勤怠管理の丸め処理(打刻まるめ)は、切り捨ては原則違法・切り上げはOK。違法になるケース・例外的に認められるケース・Excelでの計算方法・システム設定の注意点まで人事担当者向けに解説します。

勤怠管理の丸め処理(打刻まるめ)は、切り捨ては原則違法・切り上げはOK。違法になるケース・例外的に認められるケース・Excelでの計算方法・システム設定の注意点まで人事担当者向けに解説します。
勤怠管理システムの設定画面でよく見かける「丸め処理」。給与計算の手間を省くために導入している企業は多いものの、使い方を誤ると労働基準法違反になるリスクがあります。本記事では、丸め処理の基本的な仕組みから、違法になるケース・ならないケース、例外的に認められる端数処理、Excelでの計算方法、システム設定の注意点まで、人事・労務担当者の視点で網羅的に解説します。
勤怠管理の丸め処理とは、出退勤の打刻時刻を決まった単位(5分・10分・15分・30分など)で切り上げ・切り捨てする処理のことです。「打刻まるめ」「端数処理」とも呼ばれます。
始業・終業ともにぴったりの時刻で打刻できる従業員は多くありません。8時53分に出勤、18時08分に退勤というように、必ず端数が生じます。その端数をキリのよい時刻にまとめる処理が丸め処理です。丸める単位は企業やシステムによって異なり、5分・10分・15分・30分などさまざまです。
たとえば15分単位で丸め処理を行っている場合、退勤打刻が18時08分なら次のように変わります。
場面 | 丸め処理の例 | 備考 |
出勤打刻 | 8時53分 → 9時00分(切り上げ)または8時45分(切り捨て) | 始業前の待機時間との調整が目的になることも |
退勤打刻 | 18時08分 → 18時00分(切り捨て)または18時15分(切り上げ) | 切り捨ては原則違法 |
月次残業集計 | 月間残業の1時間未満端数を30分基準で切り上げ・切り捨て | 唯一例外的に認められる丸め |
丸め処理の適法性は「単位の大きさ」ではなく、「従業員に不利益が生じるかどうか」で判断されます。切り捨て方向の丸めは原則違法、切り上げ方向であれば違法になりません。
労働基準法第24条(賃金全額払いの原則)は、実際に働いた時間に対して賃金を全額支払うことを義務付けています。退勤時刻を実際より早く集計する切り捨て処理は、その分の賃金が支払われなくなるため、原則として法律違反です。単位が5分であっても、切り捨てであれば同じ理由で違法になります。
関連記事:賃金支払い5原則とは?平均賃金や最低賃金・賃金台帳も解説
従業員に不利益が生じない丸め処理であれば、法律上の問題は生じません。代表的なのは次の3つです。
丸め処理の種類 | 内容 | 適法性 |
退勤の切り上げ | 18時08分 → 18時15分として集計 | 適法(企業側が多く払う方向) |
月次残業の端数処理 | 1カ月の残業合計の1時間未満を30分基準で処理 | 適法(昭和63年基発150号による例外) |
打刻と実労働の乖離調整 | 始業前の待機時間を労働時間に含めない処理(業務未開始が明確な場合) | 条件付き適法 |
切り捨てが例外的に認められるのは、1カ月単位で残業時間を集計するときの端数処理のみです。昭和63年3月14日付け行政通達(基発第150号)によって許容されています。
1カ月における時間外労働・休日労働・深夜業の各合計に1時間未満の端数がある場合に限り、次の処理が認められています。
この特例には重要な前提条件があります。切り捨てと切り上げの両方をセットで運用することが必要です。切り捨てだけを行い、従業員に一方的に不利な運用をした場合は特例の対象外となり、違法と判断されます。また、日々の出退勤時刻そのものを丸める処理にこの特例は適用されません。
集計単位 | 切り捨て | 切り上げ | 根拠 |
日次(1日単位) | 原則違法 | 適法 | 労働基準法第24条 |
月次(1カ月単位)残業集計のみ | 30分未満は適法 | 30分以上を1時間に切り上げ(セット運用が前提) | 昭和63年基発150号 |
「打刻時間=労働時間」ではないケースがあり、その乖離を調整する丸めは違法にならない場合があります。ただし、この考え方の濫用は別の意味で違法になるため、慎重な運用が必要です。
9時始業の会社で8時50分に出勤して打刻し、9時まで自席でコーヒーを飲んでいる従業員がいるとします。この場合、8時50分の打刻は記録の時刻であり、実際に業務を開始した9時が労働時間の開始です。打刻時刻を9時に丸めても、それは労働時間を丸めているのではなく、打刻の誤差を補正しているにすぎません。
一方、9時始業で8時50分から朝礼(強制参加)が始まる場合、8時50分から業務が発生しているため、打刻を9時に丸めると労働時間の切り捨てになります。この区別を曖昧にしたまま丸めを運用するのは危険です。
