経理担当者の採用は、応募が来ない、スキルが合わない、採用までの空白期間が長引くなど、他の職種とは異なる難しさがあります。特に中小企業やスタートアップでは、経理担当者が退職すると、支払い、請求、月次決算、税理士対応などが一気に止まるリスクがあります。しかし、経理人材の採用はすぐに決まるとは限らず、採用活動と並行して「今の経理をどう回すか」を考える必要があります。本記事では、経理担当者が採用できない理由と、採用活動中に経理業務を止めないための対処法を、公認会計士・税理士の視点から解説します。

経理担当者の採用は、応募が来ない、スキルが合わない、採用までの空白期間が長引くなど、他の職種とは異なる難しさがあります。特に中小企業やスタートアップでは、経理担当者が退職すると、支払い、請求、月次決算、税理士対応などが一気に止まるリスクがあります。しかし、経理人材の採用はすぐに決まるとは限らず、採用活動と並行して「今の経理をどう回すか」を考える必要があります。本記事では、経理担当者が採用できない理由と、採用活動中に経理業務を止めないための対処法を、公認会計士・税理士の視点から解説します。

厚生労働省の一般職業紹介状況を見ると、経理・会計事務に近い職種の有効求人倍率は、全職種平均を下回る水準にあります。数字だけ見れば「採用しやすそう」に見えますが、この倍率には未経験者や補助業務中心の求職者も含まれています。
実際に中小企業が求めるのは、日々の入力業務だけでなく、月次決算や年次決算まで任せられる即戦力人材であることが多いです。しかし、こうした人材は転職市場に出回りにくく、採用難につながりやすい傾向があります。
また、経理担当者は会社の財務情報や支払い状況を把握しているため、会社側も簡単に代替しにくい職種です。そのため、欠員が出たときに初めて採用の難しさが表面化するケースも少なくありません。
2023年のインボイス制度開始、電子帳簿保存法における電子取引データ保存への対応など、近年の法改正により経理業務は複雑化しています。
以前は簿記の知識と基本的な経理実務経験があれば対応できた業務でも、現在はクラウド会計ソフトの操作、各種SaaSとの連携、法令対応、証憑管理の知識などが求められるようになっています。
企業が求めるスキル水準は上がっている一方で、そのスキルを持つ人材の供給は限られています。その結果、採用活動をしても「応募はあるが、任せたい業務に対してスキルが合わない」という状態が起きやすくなっています。
2024年版中小企業白書でも、人手不足は中小企業にとって重要な経営課題として整理されています。人材を十分に確保できている企業では、賃金・賞与の引き上げや、働きやすい職場環境づくりに取り組んでいる割合が高く、条件面・環境面での競争力が採用に影響していることが分かります。
経理人材も例外ではありません。給与、リモートワーク、フレックスタイム、福利厚生、キャリアパスなどを比較された場合、中小企業は大企業に比べて不利になりやすい傾向があります。
特に、月次決算や業務改善まで任せられる経理人材は、複数社から声がかかりやすいため、条件面で見劣りすると採用につながりにくくなります。
経理担当者の採用が難しい理由は、市場環境だけではありません。企業が求める人材像と、実際に転職市場にいる人材の間にギャップがあることも大きな要因です。

中小企業では、「経理担当者」という一つの職種に、かなり広い役割を期待していることがあります。
たとえば、以下のような業務です。
これらをすべて一人で対応できる人材は、決して多くありません。
日常経理を正確に処理できる人材と、業務フローを整理し、月次決算や管理会計まで設計できる人材では、必要なスキルも採用難易度も異なります。この違いを整理しないまま求人を出すと、採用ミスマッチが起きやすくなります。
経理の転職市場には、日々の仕訳入力、経費精算、請求書処理、給与計算補助など、オペレーション業務を正確に進めてきた人材が多くいます。
一方で、中小企業が採用時に求めているのは、単なる作業担当者ではなく、属人化した経理を整理する、業務フローを設計する、月次決算を早期化する、クラウド会計を活用して効率化する、といった役割であることがあります。
この2つは、同じ「経理経験者」でも必要なスキルが異なります。日常業務を正確に処理できることと、経理体制そのものを整えられることは別の能力です。
その違いを整理しないまま採用活動を進めると、「経理担当者を採用したのに、思っていたほど業務を任せられない」というミスマッチが起きやすくなります。
月次決算、業務改善、クラウド会計の運用、資金繰り管理まで任せられる人材を採用しようとすると、相応の給与水準が必要になります。
しかし、中小企業では「経理担当者を1名採用したい」という表現の中に、日常経理の担当者から、経理マネージャーに近い役割まで含まれていることがあります。
求める役割に対して給与水準が合っていない場合、いくら求人を出しても応募が来ない、または応募が来ても求めるスキルに達していない状態が続きます。
経理担当者の採用活動は、すぐに完了するとは限りません。採用が決まるまでの間、経理業務をどう回すかが現実的な課題になります。

