業務は不法侵入者を追い出したなどという実績だけを求めてしまうとそのような不審者が現れなかった日は何もしていなかったのかという話にもなってしまいますが、それは適切な評価とは言えません。

営業職などと比べると評価方法が難しい業種であり、どのような手段を用いて帰属意識を高め、各々の労働者のスキルアップを感じ取ってもらえるかは人事労務担当者を筆頭に腕の見せ所と言えます。

外国人雇用

外国人を雇用するにあたっても日本で労務の提供を受領する場合は属地主義の観点から日本の労働基準法などの法令は無視することができません。よって、日本人と同様に(場合によっては日本人よりもより労働者目線に立ち明確に)労務管理していくことが求められます

特に日本人と同等以上にコミュニケーションが取れるとは断言できず、コミュニケーションが取れていなかったことによるトラブル(例えば賃金の支払い日)などが想定できます。

賃金支払いの行き違いもあってはなりませんが、それ以上に機械の操作が理解できていなかったことによる業務災害などは命に関わる問題にもなり得ます。人事労務担当として外国人労働者を雇用する場合には専門家の意見や他者の先行事例を参考に業務を進めていきましょう。 

女性の警備員

最後に

どのような業種にも言えることですが、コミュニケーションの希薄さに起因して労使トラブルにまで発展することが多いと言えます。また、社内ルールの周知が生きわたっていない場合には上司と部下の認識齟齬が生まれたことによるミスなどは「防ぎようがある」ものです。 

また、業種ごとに労務管理の見るべきポイントがあり、その部分をおさえておき、かつ、Withコロナ時代の新常態を踏まえた選択を繰り返していくことがよりよい組織になっていくものと考えます。

 

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この記事の監修者

蓑田真吾のプロフィール画像

社会保険労務士

蓑田真吾

社会保険労務士(社労士)独立後は労務トラブルが起こる前の事前予防対策に特化。現在は労務管理手法を積極的に取り入れ労務業務をサポートしています

資格
社会保険労務士
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