事務長代行とは、診療以外の経営業務を外部に任せる仕組み
事務長代行とは、クリニックや医療法人で事務長が担う業務を、外部の事業者に委託するサービスです。人事労務、経理、採用、行政手続きのサポート、集患のためのWeb運用まで、診療以外の経営まわりの実務をまとめて引き受けます。
常勤の事務長を雇うのではなく、必要な業務だけを必要な頻度で任せられる点が特徴です。訪問して院内に入るタイプもあれば、オンラインだけで完結するタイプもあります。
院長が診療の合間に行政への届出を確認したり、求人原稿を書いたり、スタッフの面談日程を調整したりしている状態を解消するための選択肢、と考えるとわかりやすいかもしれません。
事務長代行が必要になるタイミング
事務長代行の導入が検討されるのは、おおむね次のような場面です。
- 院長の時間が診療以外に取られている — 行政手続き、スタッフ対応、業者との交渉・IT関連の設定等が診療後や休診日に食い込んでいる
- スタッフが増えて労務管理が回らなくなった — 人数が10名を超えたあたりから、シフト、評価、面談の負荷が急に上がります
- 常勤の事務長を雇うほどの業務量ではない — 週5日分の仕事はないが、院長が片手間でやるには重い
- 分院の開設や法人化を控えている — 一時的に実務が増えるが、そのために人を採用すると終了後に持て余す
- 事務長が退職した — 後任が決まるまでの期間を埋める必要がある
このうち常勤を雇うほどではないが、事務長代行がもっとも選ばれる理由です。
事務長代行に任せられる業務・任せられない業務
任せられる業務
各社の対応範囲を調べた限り、共通して対応しているのは次の領域です。行政手続は独占業務になるため直接の代行は行政書士等の士業・士業法人でないと代行できません。そのため各社必要な手続きの洗い出し・士業への連絡などのサポートとなります。
- 人事労務 — 勤怠集計、シフト作成、就業規則の整備、スタッフ面談、評価制度の設計
- 採用 — 求人原稿の作成、媒体の選定、応募者対応、面接日程の調整
- 経理 — 記帳、支払管理、給与計算、会計事務所との窓口
- 行政手続き — 保険医療機関の各種届出、施設基準の管理、更新手続きのサポート
- 集患・広報 — ホームページの更新、SNS運用、口コミ対応、広告の管理
- 庶務 — 業者との交渉、備品発注の一元化、契約の見直し
任せられない業務
一方で、外部に出せない業務もあります。
- 診療行為と医学的判断 — 当然ながら委託できません
- 保険請求の最終責任 — レセプトの作成支援は任せられますが、請求は保険医療機関の名義で行われるため、内容に対する最終的な責任は医療機関に残ります
- 最終的な経営判断 — 分析や提案は受けられますが、決めるのは院長です
どこまでを外に出し、どこから院内に残すのかを先に決めておくことが、導入がうまくいくかどうかの分かれ目になります。
事務長代行と医療事務代行はどう違うのか
混同されやすいのですが、この2つは守備範囲が違います。
| 事務長代行 | 医療事務代行 |
|---|
担当する領域 | 経営・管理(労務、採用、経理、行政、集患) | 診療まわりの実務(受付、会計、レセプト) |
想定する読者の悩み | 院長の経営業務が回らない | 医療事務の人手が足りない |
置き換える対象 | 事務長 | 医療事務スタッフ |
現場に入るか | 訪問またはオンライン | 常駐またはオンライン |
レセプト業務が滞っているなら医療事務代行、院長が診療以外の判断と手続きに追われているなら事務長代行、という切り分けになります。両方に課題がある場合は、どちらから手をつけるかを決めてから相談した方が、見積もりの精度が上がります。
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事務長代行の費用|月額だけを並べても比較になりません
課金方式は3種類に分かれます
18社を調べて最初に分かったのは、料金の決まり方が揃っていないことです。大きく3種類あります。
課金方式 | 料金の決まり方 | 採用している主なサービス |
|---|
時間制 | 月あたりの稼働時間で決まる | レンタル事務長さん、SABU、Remoba |
訪問回数制 | 月に何回訪問するかで決まる | クリニックマネージャー、ROOTS、成迫会計事務所、ジムチョー |
