1. 従業員の適切な休職・復職手続きとは?給与や診断書はどうする?
従業員の適切な休職・復職手続きとは?給与や診断書はどうする?

従業員の適切な休職・復職手続きとは?給与や診断書はどうする?

労務更新日:2024-09-22

労務管理の中に頻繁に登場する「休暇」と似て非なるものとして休職があります。しかし、労働基準法の中に休職の規定はありません。休職は企業独自に定めるもので休職がないこと自体が違法とはなりません。しかし、休職には労使双方にメリットがあります。今回は休職にフォーカスをあて解説してまいります。

休職とは

休職とは労働者に労務の継続的な提供が困難な事由が生じたときに労働契約の存続自体は継続させ、労務提供を免除する制度です。実務上多いのが私傷病により労働契約上期待される労務の提供が困難となった場合に休職扱いとする取り扱いです。

本来、労働者が私傷病により長期間にわたって労務の提供が不能となった場合、契約上は債務不履行となり解雇を議論することとなります。しかし、解雇に踏み切るのは使用者の心情的にも負担が大きく、一定期間その決断を猶予できることから、解雇の猶予措置としての機能を持っています。

そして、労働者としても雇用関係の継続は経済的にも一定程度身分が保証された状態であり、特に子供を養う労働者の場合は精神衛生上も安定すると考えます。

休職制度が設けられているにも関わらず私傷病が原因で労務の提供が困難となった場合、休職制度を適用することなく解雇を決断しても当該解雇は無効となる可能性が極めて高いと考えます。

近年ではうつ病などのメンタル疾患への罹患もあり、その特徴として再発を繰り返すことが挙げられます。よって、休職規定を新設する場合はその点も考慮し、作成することが望ましいと考えます。

大企業と中小企業における休職制度

休職期間については大企業と中小企業では同じ期間を設定することは適切ではないでしょう。これは大企業であれば代替要員の確保も中小企業と比べて難渋することも少ないことが挙げられるためです。よって同業他社の動向等も勘案して決定したい部分です。他方で既に同業他社よりも長い休職期間を設定している企業の場合は期間の短縮は労働条件の不利益変更に当たることから慎重に対応すべきです。

しかし、労働条件や賃金などはその企業の多くの労働者に当てはまり、経済的な負担も大きくなると言えます。反対に休職となると多くの労働者に当たるとは言えず、不利益変更の度合いは少ないと言えます。しかし、既に休職中の労働者に対して変更後の(短縮した)休職期間が既に経過しているから明日から復職できない場合は解雇となるなどの対応は適切ではありません。このような場合は経過措置を設けるなどして緩和措置をとることが適切な労務管理となります。

病気休暇と休職

休職とは別に企業独自で病気休暇を設けている場合もあります。その場合、一般的にはまず病気休暇を使用し、その後も労務に服することが困難である場合は休職に入るのが一般的です。

診断書の提出

休職を発令するに際して実務上は診断書の提出を義務付けることが多くあります。これは、労働契約上の労務提供の不履行を申し出てその理由を明らかにするのは労働者の義務であり、使用者としても労働者の健康状態を把握しなければ適切な判断が下せません。

また、他の労働者も雇用している場合は職場環境維持の観点からも休職を申し出る(又は使用者から休職発令を検討するために診断書の提出を求める)場合には診断書の提出を求めることを就業規則に明記すべきです。これは、診断書の提出(医学的判断)がなければ専門家による客観的な判断と言えず、仮病対策にも有用と考えます。

休職中の賃金

休職中の賃金については労働基準法に休職自体の規定がないことから賃金についても企業の裁量で決定できる部分です。ノーワークノーペイの原則(働いていない場合、使用者はその部分についての賃金を支払う義務はない)により使用者として賃金支払い義務は課されません。実務上は8割支給や無給など企業の体力等を考慮して決定すべき部分です。

また、現在の賃金(例えば8割支給としている)から減額または無給とする場合は休職者にとって重要な労働条件である賃金の不利益変更にあたることから、変更の必要性(経営難に陥った)や経過措置(数か月後から導入するなどの告知を行う)は必要です。また、休職に入るということは社会保険へ加入している場合、健康保険から傷病手当金(後述)が支給されることから、労務担当者としてその旨の情報提供は必要です。

