1. 従業員からの届出への適切な対応|扶養変更/住所氏名変更/給与口座変更
従業員からの届出への適切な対応|扶養変更/住所氏名変更/給与口座変更

従業員からの届出への適切な対応|扶養変更/住所氏名変更/給与口座変更

労務更新日:2024-09-23

会社と従業員は双務契約であり、労務の提供に対して報酬を支払うという約束のもと入社することとなります。そして、実際に入社し、労務の提供を続けていく中では様々なライフイベントがあり、扶養変更、住所変更、口座変更など、多くの届出発生事由があります。今回は、従業員から会社への届出についてフォーカスをあて、解説してまいります。

扶養変更

例えば学生である子供が就職した場合は多くの場合、正社員として入社するのであれば就職先で健康保険に加入することとなり、従業員である親の扶養から外す手続きが必要となります。また、子供が産まれた場合には就労能力が備わっておらず、従業員である親または、従業員の配偶者の扶養に入ることになるでしょう。従業員自身の扶養に入る場合、労務担当者としては扶養の届出を促すよう常日頃からの周知が必要です。併せて届出事由が生じた場合に再度のアナウンスをすることで追加の必要書類の届出等、最大限届出忘れを防ぐことができると言えます。

特に扶養には健康保険上の扶養税法上の扶養給与上の扶養と3種類に分別されます。

健康保険の扶養

健康保険の扶養に入る意味として、被保険者証の交付を受ける必要があることが挙げられます。自治体によっては中学生までは医療費が実質無料(保険診療対象外のものはの除く)となっていますが、あくまで、被保険者証と自治体が発行する医療券を提出する必要があります。被保険者証がない状態では後で提出することで返還はされるものの一旦は自費で支払う必要があり(一時的とはいえ)家計に与える影響は大きいと言えます。特に産まれて間もない子供への被保険者証は必要なる背景からも労務担当者として可能な限り迅速な対応が求められます。

実務上問題になる部分として夫婦のどちらに扶養に入れるかということです。原則として「収入が多い方」となりますが、家計の実態に即して判断されることとなります。その場合には両親の収入を比較する意味で双方の源泉徴収票の提出が求められる場合もあります。そこで明らかにいずれかの収入(例えば父親800万円、母親400万円)が多いとなると収入が多い方の扶養に入れるべきとの判断となります。

婚姻に伴う扶養情報の変更

他には婚姻に伴う扶養情報の変更です。例えば婚姻当初から妻を扶養に入れるケースを想定しましょう。自身の被保険者証の変更はないものの、妻の被保険者証の手続き、妻の国民年金第3号被保険者としての手続き、税法上の手続きも漏れがないように進めなければなりません。

実務上は特に被扶養者の被保険者証の発行には戸籍謄本(抄本含む)または住民票、収入を証明するもの、口述書などが必要となります。

収入を証明するものについては、多くの場合源泉徴収票となりますが、直近の源泉徴収票が発行された年以降に職務変更や休職、休業などがあり、給与が大幅に下がった場合には源泉徴収票を出してしまうと被扶養者としての認定が難しくなってしまうことが見込まれる場合もあるでしょう。その場合は、「給与見込証明書」(例えば9月に発行する場合には1月~9月は実績額・10月~12月を見込額で記載)を添付し、収入要件が満たしていることを証明するなどの対応が求められます。

口述書についてはイレギュラーケースの場合に提出が求められます。例えば婚姻した妻の母を扶養にするといったケースです。それ自体は別居であったとしても問題ありません(生計維持要件のみ)が、優先扶養義務者である(夫の妻から見た)父が健在しているにも関わらず扶養するとなった場合にはなぜ、父が扶養しないのかという議論になります。その場合に、実態としては父とは音信不通であり、今後もその状況が回復する見込みがないようなケースです。

住所変更

単に住所変更のみの場合は健康保険の被保険者証の再発行はされず、「現在使用している被保険者証の裏面に転居後の住所を記載してください。」とする健康保険組合もあります。

しかし、職場内ではコロナ禍というリモート促進時代の背景を鑑みても住所録や人事台帳への追記、そして、給与上では通勤手当の再計算(既に複数月分支給している定期代があれば払い戻しの手続きも発生)、住居手当が支給されている場合は転居後の支給要件の再認定など、複数の影響があります。