経理職の採用活動では、求人掲載から内定・入社まで3か月以上かかることがあります。スキル要件が高い場合や、決算期前後の繁忙期には、さらに長引くこともあります。
一方で、退職予告から退職までの期間は1〜2か月程度であることが多く、後任が決まる前に前任者が退職してしまうケースもあります。
この場合、採用活動だけでなく、空白期間をどう乗り越えるかを同時に考える必要があります。
経理担当者が不在になると、以下のようなトラブルが起きやすくなります。
特に月次決算が止まると、資金繰りや利益状況の把握が遅れ、経営判断にも影響します。
「採用できるまで何とかなる」と考えていると、気づいたときには支払い遅延や月次決算の遅れが常態化していることもあります。
経理担当者の退職と採用難が重なると、社内に経理業務を理解している人がいない状態になります。
この場合、単に作業が止まるだけでなく、どのデータをもとに売上や原価を計上していたのか、どのタイミングで請求・支払いをしていたのか、どの資料を税理士に渡していたのかが分からなくなることがあります。
経理担当者が突然退職した場合の緊急対応については、関連記事:「経理担当が退職したらどうする?今すぐ取るべき対応と再発防止策を徹底解説」で詳しく解説しています。
採用活動がうまくいかない場合、求人媒体や採用手法だけを見直すのではなく、採用要件そのものを見直すことが重要です。

まず確認すべきなのは、「経理担当者」という言葉の中に、どの業務を含めているかです。
たとえば、日常経理だけを任せたいのか、月次決算まで任せたいのか、業務改善やクラウド会計の運用まで期待するのかによって、必要な人材は変わります。
採用要件を整理するときは、以下の観点で分解すると分かりやすくなります。
すべてを一人に求めるほど、採用難易度は上がります。
採用要件を見直すうえでは、社内に残すべき業務と、外部化できる業務を分けることも重要です。
たとえば、支払いの最終承認、資金繰り判断、経営陣・税理士・金融機関とのコミュニケーションなどは、社内に残すべき業務です。
一方で、記帳、請求書処理、経費精算、振込データ作成、月次資料作成などは、外部化しやすい業務です。
定型業務を外部に切り出せれば、採用する人材に求める役割を絞ることができます。結果として、採用難易度が下がったり、採用後の定着につながったりする可能性があります。
経理担当者の採用活動を続けながら、並行して空白期間への対策を考える必要があります。

