1. 人事異動の目的と理由は?労務管理を適切に行うために
人事異動の目的と理由は?労務管理を適切に行うために

人事異動の目的と理由は?労務管理を適切に行うために

労務 更新日:
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日本の雇用慣行ではメンバーシップ型雇用が主流であり、欧米のようなジョブ型雇用が採用されている企業は多くありません。メンバーシップ型雇用の特徴として人事異動があることです。人事異動は多くの場合、使用者側から一方的に出されるもので、労働者として労務の提供場所が変わることです。今回は労務管理上も重要な論点である人事異動にフォーカスをあて解説してまいります。

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目次

人事異動の種類

配置転換

同一企業内で就業場所の変更であり、転居が必要な場合も転勤と呼びます。

出向

元の企業に労働者としての地位を維持しながら他の企業で就労し、指揮命令下におかれることです。

転籍

元の企業での労働者のとしての関係がなくなり、転籍先で使用者と労働契約関係を締結することとなります。

スーツの男性が時計をしている

昇格・降格

昇格とは組織内で労働者の階級が上がることで、降格はその逆の階級が下がることとなります。就業規則等にどのような場合に昇格するのか、また、降格するのかの基準を設けてありますが、原則として使用者の裁量で決定できる部分です。

海外出張

これまでとは異なった就業場所で継続的な就労を行う転勤とは異なり、一時的な就業場所の変更を出張と呼びます。近年は国内に限らず海外出張も珍しくありません。後述する出向と出張の違いは期間のみで区分できるものではありませんが、労働者の予測可能性を高める意味でも就業規則等で出張を命じることがある旨の規定と出張期間を設定しておくことが適切でしょう。

海外出向

多くの場合、出張よりも長期間、これまでとは異なった就業場所で就労することです。海外出張同様に出向を命じることがある旨の規定と出向期間を定めておくことで労働者の負担の軽減にも繋がるでしょう。

また、海外出張、海外出向ともにWithコロナ時代においては感染防止拡大の観点から少なくなると考えるのが妥当です。

解雇と人事異動の相違点

解雇に関しては労働基準法上、予告期間の設定が必要です。また、人事異動については、解雇とは異なり法的な予告期間の設定はありません。しかし、あまりにも時間がない中(例えば明日から)転居を伴う転勤を打診するとなると、現実的に対応が困難な場合もあり得ます。養う家族の有無や転居先の住居の確保や、家族で転居する場合の子供の学校問題などは無視できません。

やむを得ず、会社の突発的な事情により転居を伴う転勤の必要性が生じた場合は事情を説明し理解してもらうことが重要です。また、転勤が事実上決定した段階で、内示を出しておくことで労働者の負担を和らげることもできます。

参考判例

東亜ペイント事件

配置転換命令はどのような場合に有効となるかを考える際に参考となる判例です。他の事業所に主任のポストに空きが出たため労働者に内示したところ、家庭の事情から転居を伴う転勤には応じられない旨の返答がありました。その後、他の事業所の転勤にも応じなかったものの、会社は労働者の同意を得ず転勤を発令しました。しかし、労働者はその発令に従わなかったために、懲戒解雇されたことから、争いが生じました。

当該企業の就業規則には業務上の都合により労働者に転勤を命ずることができる旨の規定があり、現に当該企業では頻繁に転勤が行われていたことや、当該労働者との間には勤務地限定の合意もなかったことから、当該企業には労働者の同意なしに勤務地を決定する権限を有すると解されます。

しかし、転勤は労働者の生活に与える影響が大きく、使用者の転勤命令が無制限に認められることがあるとまでは言えません。よって、業務上の必要性があることが前提です。

業務上の必要性については、余人を持って替え難いと言えるほどの高度の必要性までは要求されず、企業内の労働力の適正配置業務運営の円滑化などの合理的な理由があれば足ります。

次に不当な動機を持って行われたものでないことが挙げられます。不当な動機の例として、労働組合に所属する労働者のみを対象とするようなケースがあります。

そして、最後に労働者に対して通常甘受すべき不利益の程度を著しく超えることでないことが挙げられます。これは、日本の人事施策の観点からも労働者目線ではあまり認められない傾向です。

