1. 懲戒処分とは?懲戒の種類や程度、目的をわかりやすく解説
懲戒処分とは?懲戒の種類や程度、目的をわかりやすく解説

懲戒処分とは?懲戒の種類や程度、目的をわかりやすく解説

労務 更新日:
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労務管理上、労働者が行った不当な行為に対して戒めを行う目的で「懲戒」の規定をおく企業が多くあります。通常、就業規則に明記し、かつ、労働者に対して周知する必要があります。また、懲戒と言っても戒告から懲戒処分までその範囲は広く、画一的な議論は馴染まないことから懲戒について網羅的に解説してまいります。

目次

懲戒の種類

戒告

端的には労働者の失態や非行に対して口頭での注意によって将来を戒めるものです。懲戒の種類の中では最も軽い処分となります。よって、比較的軽度の失態や非行であれば戒告が選択されるケースが一般的です。また、軽度とは言い難い失態や非行となると後述する処分を検討することになります。

譴責

一般的には労働者に自身の失態や非行についての始末書を提出させ、将来を戒めるものです。これは、書面を提出することにより、同様の行為を行わないよう従業員自らの言葉で誓約させることです。よって、戒告よりも重い処分と言えます。

減給

働者の非行について一定期間、一定割合で給与を減額する処分です。給与は労働者にとって生活と密接に関わり、労働基準法第91条に「制裁規定の制限」として、以下の定めがあります。

1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。

例えば職場規律を著しく乱した労働者に対して、本来労働者が受けることができる賃金から一定額を差し引くことを指しますが、上記(労働基準法第91条)を無視することはできません。

尚、減給の制裁を一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えて行う必要が生じた場合、その減給は時期以降に繰り越して行うことは可能です。また、給与ではなく賞与から減額する場合も注意が必要です。賞与も賃金であり、労働基準法第91条の規制対象です。 

また、実務上も多く起こり得る論点として、労働者が遅刻、早退(有給休暇を行使した場合は当然賃金は発生)をした場合については、ノーワークノーペイの原則により賃金債権は生じません。よって、減給の制裁規定には該当しません。

出勤停止

服務規律等に違反した労働者に対して労働契約を維持しつつ一定期間、出勤を停止させることです。一般的には1週間から2週間程度です。尚、出勤停止期間中とは言え、違反の程度と比較してあまりにも長期間の出勤停止としてしまうと権利濫用と評価される可能性があります。

降格

役職等を下げることです。多くの場合、役職が下がることで附随的に賃金の総額も減額することとなります。例えば不祥事により課長から係長へ降格させ、賃金も係長として定める額へ低下させた場合、職務変更に伴う当然の結果であり、減給の制裁規定に抵触するものではありません。 

諭旨解雇

企業が従業員を一方的に解雇するのではなく、双方が話し合い、納得した上で解雇処分を進めることです。諭旨とは趣旨を告げるという意味です。よって、実質的には懲戒解雇に当たり得る不祥事でありながら会社の酌量により懲戒解雇の手前の処分にしたということです。

懲戒解雇

懲戒処分の中でも最も重い処分です。労働者が犯した不祥事に対して就業規則の定めに応じて処分が行われます。労働基準法を始め日本の労働法制は労働者保護が前提であり、容易に解雇はできません。よって「懲戒解雇」を行う場合は余程の理由がなければ選択することはできません。実務上は退職金の全部又は一部の不支給などが一般的であり、労働者の再就職も不利になります。これは自己都合退職ではないことから、履歴書に自己都合退職と記載すると経歴詐称となり、場合によっては内定取り消しとなる場合があります。 