傷病手当金とは

健康保険から支給されるもので療養の為、労務に服することができなくなった日から起算して継続して3日を経過した日から労務に復帰することができない期間支給される手当金です。支給額は、直近12か月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額の3分の2となります。

また、直近12か月健康保険に加入していなかった場合は以下のとおりとなります。

・被保険者期間における標準報酬月額の平均額

・被保険者の属する保険者の標準報酬月額

上記のいずれか低い額が算定の基礎となります。尚、傷病手当金は非課税となりますが、社会保険における扶養に入る場合の収入要件には含まれます。

復職とは

休職期間を経て職場復帰することを復職と言います。また、休職に限らず、育児休業や介護休業を経て職場復帰することも復職と言います。

休職期間を経て職場復帰する場合は、事前に診断書を提出し、予め復職日を設定しておくこととなります。その場合、企業の産業医との面談を設定してどの程度の労務提供が可能かすり合わせを行うなどが想定されます。

リハビリ勤務

原則として労働契約上の労務の提供ができない場合はリハビリ勤務を認めなければならない法的根拠はありません。しかし、長期的に休職をしていた労働者が復職する前の「試運転」としてリハビリ勤務を設定することがあります。

使用者がリハビリ勤務を認める際に注意しなければならない点として、認める以上は使用者に安全配慮義務が課され、万が一リハビリ勤務中に事故や傷病が悪化した場合は責任を負う可能性があります。そして、当該リハビリ出勤者の責任の程度は高くないにせよ同じ作業場の同僚や上司の負担も考慮すべきであり、慎重に判断すべき部分です。

就業規則に休職規定がない場合

就業規則に休職規定がない場合は休職を認めなければならないという根拠はありません。しかし、個別の労働契約で休職を与える旨の合意をしていた場合は、就業規則を上回る内容であっても個別合意が優先され、休職を与えなければなりません。

反対に就業規則に休職規定があり、個別の労働契約で休職に関する合意がない場合はどのように考えればよいのでしょうか。この場合は、就業規則の最低基準効(就業規則を下回る内容は無効とし、就業規則で定める内容が適用される)が働き、要件を満たしている(労務の提供ができない等)ことが前提となりますが休職を与えなければなりません。 

軽易な業務であれば復職できる場合

休職に入る前の就業場所での労務提供は困難であるものの休職前の就業場所よりも軽易な業務であれば復職可能である場合の対応はどのようにすべきでしょか。

そのような労務適用が現実的に可能であり、かつ、労働者自身が申し出ている場合には、当該申し出は債務の本旨に従った履行であると解されます。しかし、職種限定採用の合意があった場合は当該申し出に対する検討の必要性は乏しいと考えます。

その他、休職と復職における事項

治癒とは

どのような状態であれば復職可能かということですが、職務の特性によっても異なる部分です。診断書によっては、半日程度であれば就労可能などの記載があります。当然、当初締結した労働契約で期待される労務提供には達していないことも多く、就業規則には治癒後復職としての基準を設けておくなどの対応が必要と考えます。

また、復職後も通院が前提の復職であることや、断続的な出勤となる場合は同じ作業場の労働者への負担も無視できません。企業としても新たに採用するまでは人件費を捻出できず、企業全体のパフォーマンスは落ちることも想定できます。だからと言って自主退職を迫るという考え方のみでは硬直的な判断となってしまいます。断続的な労務提供となる場合の労務管理としては、同じ作業場の同僚の納得感を得る努力をし、必要に応じて労働者との面談、再休職の検討、他の部署から代替要員を確保するなどの対応が考えられます。

そして、うつ病などの精神疾患を経て復職した場合は仕事量が増え始めたタイミングや曜日によって朝いきなり出勤ができなくなったというケースも散見されます。予め当該復職者の所属する所属長に周知しておくことで突発的な対応が生じた場合も対応が可能と考えます。

