1. 従業員の給与と役員報酬の決め方とは?変更時の注意点も解説
従業員の給与と役員報酬の決め方とは?変更時の注意点も解説

従業員の給与と役員報酬の決め方とは?変更時の注意点も解説

労務 更新日:
リンクをコピー

企業は従業員に指揮命令を行う使用者側と先の指揮命令に従う労働者側に分けられます。労働者は使用者から給与を受けますが、その際に考慮すべき点とはどのようなものがあるのでしょうか。また、使用者側(特に役員)の給与または報酬の決定において考慮すべき点とはどのようなものがあるのでしょうか。

目次

給与の決定の仕組み

給与を決定するにあたっては基本給と手当に分けて考える必要があります。

基本給

基本給については月給制、時給制、または日給制などに分けられますが、まずは、新卒者であっても地域別の最低賃金を下回ってはなりません。尚、地域別最低賃金は毎年10月頃に発表となります。東京都、神奈川県では1,000円を超えていますが最低賃金を下回ることはできません。時給制であれば容易に比較が可能ですが、月給制であっても時間あたりに換算し、最低賃金を下回っていないか確認しなければなりません。

尚、月給制での確認方法は以下のとおりです。

月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)

手当

次に基本給と分けて考えるべきとした手当について確認しましょう。手当は最低賃金と異なり、支払わなければならない最低ラインの設定はないものの、既に就業規則で記載している場合は、就業規則に記載されている内容に則り支払わなければなりません。例えば通勤手当や住居手当などが挙げられます。同じ手当であってもバスや電車で通勤する従業員への通勤手当の場合は月額15万円までは非課税となりますので、誤って課税しないよう注意が必要です。尚、15万円を超えると課税という理解です。

また、手当額については、昨今の最高裁判例でも判示されたとおり、パート従業員との同一労働同一賃金問題も無視できず、どのような趣旨で払う手当なのかは整理しておかなければなりません。また、パート従業員から説明を求められた場合は説明に応じる義務があります。会社として趣旨が不明瞭な場合は問題となる前に労務担当者から管理職層に進言し、会社としての意思決定を促すなどの対応は急務と言えます。

求人票への記載

これから人を募集する場合にはハローワークなどに求人票を提出します。当然その中には給与額を記載しますが、近年ハローワークからも強く指導が入る部分として固定残業代を採用している場合は以下の内容を明記しなければなりません。 

・固定残業代を除いた基本給の額
・固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
・固定残業時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨

これは基本給に固定残業代が含まれている場合、実際よりも基本給が高くなっているにも関わらずに入社し、その後トラブルに発展してしまうことを回避する為でもあります。

尚、求人票に記載する給与額は少なからず求職者の申し込みに至る誘引となることから、実態と乖離した金額で記載することがあってはなりません。しかし、求人票に記載した金額が入社時に支払われる給与を約束したとまでは言えませんので、万が一求人票と異なる給与を支払わざるを得なくなった場合はその旨を説明する必要があります。

給与決定後の運用

言うまでもなく、給与は労務の提供を受ける限り支払い続けるものです。また、他の企業との差別化や長期雇用へのインセンティブとして「定期昇給」を設ける企業が多くあります。しかし、自社の体力を考慮して決定すべき部分です。例えば必ず毎年1回昇給させるのか、昇給幅(比較的基本給が低額な若年層のみ昇給幅を大きくするなど)を世代によって変動させるのかは要検討事項です。

給与の種類

職能型と職務型による給与の相違点

職能型職務型では決定する給与の額は全く異なります。そもそも考え方の根底が異なる為に、職能型から確認しましょう。

職能型とは日本企業の多くが採用する賃金制度です。いわゆる終身雇用・年功序列賃金と親和性の高い賃金制度と言えます。仕事内容によらず、年齢や勤続年数に応じて昇給していくことから、若年層の給与は低く設定されており(企業によって程度の差はあるものの)55歳程度で生涯最高賃金となります。