よって、判決は、業務上の必要性も肯定され、かつ、不当な動機もなく、労働者として通常甘受すべき不利益の程度を著しく超えることもなく、権利濫用にあたらないとされました。

現在は、夫婦共働き世帯も珍しくなくなり、夫婦のいずれか一方が転勤を打診されることも珍しくなくなっています。労務担当者として本判例は転勤におけるリーディング的な判例であり、おさえておくべき判例です。

様々な観点から見ると

妊婦から請求があった場合

妊婦から現在の就業場所から他の軽易な業務へ転換請求があった場合は母体保護の観点からも応じなければなりません。しかし、新たな業務を創設してまでは義務を課せられるわけではありません。よって、客観的に見ても他の軽易な業務が存在せず、女性労働者がやむを得ず休業を選択した場合でも使用者としての最低限の義務を尽くしており、労働者自身の判断で産前休業開始前よりも早期に労務の提供をしなかったとしても休業手当の支給には該当しないと考えます。

尚、妊娠中の女性労働者からの他の軽易な業務への転換請求を契機とした解雇等の不利益な取扱いは男女雇用機会均等法によって禁止されています

妊娠中の写真

他の法令との関係性

人事異動が他の法令に抵触していないかはフラットな視点で確認すべきです。例えば団体交渉を行わせないために配置転換命令を出す場合は、不当労働行為(労働組合法第7条)に該当し、女性だからという理由で配置転命令を出す場合は男女雇用機会均等法6条違反、性別における差別的取り扱いは労働基準法第3条違反となり、当然無効となります。

職種限定や勤務地限定の合意がある場合

労働契約上、職種限定の合意や勤務地限定の合意がある場合は注意が必要です。この場合、就業規則上で包括的に配置転換命令を行う旨の規定があったとしても個別の同意が就業規則の包括的な規定を上回り、一方的に配置転換命令ができなくなります。特に今後は働き方の多様化が時代の流れであり、個別に労働契約を締結する場合に職種限定や勤務地限定の合意が締結されている場合は注意が必要です。また、明確に合意が締結したとは言えない場合であっても医師等の特殊な資格を有する労働者の場合は過去の配置転換実績、継続勤務期間等を総合的に勘案して黙示の同意があったと判断される場合もあります。

職種限定合意における判例

日本テレビ放送網事件

長期間アナウンサーとして勤務していた労働者に対して、業務の特質、採用の経緯、入社後一貫してアナウンサー業務のみに従事していた事実、アナウンサーから他の職種に転換した事例がないことを勘案すると当該労働者との間には職種限定の合意があったものとして、個別同意がない限り、他の職種に転換させることはできないとされた判例です。

面接における注意点

求人の時点で勤務地限定の記載がある場合や面接中に明確に勤務地限定の申し出をして採用された労働者の場合には勤務地限定合意があったとされる可能性もあります。

4人で話し合いをしている

求人票に記載される内容

求人票に記載される内容は休職者にとって申し込みの誘引となる重要な内容です。よって、虚偽の記載は法的にも問題であるのは言うまでもありませんが、求人票に記載された内容が採用後も永続的に続くとは限りません。そもそも他の労働者の入退職によりやむを得ず欠員補充のために人事異動を命ずる可能性もあることから、人事異動を予定している場合は、採用内定を出す前に面接の時点で人事異動の可能性を伝えておくことが重要です。

出向社員に対する責任

出向社員については、在籍出向移籍出向に分けられます。原則として在籍出向の場合は出向元および出向先の双方と労働者が労働契約関係を有することとなるために、三者で取り決めた内容に基づきます。

