スタートアップの労務はいつから・何をやる?従業員数ステージ別のやることリストと体制の作り方

スタートアップの労務はいつから・何をやる?従業員数ステージ別のやることリストと体制の作り方

労務更新日:2026-07-09

スタートアップの労務は「後回し」が最大のリスク。未払い残業や社会保険の加入漏れは、資金調達やIPOの足かせになります。本記事では、創業期〜50人規模までのステージ別にやるべき労務手続きと、自社対応・社労士・システム・アウトソーシングの体制の選び方を、2026年の最新制度を踏まえて解説します。

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「プロダクト開発と資金調達で手一杯で、労務まで手が回らない」スタートアップでよく聞く声です。労務は、やらなくても今日明日の事業が止まるわけではないため、どうしても後回しになります。

しかし、労務の対応漏れは時間差で牙をむきます。未払い残業代、社会保険の加入漏れ、就業規則の未整備といった問題は、その場では表面化しませんが、従業員とのトラブルや、資金調達・IPOの審査のタイミングで一気に顕在化します。しかも、後から遡って修正するコストは、最初から整えておくコストよりはるかに大きくなります。

この記事では、「今の従業員規模で、労務として何をやるべきか」を判断できるように、ステージ別のやることリストと、体制の作り方を解説します。創業まもない経営者や、1人目のバックオフィス担当者に向けた内容です。

スタートアップの労務とは?後回しにされやすい理由

労務とは、従業員が働くうえで必要な手続きや管理を行う仕事の総称です。具体的には、入退社の手続き、勤怠管理、給与計算、社会保険・労働保険の手続き、年末調整、就業規則の整備などが含まれます。

スタートアップで労務が後回しになりやすいのには、明確な理由があります。第一に、専任の担当者が多くの場合いないことです。多くのスタートアップでは、経営者自身や、エンジニア・営業と兼務する1人目の管理部門メンバー(採用担当や経理担当)が労務を担っています。第二に、労務は専門知識を要するにもかかわらず、その知識を持つ人が社内にいないこと。第三に、フレックスやリモートワークなど柔軟な働き方を採用している場合、勤怠管理や労働時間の把握がかえって曖昧になりやすいことです。

労務業務の全体像や、人事との違いについては別記事で詳しく解説しています。

関連記事:人事労務とは?仕事内容・人事と労務の違いをわかりやすく解説

労務を後回しにする3つのリスク

1. 未払い残業代

最も見落とされやすいのが残業代です。スタートアップでは「みなし残業(固定残業代)を払っているから大丈夫」と考えがちですが、固定残業代は、対象となる時間数と金額を明示し、それを超えた分は追加で支払う設計になっていなければ有効と認められません。設計を誤ると、固定残業代を払っていても未払いが発生します。

未払い残業代は、退職した従業員からの請求という形で表面化することが多く、賃金請求権の消滅時効は当分の間3年とされています。つまり、数年分の未払い分をまとめて請求されるリスクがあります。管理監督者(いわゆる「managerだから残業代は不要」という扱い)の範囲を誤解しているケースも、争いになりやすいポイントです。

2. 社会保険・雇用保険の加入漏れ

「試用期間中だから」「まだ業務委託扱いだから」「パートだから」といった理由で社会保険の加入手続きを怠るケースがありますが、これらの多くは誤解です。法人であれば、代表者1人であっても社会保険の加入義務があり、要件を満たす従業員は雇用形態にかかわらず加入対象になります。

加入漏れは、年金事務所の調査などで発覚すると、保険料を遡って徴収されます。また、社会保険料の未納や滞納は、金融機関からの融資審査にも影響し得ます。資金調達を目指すスタートアップにとって、見過ごせないリスクです。

3. 資金調達・IPOへの影響

労務の不備は、投資家によるデューデリジェンス(投資前の調査)や、上場審査で必ず確認される項目です。近年の上場審査では労務管理が重視される傾向にあり、未払い残業代のような簿外債務、36協定の未締結、社会保険の加入状況、就業規則の整備・届出・周知、ハラスメント防止体制などが確認されます。