氏名変更

氏名変更の場合も確認しましょう。氏名変更と聞き、労務担当者として直感のみで行動してしまうとその場の空気が凍りつくことがあります。それは、直感で氏名変更の理由が「婚姻のため」と勝手に判断してしまい、「離婚」であるにも関わらず全く的外れの言葉(メールも含む)を発してしまうというような場合です。当然、後者の場合には非常にセンシティブな情報であることから対面での対応の場合は周囲に人がいないことを確認するなど慎重な対応が必要です。

婚姻による氏名変更 

婚姻による氏名変更の届出を確認していきましょう。まずは健康保険の被保険者証の届出が必要となります。職務上旧姓使用を希望する場合であっても被保険者証は戸籍上の氏名での届出が必要です。現在は女性の社会進出が進んでおり、旧姓使用の選択も増えてきていますが、画一的に判断しないよう注意が必要です。また、給与の振込口座名も戸籍上の氏名とイコールにする場合は変更をかけていなければ給与支給日に(名義相違のために)給与が振り込まれていないというトラブルに発展することがありますので、併せて確認しなければなりません。場合によっては銀行口座名については旧姓のまま使用されるケースもあります。この事例の給与遅延問題についての帰責事由は本人にもあるのでしょうが、労務担当者としては婚姻により氏名変更となった場合は十分予測できる部分であるため、網羅的に確認しておくべきでしょう。

また、夫が妻の家へ婿入りするとなると夫自身が被保険者証の氏名変更事由に該当することから、実態を正確に確認してから進めなければなりません。

また、婚姻に伴う氏名変更の場合は転居も想定できます。多様性の時代とは言え婚姻当初から別居婚とは断言できません。転居が伴うとなると通勤手当の再計算、住居手当を支給している場合は転居後の支給要件の再認定なども確認しなければなりません。特に「このタイミング」で確認しなければ翌月以降は担当者の目に留まることなく長期に渡って不適切な給与が支払われていたという問題にも発展しかねないために、可能な限り複数の担当者でチェックすべき部分と言えます。

離婚による氏名変更

基本的には婚姻の場合と同様の手続きが発生します。被保険者証、転居が伴えば通勤手当、住居手当、扶養していた子の親権が相手方にある場合は扶養取り消しなどが想定されます。また、離婚ではなく死別の場合は注意が必要です。例えば妻を亡くした場合は健康保険から埋葬費が支給され、55歳以上の夫であれば遺族厚生年金、18歳年度末までの障害を有しない子を有する場合は遺族基礎年金も支給対象となります。

年末調整においては通常その年の12月31日の現況により判断することとなります。しかし、年の途中で死亡した場合については、死亡時の現況で判断します。よって、配偶者控除に該当するか否かは死亡時に判断することとなり、要件を満たしてれば死亡後に行う年末調整に配偶者控除を含めることが可能となります。また、令和2年以降の年末調整において導入されているひとり親控除については12月31日の現況で判断しますので、結果的には双方が対象という理解です。

給与口座の変更、追加

給与口座の変更

給与口座の変更については、婚姻や離婚などの事由がなくても単なる従業員の利便性の観点から変更するケースもあります。留意点としては事業所としてどこまで対応可能かということです。伝送システムを活用して銀行送金する場合、対応していない銀行がないかは事前に確認および周知しておくべきです。例えばゆうちょ銀行の給与(賞与を含む)振り込みは対応しているかなどが挙げられます。

第二口座の依頼

次に会社として従業員の第二口座への依頼にはどこまで応じるかを決定しておく必要があります。例えばA従業員への給与振り込みに対して大手都市銀行は住宅ローンの返済のため毎月10万円を定額振り込み、第二口座として某地方銀行にへそくりのため毎月2万円を定額振り込み、残額を第三口座に振り込んで欲しいとの依頼があったとします。通常、振込口座が増えれば増えるほど、企業として振り込み手数料が増えていくことが無視できなくなります。

よって、どこまで応じるのか、そもそも応じないのかはたまたま対応した労務担当者の対応によって温度差がでないように意思決定しておくべき部分です。複数の労務担当者がいるということはチェック体制が強化されるという点では大きなメリットですが、明確に決まっていないことを即時に誰もが同じ対応をするというのは不可能ですので、この点は注意しておくべきでしょう。