休職期間の期間が満了しても従来の労務提供ができない場合

休職規定が整備されていることが前提となりますが、診断書により休職期間中に労務に服する可能性が高い場合は休職となります。しかし、重度の交通事故の場合で休職期間を満了したとしても労務に服することが極めて困難な場合、理論上は解雇となりますが、解雇の場合は労働者に意思を到達させる必要があります。昏睡状態などの場合はそもそも意思の到達は困難であり、かつ、家族への配慮も考慮すると、解雇を選択する企業はほとんどありません。

休職期間中の療養専念義務

休職とは労働契約上、取り決めた労務提供が困難となり、一定期間労務の提供を免除することです。よって、私傷病等で労務の提供が困難となった場合、休職期間中は療養に専念すべきです。そこで双方で認識合わせをする意味で、規定に盛り込むなどの対応が考えられます。

勤続年数の考え方

休職期間を勤続年数に含めるのか否かが実務上も議論が割れる部分です。例えば退職金の算定にあたって勤続年数を用いる場合が想定されます。また、退職金が整備されていない企業であっても年次有給休暇付与日数算定については、勤続年数は必要となります。結論としては年次有給休暇付与日数算定のための勤続年数については休職期間であっても参入しなければなりません。しかし「出勤率」については、業務上の負傷または疾病でない限り出勤したものとみなす必要はありません。

産業医の面談

復職にあたって産業医の面談を入れる企業が多くあります。これは、主治医の診断書のみでは企業が復職の基準として想定する治癒にあたっているのか判断がつきません。産業医の場合は主治医と比較してその企業の労働環境や作業内容等、より当該休職者の復職後の負荷も総合的に勘案した医学的な判断が可能となります。

また、復職を拒否したととられた場合は法的な紛争が生じてしまうリスクもあります。復職を見送った根拠として産業医との面談で、医学的に復職が困難であったという根拠があればその整合性は担保されるものと考えます。

通勤手段への対応

薬を服用する関係で休職前は車通勤であったものの、復職後は電車通勤を余儀なくされる場合もあります。車から電車への変更であれば一般的には通勤手当の増額程度で対応は可能と考えられます。しかし、電車から車への変更の場合、駐車場の空き状況がない場合もあり得ます。そのような場合の対応策も準備しておくべきです。解決案としては車通勤労働者に対して一定期間、他の通勤経路への変更を打診することが挙げられます。よって就業規則にはその可能性を記載(諸般の事由により労働者の希望する通勤方法(駐車場の貸与等)には応じられない可能性がある旨の記載)をしておくことが肝要です。

通勤途上でのリスク

通勤途上での負傷については乗務の性質を有する場合、経路を逸脱又は中断している場合を除いて労災保険から通勤災害への補償が整備されています。労務担当者として通勤途上での事故発生時には労災保険の支給申請フローを確認しておくなどの対応が重要です。尚、事業場内での事故の場合は業務災害として労災保険からの補償があり、通勤災害とは異なった申請となるため、注意が必要です。特に復職して間もない頃は休職前と同様の労務の提供が期待できるとは限らず、目が慣れていないこともあり、事故を起こしてしまうことも予想されます。

最後に

休職は規定しておかなければならない制度ではありませんが、規定しておくことで労務管理に幅を持たせることが可能です。休職が整備されていない場合で労働者の労務提供が長期間受領出来ない場合は、解雇や合意退職などの選択肢が現実的になってしまいます。そこで多くの企業では休職制度を採用するのが一般的です。また、今後も時代特有の疾患などこれまで想定できていなかったケースにも遭遇することでしょう。その場合は不利益変更と評価されないよう、代替措置や猶予期間を設定するなどの緩和措置を入れておくことが適切です。

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この記事の監修者

柳沢智紀のプロフィール画像

株式会社Enigol

柳沢智紀

株式会社リクルートホールディングスでWEBマーケティング業務および事業開発を経験し、アメリカの決済会社であるPayPalにて新規事業領域のStrategic Growth Managerを担当の後、株式会社Enigolを創業。対話型マーケティングによる顧客育成から売上げアップを実現するsikiapiを開発。

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