問題は、これらを審査の直前に慌てて整備しようとしても、過去に遡って是正するのは容易ではないことです。未払い残業代は過去の労働時間の記録がなければ精算できず、労働時間の客観的な記録がそもそも残っていない、という事態も起こります。「後回しは厳禁」というのが、成長を目指すスタートアップの労務の鉄則です。

関連記事:上場準備企業×テック企業 IPOを見据えた労務体制をRemobaと伴走し整備

【従業員数ステージ別】労務のやることマップ

労務でやるべきことは、従業員数のステージによって変わります。ここでは代表的なステージごとに、最低限おさえるべき項目を整理します。自社が今どの段階にあるかを確認しながら読んでください。

役員のみ〜初めて従業員を雇うまで

法人を設立した時点で、代表者1人であっても健康保険・厚生年金保険への加入手続きが必要です。そして初めて従業員を雇うと、次の対応が発生します。

  • 労働条件通知書(雇用契約書)の作成・交付
  • 労働保険(労災保険・雇用保険)の成立手続き
  • 社会保険の被保険者資格取得届の提出
  • 給与計算と源泉徴収の体制づくり(所得税の源泉徴収、住民税の特別徴収)

このステージでの手続きは、初めての雇用手続きとして別記事で時系列に沿って詳しく解説しています。

関連記事:初めて従業員を雇うときの手続き完全ガイド

従業員10人未満

人が増え始めると、管理の仕組みが必要になります。

  • 勤怠管理の仕組み化(労働時間を客観的に記録する。自己申告のみは避ける)
  • 36協定の締結・届出・更新(従業員に法定時間外労働・休日労働をさせる場合、人数にかかわらず必要)
  • 雇用契約書のひな形整備(都度作るのではなく、テンプレート化する)
  • 業務委託と雇用の線引きの確認(実態が雇用なのに業務委託契約にしていると、後で問題になる)

36協定は「10人から」と誤解されることがありますが、時間外・休日労働をさせるなら従業員数に関係なく必要です。この点は特に注意してください。

従業員10人以上〜50人未満

常時使用する労働者が10人以上になると、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務になります。あわせて、従業員への周知も必要です。就業規則には賃金や労働時間、休日・休暇、退職に関する事項などを定めます。賃金規程を別途整備することも一般的です。

なお、10人未満であっても、労使間のルールを明確にする観点から就業規則を作成するメリットは大きく、早めの整備が推奨されます。

また人数が増えていくに従って確認事項・業務の複雑性・単純な業務量(特に勤怠管理・個別人別の給与計算の変更事項と計算結果の確認など)が増加していくため兼任者の負担が増加、または専門性が追いつかなくなりがちです。

従業員50人まで

この規模になると、専任労務担当者がいる場合が多いです。ただし、労務が特定の担当者に集中し、属人化のリスクが顕在化してきます。「給与計算はあの人しか分からない」という状態は、担当者の退職・休職で業務が止まる危険をはらみます。1人の担当者では回らなくなるタイミングでもあります。

関連記事:労務の属人化を解消する方法|給与計算・社会保険手続きが「担当者しか分からない」を防ぐ実務ステップ

従業員50人到達

常時使用する労働者が50人以上になると、対応すべき義務が一気に増えます。

  • 衛生管理者の選任(労働基準監督署への届出が必要)
  • 産業医の選任
  • ストレスチェックの実施(年1回、常時50人以上の事業場に義務)
  • 障害者雇用状況の報告、障害者雇用義務への対応
  • 定期健康診断結果報告書の提出

「50人の壁」と呼ばれるこのステージは、労務の負担が質・量ともに大きく変わる節目です。

IPO準備期

上場を見据える段階では、労務コンプライアンスの水準が一段と引き上げられます。労働時間の客観的な記録の徹底、未払い残業代の有無の検証、管理監督者の範囲の見直し、36協定の適正な運用、各種規程の整備状況の点検などが求められます。労務デューデリジェンスに耐えうる体制を、審査の直前ではなく前もって構築しておく必要があります。