打刻時間と実際の業務開始・終了時刻が一致しているかどうかを就業規則や業務フローで明確にしておく必要があります。「打刻したら即業務開始」というルールにしている場合は、打刻の丸めは直ちに労働時間の切り捨てになります。曖昧なまま丸め処理を続けると、後から労働基準監督署の調査や従業員からの未払い請求で問題になるリスクがあります。
丸め処理には給与計算の効率化というメリットがある一方、違法リスクと従業員の不信感というデメリットもあります。双方を正しく理解した上で運用方針を決める必要があります。
観点 | メリット | デメリット |
企業側 | 給与計算の工数削減・ミス減少 | 違法時の罰則・未払い請求・信用失墜リスク |
従業員側 | ぴったりの打刻プレッシャーからの解放 | 切り捨て処理の場合、賃金が不当に削減される |
システム運用 | 集計作業の簡素化 | 設定ミスで違法処理が自動的に行われるリスク |
1日あたりの丸め誤差はわずかでも、従業員数と期間が掛け合わされると膨大な未払い額になります。賃金請求権の時効は3年であり、その期間内の未払い分を全従業員分まとめて請求されるケースも報告されています。「計算が楽になる」というメリットは、リスクが顕在化した瞬間に消えます。合法的な丸め処理(切り上げ)か、1分単位の管理かを明確に選択する必要があります。
関連記事:【労働基準法改正】2020年4月〜|残業代請求等の変更点を総合的に解説
Excelで丸め処理を行う場合は、CEILING関数(切り上げ)とFLOOR関数(切り捨て)を使います。ただし、切り捨てに使うFLOOR関数は労働基準法違反のリスクがあるため、退勤時刻への適用は避けてください。
CEILING関数は、指定した基準値の倍数のうち最も近い値に切り上げる関数です。退勤時刻を15分単位に切り上げたい場合に使います。
FLOOR関数は、指定した基準値の倍数のうち最も近い0に近い値に切り捨てる関数です。月次残業集計の端数処理には使えますが、退勤時刻の切り捨てに使うと賃金未払いが発生するため注意が必要です。
Excelでの手計算は設定ミスのリスクが高く、法改正への対応も手動になります。従業員数が多い場合は、1分単位で自動集計できる勤怠管理システムへの移行を検討する方が長期的なリスクを抑えられます。
勤怠管理システムを導入済みでも、初期設定のまま使っている場合は違法な丸めが自動実行されている可能性があります。必ず設定内容を確認し、法令に準拠した状態に変更してください。
違法な丸め処理をやめて1分単位管理に移行するには、就業規則の修正→労使手続き→システム設定変更→過去分の確認という順番で進めます。
就業規則や賃金規程に「15分単位で切り捨て」などの記載がある場合は、削除または修正が必要です。労働基準法第24条に反する条文は、記載されていても労働契約として無効ですが、放置すること自体がリスクになります。修正後は従業員代表の意見を聴取し、労働基準監督署へ届け出る手続きを行ってください。
丸め処理の見直し過程で未払い賃金が発覚した場合は、対象期間と金額を速やかに特定し、自主的に支払う対応が望まれます。賃金請求権の時効は3年のため、その期間内の未払い分が請求対象になります。社会保険労務士や弁護士に相談しながら進めると、計算ミスや手続き漏れを防げます。
関連記事:勤怠管理を効率化する方法7選|打刻・集計・給与連携の自動化ポイント
単位の大きさに関係なく、切り捨て方向であれば違法になります。5分単位でも、退勤時刻を実際より早く集計すれば賃金の未払いが発生するため、労働基準法第24条違反です。
業務が発生していない純粋な待機時間であれば、始業時刻に丸めても違法にはなりません。朝礼・着替え・清掃など、業務に関係する行為が発生している時間は労働時間に含まれるため、丸めると違法になります。
関連記事:労働基準法における労働時間とは?法定労働時間・所定労働時間の違いや計算方法を解説
記載の有無は適法性の判断に影響しません。労働基準法に反する内容は、就業規則に書かれていても労働契約として無効になります。
フレックスタイム制でも、日々の打刻時刻を切り捨て方向に丸める処理は認められません。月次集計での端数処理(基発150号の特例)は、フレックスタイム制でも同様に適用されます。
勤怠管理の丸め処理は、切り捨て方向は原則違法、切り上げ方向は適法です。単位の大きさではなく、従業員に不利益が生じるかどうかが判断の軸になります。
まず自社の丸め処理が切り上げ方向になっているかを点検し、切り捨てが残っている箇所は1分単位管理または切り上げに変更してください。それが労務リスクを未然に防ぐ、最善の対応です。