懲戒の判例

以下に判例を解説してまいります。また、判例については自社と全く背景が同じ判例は少ないと考えますので、参考にすべき部分の見極めも重要です。

判例1:横浜ゴム事件

労働者の私生活上の非行を契機として刑事罰を受けた場合に懲戒事由にあたるかが争われた判例です。労働者が私生活上の非行で刑事罰を受けた場合、社会的な評価に重大な悪影響を与えることは想像に難くありません。また、そのような非行が就業規則で懲戒事由として定めてあることも一般的です。しかし、刑事罰と言ってもその種類は非常に多く、行為の性質、会社の事業、態様、規模、会社の経済的社会的地位、当該労働者の会社における地位および職種を総合的に勘案して判断することとなります。本判例での労働者の行為は決しては褒められる行為ではありませんが、会社の組織や業務とは無関係である私生活上の行為であり、刑事罰としても罰金2,500円程度であったこと、当該労働者の会社内の地位も指導的な立場でなかったことを勘案すると懲戒事由とするのは無理があると判断されています。しかし、本件が再犯であり、かつ、常習性があった場合はまた違った判決であった可能性はあります。

また、職務に関連した犯罪行為であった場合、懲戒処分は有効となる可能性は高いでしょう。例えばタクシー運転手が勤務中の飲酒運転で刑事罰を科された場合などは明らかに職務に関連した行為であり、会社としての経済的社会的地位の失墜も避けられません。

判例2:山口観光事件

懲戒処分後に発覚した非違行為を処分の理由に追加することができるかが争われた判例です。懲戒処分当時に使用者側が認識していなかった非違行為は懲戒処分の理由とされたものではなく、懲戒処分の有効性を根拠づけることはできません。

また、懲戒処分を行うには労働者への告知、弁明機会を付与するなど、然るべき手続きを踏まなければ権利濫用と判断されることがあります。

判例3:日本ヒューレット・パッカード事件

精神的に不安定な労働者が長期欠勤をしたことに対する諭旨退職の有効性が争われた判例であり、精神疾患は現代の時代背景からも今後も増えることが予想されます。精神的に不安定な場合、一度出勤したとしても断続的または継続的に出勤してこない(またはできない)場合も想定できます。また、会社には安全配慮義務(労働契約法5条)があり、多くの企業で就業規則上に会社が必要と認める場合は臨時的に健康診断を行うことができる旨の規定があります。そこで、医師の判断によっては休職を検討するなどの対応を取るのが本筋です。精神的に不安定な労働者と認識している中でそのような検討が全くされていないとなると適切な対応とは言い難いということです。尚、精神疾患などをかかえていない通常の労働者で無断の長期欠勤に対する処分であればまた違った判決であったと言えます。

懲戒に関する事柄

自宅待機と出勤停止

使用者として、労働者が労務の提供が可能であるにも関わらず労務の提供を受領しないまたは拒むことがあります。まず、自宅待機については、コロナ禍においては、新型コロナウイルスへの感染の疑いがあることから、画一的に自宅で待機させる場合等は自宅待機となります。行政判断ではなく、陽性でない段階で使用者側の判断で待機させる場合は原則として休業手当の支払いが必要となります。

反対に出勤停止については労働者による非違行為について使用者側からの制裁罰として命じられるものであり、一般的には賃金は支払われません。よって、自宅待機と出勤停止は峻別して考えなければなりません。また、自宅待機と言ってもあまりにも長期間にわたってしまうと使用者側の権利濫用と判断される可能性があるため、期間を設定する際には留意すべき点です。

社内公表の範囲

懲戒処分を下した際には一般的に社内公表をすることが多いでしょう。これは職場の秩序維持および適正化を図ることが目的と言えます。まずは、公表範囲については、全社とするのか、所属部単位のみなどその必要性に応じて決定すべき部分ですが、敢えて処分を命じた者の氏名まで公表するかはその必要性を慎重に判断すべきです。また、懲戒処分の内容がセクハラであった場合は、副次的に被害者が特定される可能性も否定できず、被害者の心情にも配慮すると(セクハラ事案については)氏名公表は避けるのが無難と考えます。

SNS対策

昨今、アルバイト従業員による不適切なSNS利用により会社に大きな損害が発生し、社会的な問題として取り上げられています。まずは、就業規則上でもSNSに特化した規定の作り込みが必要であることは言うまでもありませんが、入社時の誓約書にもSNSの利用にあたっての会社としてのルールを労使双方で認識合わせをすべきです。特に昭和から平成、令和と時代が流れ「当たり前」とされる認識も振れ幅が大きくなっているのが現実です。また、不適切な動画投稿等があった場合の会社が被る損害額等を双方で認識するなどの事前教育をしておくことが不適切な行為に対する予防策にもなり、懲戒処分の有効性を基礎づける一つの事実となり得ます。