駐在型 | 週◯日・月◯日の常駐で決まる | セトルメディカル、シマカワ |
公開されている金額を並べると月額30,000円から1,100,000円まで35倍以上の開きがありますが、これは「安い・高い」の差ではなく、何を買っているかが違うことによる差です。
比較サイトでは相場は月額10万〜20万円、と書かれていることがありますが、実際のレンジを見る限り、単一の相場を示すこと自体があまり意味を持ちません。
時間単価に揃えると比べられます
時間制のサービスは、時間単価に直すと横並びで比較できます。
時間単価が安い順に並べると、次のようになります。
サービス | 月額(税込) | 月あたり時間 | 時間単価 |
|---|
Remoba | 105,600円 | 30時間 | 3,520円 |
SABU スタンダード ※歯科専門 | 148,500円 | 25時間 | 約5,940円 |
SABU MINI ※歯科専門 | 93,500円 | 12時間 | 約7,792円 |
レンタル事務長さん 経営参謀 | 396,000円 | 50時間 | 約7,920円 |
レンタル事務長さん スタンダード | 209,000円 | 25時間 | 約8,360円 |
レンタル事務長さん ミニマム | 110,000円 | 12.5時間 | 約8,800円 |
※SABUは歯科医院専門のため、医科クリニックは対象外です。各社公式サイトおよび比較メディアの公開情報(2026年10月時点)
ここで注目したいのが、月額の順番と時間単価の順番が一致しない点です。月額だけを見れば「SABU MINI 93,500円」が「レンタル事務長さん ミニマム 110,000円」より安く見えますが、どちらも時間単価では8,000円前後で大きな差はありません。一方、月額148,500円のSABUスタンダードは時間単価5,940円と、月額の低いプランより割安です。
時間数を公表しているサービス自体がまだ少ないため、この表に載せられたのは3社のみです。裏を返せば、見積もりの際に「月何時間分か、どれくらいの業務量が可能か」を聞くだけで、他院が比較できていない軸で判断できるということでもあります。
一般に、契約時間数が多いプランほど時間単価は下がります。見積もりを取るときは、必ず月あたりの稼働時間を確認してください。
訪問回数制の場合は、1回の訪問が何時間かを確認すると、同じように比較できます。
常勤の事務長を雇う場合との比較
事務長代行を検討する院長が本当に知りたいのは、人を雇う場合と比べてどうかということだと思います。
業界メディアや求人情報を見ると、クリニックの事務長の年収はおおむね500万〜700万円程度とされることが多く、経験や役割によってはそれ以上になることもあります。ただし、実際に医療機関が負担する額は給与だけではありません。
- 社会保険料の事業主負担 — おおむね給与の15〜16%が上乗せされます
- 採用コスト — 求人広告費または人材紹介手数料。紹介の場合は想定年収の数十パーセントが一般的です
- 教育コスト — 入職後、クリニックの事情を把握して独力で回せるようになるまでの期間
年収600万円の事務長を雇う場合、社会保険料の事業主負担だけで年間90万円前後が上乗せされ、実質的な負担は年700万円近く、月あたりおよそ58万円という計算になります。ここに採用費と教育期間が加わります。
事務長代行の料金と単純比較はできませんが、月50万円を超えるあたりが、常勤を雇う場合との損益分岐の目安になります。それ以下の業務量であれば、代行の方が合理的な場合が多くなります。
あわせて考えたいのが、1人に依存するリスクと人間関係のリスクです。常勤の事務長が1人の場合、その人が退職すると業務とノウハウが同時に失われます。また狭い人間関係で、合わない人が入ればギクシャクすると言ったリスクも存在します。代行であれば事業者側の体制で継続されます。
クリニック向け事務長代行サービス比較18選
調査時点で公開されている情報をもとに18社を紹介します。掲載順は課金方式ごとの分類で、1〜3が時間制、4〜7が訪問回数制、8〜9が駐在型、10〜12が月額定額・オンライン中心、13〜18が料金非公開のサービスです。優劣を示すものではありません。料金は税込・税別の表記が各社で異なるため、記載があるものはそのまま記しています。
なお2・17・18の3社は歯科医院専門で、医科クリニックは対象外です。