反対に職務型の場合は与えられる仕事によって給与が異なることから、若年層であっても入社時からベテラン層以上の給与を受ける従業員も散見されます。

具体的な給与額は業界によっても異なりますが、Withコロナ時代においては完全な職能型への移行は難しいとされながらも職能型に一部職務型を含めた賃金制度が採用される流れになりつつあります。

新規学卒者の給与

年々上昇傾向にある新規学卒者の給与については定期昇給を意識した設定額、職務型で入社当初からインセンティブを付与した額とするかで全く異なります。特にAIなどの高度な専門的知識を有する新規学卒者の給与を設定する場合は後者の職務型を採用し、入社当初からインセンティブをより明確化した給与額を設定することが多くなってきました。

中途採用者の給与

雇用の流動化が顕著になり、新卒一括採用横並び昇給の一択ではなくなってきています。中途採用者はより良い労働条件、待遇を求めてキャリアアップのための転職をすることが増えてきました。そこで、中途採用をするにあたってはどのような期待をするのかを明確にし、給与額を決定すべきです。

雇用の流動化に対する考え方

働き方改革の1施策に「多様な働き方」が掲げられています。これは多様性を尊重し、ワークライフバランスを意識した長く働ける社会を形成しようということです。無理のある働き方をして高い報酬額を得たとしてもそのような働き方は長く続けることは難しいでしょう。よって、給与額のみにフォーカスした賃金制度では、社員の定着に疑問符がつくことがあります。給与額、福利厚生、一定の権限の委任など、社員として組織に対する帰属意識が芽生える人事施策が雇用の流動化の時代であっても人手不足に陥らない考え方ということです。

役員報酬の決定

役員報酬の決定については会社法で定款の定めまたは株主総会での決議が必要との規定があります。よって、定款の規定がなければ株主総会の決議によって定めるということになります。これは、役員報酬を取締役自身で決定できるとなると不当に高額な報酬を受け取る可能性があり、株主の利益を害すること繋がりかねないためです。 

そもそも労働契約である従業員とは異なり、委任契約となる役員の報酬については契約形態のスタートから異なっており、前述のとおり定款または株主総会の決議で決定されます。実務上は定款に定めているケースは多いとは言えず、株主総会の決議で決定されます。透明性を示す意味でも株主総会での決議の方が株主の納得感は得られるでしょう。

そして、何の通告もなしに株主総会において役員報酬の決定を取り扱うことは適切ではなく、株主総会の招集通知(役員報酬の決定)にもその旨の記載をすることが求められます。

また、税法上の観点からも役員報酬を変更する場合、損金に算入できるのは、原則として期首から3ヵ月以内の変更に限られるとの要件があります。尚、期首から3ヵ月を過ぎてからの変更は、役員の職責の変更や経営悪化など、やむを得ない事情があるケース以外を除き、損金算入は認められません。 

この取り決めの背景には「利益操作」が挙げられます。例えば取り決めがないことにより、役員報酬を自由に変更できるとしましょう。ある年度には多額の利益が出たとして、期末にその利益を役員報酬として支給することで利益を圧縮することができます。ゆえに本来支払うべき法人税を前述の「利益操作」によって少ない法人税しか支払わないで済むことが可能となってしまいます。

これらの逸脱した操作を防ぐために「定期同額給与」として支払われる報酬が損金算入として認められるという理解です。

経営的な視点からの役員報酬

伸びていく会社の特徴として中小企業の頃の気持ちを忘れないという点があります。また、経営者自身が社員の頃の気持ちを忘れないということも重要です。利益が出てくると前述の初心を忘れてしまうことがありますが、その時に経営者のみで利益を分配してしまうと縁の下で支える社員の帰属意識の低下が始まります。

経営は社員がいなければ成り立ちません。また、成り立ったとしても拡大させることは困難です。

役員報酬変更の留意点

役員報酬の変更における原則として「期首から3ヵ月以内の変更に限られる」の考え方は報酬額を増額する場合に限らず、減額する場合も同じです。

以下の例をご確認下さい。4月が期首の企業で、8月に役員報酬を増額した場合です。増額した分は法人税の対象となり、個人にも所得税が課せられます。また、8月に役員報酬を減額した場合(100万円から70万円)は4月から7月は70万円が損金算入であり、(100万円-70万円=30万円)30万円×4ヶ月が損金不算入となります。