【補足】2026年以降の社会保険適用拡大に注意

2025年6月に成立した年金制度改正法により、短時間労働者(パート・アルバイト)の社会保険の適用範囲が段階的に拡大されます。2026年10月には賃金要件(いわゆる「106万円の壁」)が撤廃され、企業規模要件も2027年10月以降、段階的に縮小・撤廃される予定です。

これにより、これまで加入対象外だった規模の企業でも、週20時間以上働く短時間労働者を社会保険に加入させる必要が生じていきます。パート・アルバイトを活用するスタートアップは、自社が対象となる時期と、対象者の把握・手続きの準備を早めに進めておくことが重要です。最新の要件は制度変更が続くため、厚生労働省・日本年金機構の情報を確認してください。

労務体制の作り方|4つの選択肢と使い分け

労務を「誰が・どうやって」回すか。主な選択肢は4つあり、それぞれ向き不向きがあります。

自社対応(内製)は、知識やノウハウが社内に蓄積するメリットがありますが、いくつかの見落とされがちな弱点があります。まず、専門知識のない担当者が調べながら対応すると手戻りが多く、本業を圧迫します。創業初期は経営者の時間が最も貴重なリソースであることを踏まえると、すべてを内製するのは非効率になりがちです。

さらに、担当者の定着という観点でも注意が必要です。少人数のスタートアップでは労務担当が1人しかいないことが多く、給与計算や社会保険手続きといった月次のルーティンが中心になるため、専任者としてのキャリアパスを描きにくいという課題があります。相談できる同僚もおらず孤立しやすいうえ、業務が属人化して「休みも取りにくい」状況に陥りがちです。こうした環境は離職につながりやすく、担当者が辞めた瞬間に労務が一気に回らなくなるという形でリスクが表面化します。内製を選ぶなら、担当者を1人に抱え込ませず、業務の記録・共有と、外部の相談先を用意しておくことが定着の鍵になります。

社労士顧問は、労働・社会保険の手続き代行(社労士の独占業務)や、専門的な相談への対応を任せられます。ただし、日々の給与計算のオペレーションや、社内での情報収集・データ入力までを担ってくれるわけではないため、社内側の作業は残ります。相談役として有効ですが、実務がゼロになるわけではない点は理解しておく必要があります。

労務管理システム(勤怠管理・給与計算・入退社手続きのクラウドサービス)は、手続きを効率化し、標準化する効果があります。ただし、ツールを導入しても「運用する人」の問題は解決しません。設定や運用が特定の担当者に依存すれば、属人化はシステムの中に移動するだけです。

労務アウトソーシング(BPO)は、労務業務を作業ごと外部に委託する方法です。委託にあたって業務フローが文書化され、チーム体制で運用されるため、属人化を構造的に防げます。システム導入と社労士連携をセットで提供するサービスもあり、専任担当者を置く余裕のない創業期〜成長期のスタートアップと相性が良い選択肢です。

選択肢

カバー範囲

向いている規模・状況

自社対応

全業務(ただし品質は担当者次第)

ごく少人数で、労務知識のある人がいる場合

社労士顧問

手続き代行・専門相談

専門判断を仰ぎたいが、日常作業は社内で回せる場合

労務管理システム

手続きの効率化・標準化

業務量が増え、手作業に限界が来た場合

アウトソーシング

業務プロセスごと代行

専任を置けない/属人化を避けたい成長期

実際には、これらを組み合わせるのが一般的です。たとえば「システム+社労士顧問」「システム+BPO」のように、自社のリソースと課題に応じて構成します。

関連記事:労務アウトソーシングとは?業務範囲・費用・メリット・注意点を解説

関連記事:労務管理システムとは?選び方とおすすめ比較

スタートアップの労務でよくある失敗例

  • 固定残業代の設計ミス:時間数・金額の明示がなく、就業規則と雇用契約書の内容も食い違っていて、結局「みなし残業」として認められなかった。
  • 勤怠が自己申告のみ:客観的な記録がないため、後から労働時間を立証できず、未払い残業代の精算で不利になった。
  • 入社手続きの積み残し:採用を優先するうちに社会保険の加入手続きが後回しになり、加入時期がバラバラで管理不能になった。
  • 業務委託と雇用の混同:実態は指揮命令下で働く従業員なのに業務委託契約にしており、社会保険・雇用保険の未加入を指摘された。
  • 担当者の退職でブラックボックス化:労務を1人に任せきりで、その人が辞めた途端に給与計算の方法が分からなくなった。