代表的な選択肢は以下の通りです。
対処法 | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|
社内兼務 | 一時的な支払い・経費精算に対応したい | 月次決算・税務対応は難しい |
派遣 | 短期的に実務者を確保したい | 期間制限・引き継ぎ・指揮命令管理が必要 |
業務委託 | 特定業務だけ任せたい | 業務範囲が曖昧だと属人化しやすい |
経理アウトソーシング | 採用中も経理を止めたくない | 社内に残す業務の切り分けが必要 |
正社員採用 | 長期的に社内にノウハウを残したい | 採用期間・教育期間がかかる |
総務、人事、管理職などが一時的に経理業務を兼務するケースがあります。
支払い処理や経費精算など、一部の業務であれば短期間の対応は可能です。しかし、月次決算、税務対応、資金繰り管理といった専門的な業務を兼務で対応するのは簡単ではありません。
また、兼務負担が大きくなると、本来業務のパフォーマンス低下や、担当者の離職リスクにもつながります。
社内兼務はあくまで一時的な対応と考え、長期化する場合は別の手段を検討する必要があります。
派遣スタッフの活用は、一定のスキルを持つ人材を比較的早く確保できる手段です。日常経理や請求書処理など、業務範囲が明確な場合には有効です。
ただし、労働者派遣には事業所単位・個人単位の期間制限があり、原則として同一の組織単位で同じ派遣労働者を3年を超えて受け入れることはできません。例外や延長手続きもあるため、長期的な経理体制の代替策として考える場合は注意が必要です。
また、業務委託を活用する場合も、委託範囲や成果物を明確にする必要があります。業務範囲が曖昧なまま依頼すると、属人化が解消されず、かえって引き継ぎが難しくなることがあります。
採用活動中の空白期間を埋める手段として、経理アウトソーシングは有力な選択肢です。
社内で対応すべき承認・判断業務を残しつつ、記帳、請求書処理、振込データ作成、月次資料作成などを外部に切り出すことで、採用活動中でも経理業務を止めにくい体制を作れます。
また、採用が完了した後も、定型業務をアウトソーシングに残すことで、新しく入社した担当者が判断業務や社内調整に集中しやすくなります。
サービスの詳しい比較は「経理代行サービス・経理アウトソーシングおすすめ比較15選」をご参照ください。中小企業のアウトソージング活用については関連記事:「中小企業の経理アウトソーシング」も参考にしてください。
経理担当者の採用問題を考えるとき、「採用するか、アウトソーシングするか」という二択で考えがちです。
しかし実際には、すべてを社内で抱える必要も、すべてを外部に任せる必要もありません。重要なのは、何を社内に残し、何を外部に出すかを設計することです。
社内に残すべき業務は、会社としての判断や責任が伴う業務です。
具体的には、以下のような業務です。
これらは、外部に作業を依頼することはできても、最終的な判断や責任は社内に残すべき領域です。
一方で、手順が決まっていて、定型化しやすい業務はアウトソーシングに向いています。
たとえば、以下のような業務です。
これらを外部に任せることで、社内担当者は判断業務や経営管理に集中しやすくなります。
採用が完了した後も、アウトソーシングを一部残すことにはメリットがあります。
「採用したからアウトソーシングは不要」と考えるのではなく、採用とアウトソーシングを組み合わせることで、より安定した経理体制を作ることができます。
即戦力の経理経験者が転職市場に出回りにくいこと、企業が求めるスキル水準が上がっていること、給与・働き方の条件面で競争が激しくなっていることが主な原因です。
特に中小企業では、日常経理だけでなく月次決算や業務改善まで任せたいケースが多く、採用要件と市場にいる人材の間にギャップが生じやすくなります。
支払い処理、請求書発行、入金確認、給与計算に必要な情報整理、月次決算に必要な証憑回収は優先度が高い業務です。
特に支払いと資金繰りに関わる業務が止まると、取引先との信用や経営判断に影響します。
社内に残すべき判断業務と、外部化できる定型業務を分けて考えることが重要です。
支払い承認や資金繰り判断は社内に残し、記帳、請求書処理、経費精算、月次資料作成などはアウトソーシングしやすい業務です。採用とアウトソーシングを組み合わせる設計も有効です。
求人掲載から内定・入社まで3か月以上かかることがあります。スキル要件が高いほど採用期間は長くなる傾向があります。
採用活動と並行して、空白期間の対処法を準備しておくことが重要です。
まず、採用要件と予算が一致しているかを確認してください。
求める業務範囲と提示できる給与水準が合っていない場合、採用活動を続けても改善しにくいです。あわせて、社内に残す業務と外部化できる業務を切り分け、経理アウトソーシングや派遣の活用も検討するとよいでしょう。
定型業務については代替できます。
ただし、経営判断に関わる業務や社内コミュニケーションが必要な業務は、社内に残す設計が必要です。採用とアウトソーシングを組み合わせることで、より安定した経理体制を作れます。
経理担当者の採用が難しい背景には、市場構造、法改正、条件面での競争、採用要件と人材市場のギャップがあります。
特に中小企業では、日常経理から月次決算、業務改善までを一人に任せようとすることで、採用難易度が高くなりやすいです。
まとめると、以下の通りです。
経理担当者が採用できない場合は、採用活動だけに頼るのではなく、社内に残す業務と外部化できる業務を整理し、採用活動中でも経理を止めない体制を作ることが重要です。
Remoba経理では、公認会計士・税理士の監督のもと、経理業務の整理から月次決算体制の構築まで支援しています。採用活動中の経理業務の空白対応や、採用後の体制設計についてもお気軽にご相談ください。