また、移籍出向の場合は出向元との雇用関係は消滅することから出向先との間にのみ労働契約関係があります。よって、使用者責任は全て移籍先が負うとの理解です。

人事異動の必要性

日本の人事異動

日本の一般的な人事施策は欧米から見ると異質であり、様々な部門を経験させるゼネラリスト育成に主眼を置いています。反対に欧米はスペシャリスト型の人事施策であり、基本的には日本のような人事異動は想定されていません。日本における人事異動の必要性は欠員補充生産性に停滞が見える部門へ新しい風を入れる意味など、多様に存在します。メリットとしては使用者だけに限らず、キャリアが頭打ちになっていた労働者にとっても新しい環境に身を置くことで成長のきっかけをつかむことができるなどのメリットもあり、一概に人事異動が悪いということはありません。

しかし、過去に法廷で争われる事態にまで発展したケースには転居を伴う人事異動が複数あります。よって、転居を伴う人事異動を発令する前にはセンシティブな情報ではありますが、可能な限り家族の状況などを聴取することで円滑な人事異動を行うことが可能です。 

6人で話し合いをしている

ハラスメント

人事異動は労働力の適正配置、業務運営の円滑化だけに限らず、あってはならいませんが、ハラスメントから労働者を守るために行われる(行わざるを得ない)ケースもあります。2020年6月1日からは大企業から先行的にいわゆるパワハラ防止法が施行されます。これは、労働者からの相談に応じること必要な体制の整備雇用管理上必要な措置を講じることが義務付けられます。そこでまずは、相談窓口を設置し、相談者である労働者からパワハラに対する相談があった場合は相談に応じなければなりません。そこで、必要に応じて調査をし、結果的に上司によるパワハラが認定された場合を想定しましょう。当該パワハラの加害者と被害者が同じ部署内で働き続けるのは困難な場合が多いでしょう。しかし、画一的に人事異動を行うという選択は現実的とは言えません。

このようなケースではパワハラの悪質性や再発の可能性等を総合的に考慮し、場合によっては厳重注意に留めておくという判断もあり得ます。しかし、同様の行為を起こした場合、次回は懲戒処分を検討するなどの告知をしておき、再発防止に努めるなどの対応があり得ます。 

人事異動のデメリット

頻繁な人事異動

有能な労働者であっても新しい環境で本来のパフォーマンスを発揮するには一定期間の慣れが必要です。異動先の職場環境独自の慣行や新しい業務を覚えることが必要であり、これはどのような職場環境であっても言えることです。そこで、労働力の適正配置や業務運営の円滑化を目的にすると言ってもあまりにも頻繁な人事異動は周囲(受け入れ側等)が疲弊してしまい、逆効果になってしまうリスクがあります。また、繁忙期の人事異動は受け入れ側の余裕もなく業務引継ぎやフォローに十分な時間的余裕がなく、十分な理解が進まないまま時間だけが経過し、一定期間経過後にミスが発生するという負の側面も有しています。

専門性が育たない

人事異動を繰り返して、ゼネラリストを育成することが日本の人事施策上も一般的です。しかし、このような人事施策はスペシャリストが育ちにくく、多くの業務はこなせるものの、専門スキルを獲得できないというデメリットがあります。よって、同業他社との差別化がなく、ブランド力が醸成しないとの意見もあります。

責任の所在が不明瞭になる

Responsibility

特に責任者の人事異動が頻発する場合、期の途中で問題が発生した場合の責任の所在が曖昧になることが指摘されています。また、部下目線では短期間で責任者が変わる組織を目の当たりにすると組織としての安定感がなく不安を覚えることが多々あります。

最後に

人事異動についてはマイナスのイメージが先行する労働者が多いと考えます。現実問題として前述のデメリットはありますが、労働者の能力を評価した上での人事異動もあり、一概にマイナスとまでは言えません。また、家族の介護など一時的に応じることが困難な場合は所属長にその旨の相談をすることで人事異動が再考される場合もあります。

今後は感染拡大防止を前提とした労務管理となり、コロナ禍前と同様の頻度での出張や転居を伴う転勤は少なくせざるを得ないと考えます。そこで、採用力の強化や社員教育に力を入れる企業が出てきています。

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この記事の監修者

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社会保険労務士

蓑田真吾

社会保険労務士(社労士)独立後は労務トラブルが起こる前の事前予防対策に特化。現在は労務管理手法を積極的に取り入れ労務業務をサポートしています

資格
社会保険労務士
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