これらはいずれも、後から是正するコストが大きい失敗です。仕組みと記録を早めに整えることが、結果的に最も安上がりになります。

関連記事:労務アウトソーシングの失敗例と選び方

導入事例:成長フェーズの労務体制の整え方

急成長するスタートアップや、上場を見据える企業では、増える従業員数に労務体制が追いつかず、特定の担当者に負荷が集中しがちです。Remoba労務では、業務フローを整理・文書化したうえでチーム体制で運用することで、担当者の負荷を抑えながら、成長フェーズに耐えうる労務体制の構築を支援しています。

よくある質問(FAQ)

Q. 就業規則は従業員が10人になるまで作らなくてよいですか?

法律上の作成・届出義務は常時10人以上からですが、10人未満でも作成するメリットは大きいです。労働条件や社内ルールを明文化しておくことで、労使間の認識のずれやトラブルを防げます。早めの整備をおすすめします。

Q. 労務は社労士とアウトソーシングのどちらに頼むべきですか?

役割が異なります。社労士は手続き代行や専門的な相談の専門家で、アウトソーシング(BPO)は日々の労務業務を作業ごと代行するサービスです。「専門判断を仰ぎたい」なら社労士、「実務そのものを任せて属人化も防ぎたい」ならBPO、という使い分けになります。両者を組み合わせるケースも多くあります。

Q. 役員だけの会社でも社会保険は必要ですか?

法人の場合、代表者1人であっても健康保険・厚生年金保険への加入義務があります。「従業員がいないから不要」というのは誤解です。

Q. 労務担当は何人規模から専任を置くべきですか?

明確な基準はありませんが、従業員が数十人規模になり、給与計算や手続きの負荷が兼務では回らなくなってきたら検討時期です。ただし、専任を1人置くと今度は属人化のリスクが生じるため、システムやアウトソーシングと組み合わせて体制を設計するのが安全です。

まとめ

スタートアップの労務は、後回しにするほど後から支払うコストが大きくなる領域です。未払い残業代や社会保険の加入漏れは、従業員とのトラブルや、資金調達・IPOの審査で顕在化し、遡っての是正は困難を伴います。

まずは自社の従業員数ステージで「最低限やるべきこと」を確認し、抜けている手続きを埋めることから始めてください。そのうえで、経営者や1人目の担当者の時間を本業に振り向けるために、社労士・システム・アウトソーシングをどう組み合わせるかを検討するのが、成長するスタートアップの現実的な進め方です。

Remoba労務は、給与計算・勤怠管理・入退社手続きなどの労務業務を、業務フローの整理・文書化とあわせてチーム体制で運用するオンライン労務アウトソーシングです。専任担当者を置く余裕がない、属人化を避けたいというスタートアップは、お気軽にご相談ください。

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この記事の監修者

辻田和弘のプロフィール画像

株式会社Enigol

辻田和弘

東京大学経済学部卒業後、丸紅株式会社に入社。経理部にて事業投資案件の会計面での検討・支援を担当するほか、子会社の内部統制構築、IFRS導入プロジェクト、全社連結会計システム導入プロジェクトに従事。公認会計士・税理士として長年にわたり会計・税務専門業務に携わった経験を持つ。現在は株式会社Enigolを創業し、Remoba(リモバ)経理・労務の総合監修を担当。スタートアップから中小企業・大企業まで、経理・労務を含むバックオフィス業務全般の支援を行っている。

資格
公認会計士
税理士

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