事業所独自の届出(任意恩恵的な給付)

給与としてではなく、弔慰金(例えば従業員の親族に不幸があった場合のお見舞金)を支給するとの内規が設けられている場合があります。その場合は、前述の届出と併せて弔慰金支給他のための届出を行うよう(事前に周知していたとしても)再度アナウンスすることが従業員と労務担当者がより強固な関係を築く上でも重要です。そもそも親族に不幸があった場合は(特に従業員が喪主を務める場合は尚更)冷静な判断が難しくなるのは想像に難くありません。

尚、当該給付の性質が労働基準法上の割増賃金の算定基礎から除くことができるか否かということに該当するかは事前に確認しておくべきです。

労働基準法上の割増賃金の算定基礎となる手当からは以下の手当を除くことができます。

・家族手当

・通勤手当

・別居手当

・子女教育手当

・住宅手当

・臨時に支払われた賃金 ※

・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

詳細は以下添付資料をご覧ください。

出典:割増賃金の基礎となる賃金とは? 厚生労働省

この中に「臨時に支払われた賃金」があります。 

※ 臨時に支払われた賃金

尚、臨時にとは、行政解釈上は臨時的、突発的事由に基づいて支払われたものおよび結婚手当等支給条件はあらかじめ確定されているが、支給事由の発生が不確定であり、かつ非常に稀に発生するものとされています。労務担当者間でも判断が割れる場合は労働基準監督者や専門家(弁護士、社会保険労務士)を活用することが適切です。

併せて、課税すべきか、非課税で問題ないのかは税務署に確認しておくべきでしょう。

届出チェック

ここまで述べてきただけでも全ての届出を網羅したわけではありません。そこで自社の力だけではミスが発生するとなった場合に、外部のアウトソーシングを活用するなどの発想も生まれてきます。しかし、自社、外部アウトソーシングの活用いずれを選択したとしても業務の可視化は不可避です。法律に則り届け出なければならないもの(例えば被扶養者の届出は原則5日以内)は期限が定められているものも多く、チェックリストを活用し、漏れが起こらないような環境整備に注力すべきでしょう。

事前の周知

届出事故による最も避けるべきと言っても過言ではないものは給与支給日における給与支給日のエラー(名義相違により振り込みができない)です。従業員側の過失により発生することもありますが、日頃の周知が重要です。

また、給与支給日に労務担当者が気づかず、従業員も休日で連絡がつかない場合で翌日から連休に入る場合は問題です。単なる氏名変更であれば戸籍上の氏名へ変更したのであろうと推測できますが、会社へ届け出ていた給与口座を解約し、別の銀行に変更した場合に手続きが最後まで完結していないにも関わらず先に会社へ届け出ていたようなケースです。

上記のような場合は他に給与口座を把握できているのであればその口座への入金が妥当な選択肢となります。しかし、他に給与口座を知り得ない場合の対応に苦慮します。労働基準法第24条1項・賃金直接払いの原則により賃金は原則として本人に払わなければなりません。また、他のリスクとして第二口座を認めている企業であり、仮に給与支給エラーが発生してしまい、住宅ローンやクレジットカードの支払いができなかった場合は信用情報の観点からも従業員に損害が発生します。

尚、これらのミスが労務担当者の単なるチェックミスで発生した場合は損害を求められる可能性も否定できません。それを防止する意味でも外部アウトソーシングの活用や、最低限として複数チェック制は不可避です。

最後に

会社の届出はまだ多くの企業では紙ベースで行われていることでしょう。紙が時代遅れということではなく、紙にもメリットはありますが、データでの届出と移行することで紛失の防止や場所的なコスト削減、チェックや検索のしやすさにも繋がります。

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項目内容

サービス名

Remoba労務

会社名

(株)Enigol

公式サイト

https://remoba.biz/hr

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この記事の監修者

柳沢智紀のプロフィール画像

株式会社Enigol

柳沢智紀

株式会社リクルートホールディングスでWEBマーケティング業務および事業開発を経験し、アメリカの決済会社であるPayPalにて新規事業領域のStrategic Growth Managerを担当の後、株式会社Enigolを創業。対話型マーケティングによる顧客育成から売上げアップを実現するsikiapiを開発。

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