役員報酬変更に至る背景の一つ(年金制度)

役員報酬を変更する背景の一つに支払った保険料に見合った年金額の受け取りがあります。一般の従業員と比較しても高収入である役員は報酬比例の性質上、報酬が高ければ高いほど保険料も高くなる仕組みが導入されています。そして、その仕組みは健康保険だけでなく年金も同じ仕組みとなっています。また、現行の法律では65歳から受け取り開始の老齢厚生年金については在職老齢年金という仕組みが導入されており、年金額と報酬の合算額によっては年金の全部または一部がカットされる仕組みが組まれています。そこで、年金カットを回避すべく役員報酬を下げるという選択が取られていますが、いくつかの留意点があります。

報酬を下げたとしても直ぐに年金が受給できるわけではない

標準報酬月額(受けた報酬を所定の区分によってわけた金額)が2等級以上下がる場合は低下した報酬を受けた月から起算して4か月目から標準報酬月額が下がります。

例えば4月から報酬が下げたとしても実施には7月までは標準報酬月額は下がらないということです。ゆえに年金受給の観点からも4月分から直ぐに年金を受給できるということにはなりません。また、在職老齢年金は毎月の給与(報酬)だけでなく、賞与も含めて年金を止めるか否かが決定されます。よって、1年前に多額の賞与を受けていた場合はその賞与も含めた報酬となるために、賞与が原因で受給できなかったというケースもあります。

極端に下げてしまうと老後のリスクとなる

損失回避バイアスが働き、支払った保険料分は年金を受給して回収しようとするあまり、年金受給にフォーカスしすぎる場合もあります。しかし、報酬比例の性質上、長く働く時代とは言え早期から年金受給のために報酬を下げるといざ年金受給の際に原資となる標準報酬が低くなってしまします。その場合、どのような形でデメリットを受けるのでしょか。

それは、終身にわたって受け取れる老齢厚生年金が終身にわたって低額になってしまうということです。老齢厚生年金は唯一の失権事由が死亡です。引退後は年金以外の定期的な固定収入が見込めなくなることが多いでしょう。その場合に現役世代の一時期のみ(70歳引退の場合は65歳から70歳までの5年間)に固執するあまり、判断を誤ることにもなりかねません。一例として以下のケースが想定できます。

賞与への割り振り

老齢厚生年金は標準賞与額の上限が150万円であり、150万円を超える賞与を受けたとしても150万円とみなして標準賞与額が計算されます。よって、毎月支払う予定であった報酬を賞与に割り振るという発想です。(期首から3ヶ月以内に変更)

退職金として支給

退職金は通常支給する給与に比べて所得税の徴収が緩やかです。これは長年の勤続に対する功績に報いるためです。また、社会保険料も発生しません。

賞与への割り振り、退職金として支給いずれを選択しても長い期間、かつ、極端に割り振ってしまうと老齢厚生年金自体が低額となってしまい、老後の貴重な収入源が低額となるリスクがあります。よって、慎重な判断が求められます。

最後に

給与・役員報酬の決定はベストな正解はないもののベターは存在します。現状の設定額で継続して支払い続けることができる設定額か、同業他社と比べてどの程度の額か、役員報酬は株主の理解を得るに相応しい額かなどは予め自問自答しておくべきです。給与や報酬は生活へ与える影響が極めて大きく、一度決定した額から引き下げるのは不利益変更の見地からも相当な理由がなければ難しい場合が多いと言えます。

 

SaaS×BPOで人事労務業務を効率化

人事労務クラウドサービスの導入や運用を任せるならSaaS運用のプロ "Remoba"

資料バナー

この記事の監修者

蓑田真吾のプロフィール画像

社会保険労務士

蓑田真吾

社会保険労務士(社労士)独立後は労務トラブルが起こる前の事前予防対策に特化。現在は労務管理手法を積極的に取り入れ労務業務をサポートしています

資格
社会保険労務士
Remoba労務トップ

目次

新着記事

\ Remobaなら労務をまるっと請け負います /

サービス一覧