一事不再理の原則

一事不再理の原則とは、ある刑事事件で判決が確定した事件に対して再度審理をすることは許されないとすることです。これは会社が下す懲罰にも言えることです。例えば労働者の非違行為に対してある処分を下し、一定期間経過後、再度また違った処分を下すことは許されないということです。しかし、一度処分を下したにも関わらず、短期間のうちに異なった非違行為が確認された場合はその非違行為に対する処分を下す場合は除かれます

よって、ある非違行為に対して命じた懲戒処分とは全く異なった非違行為であれば当該行為に対する懲戒処分はあり得るということです。また、度々処分を受ける労働者と過去に一度も処分を受けたことのない労働者がいた場合に、前者に重い処分を命じることまでを禁じるという意味ではありません。

社内での手続き

懲戒処分となると事実確認をし、弁明の機会を与えたのちに、企業によっては懲罰委員会が設置されており、その場合は当該委員会内での議論を経たのちに処分(降格等)を命じることとなります。また処分対象者が今後も社内に残り労働に従事する場合は再教育や再指導し、改善の見込みを観察することとなります。 

退職金

懲戒処分を命じる場合は労働者にとっては最も重い罰であり、再就職への影響は避けられません。また、退職金については全部または一部支給しないとする定めがあります。しかし、就業規則(または退職金規定)に記載したからと言っても裁判に発展した場合にそれが有効と判断されるかは別問題です。これは過去の判例に照らすと退職金は労働者への賃金の後払い的性格、功労報償的性格を認めています。尚、功労報償とは労働者のこれまでの勤労の功を労う意味であり、退職金を全額不支給とするには労働者のこれまでの勤労の功を全て抹消してしまうほどの行為であったかが問われます。

出社拒否

労働者は労働契約関係に基づき労務提供義務を有しています。しかし、就労することを求める就労請求権は有していません。よって、諸般の事由により使用者が労働者の就労を拒否することは可能となります。例えば懲戒事由が発生したと疑われる場合に調査を行う目的で業務命令として自宅待機を命じた場合を想定しましょう。多くの場合はスマートフォンを所持していることから自宅待機中であっても会社からの呼び出しに備えて待機している間は拘束されている時間とも評価でき、賃金支払い義務の発生などが争点となります。反対に出社拒否であれば単に調査の間に限り、出社を拒否する程度であれば自宅待機と全く同じ性質は言い難く、直ちに権利濫用とまでは評価されないと考えます。しかし、いずれの場合も「実質的」にどのような状況であったかで判断されることはおさえておくべき論点です。

 

損害賠償

使用者と労働者は労働契約関係にあり、労務提供義務やその他の附随行為において使用者に損害を与えた場合は債務不履行により損害賠償責任を負うこととなります。また、労働者の行った行為が民法上の不法行為の要件を満たす場合はそれに基づく損害賠償責任を負うこととなります。 

最後に

懲戒処分は会社にとっても多くの時間と労力を費やします。使用者と労働者は労働契約関係に基づき、労働者が労務を提供し使用者がそれに対して賃金を支払うこととなります。懲戒処分については、労働者の(社会的にも)行き過ぎた行為が問題となり、会社としてもその行為に対して職場秩序維持の観点から何らかの処分を検討することとなります。特に社内の問題だけにおさまらず、社外にまで波及する問題となるとその影響は甚大です。

労働者としても社内のルールを守ることはもちろんのこと、使用者としても多くの時間と労力を費やす懲戒処分と向き合わないためには定期的な社員教育などの先行投資が長期的には有用となるのではないかと考えます。

 

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この記事の監修者

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社会保険労務士

蓑田真吾

社会保険労務士(社労士)独立後は労務トラブルが起こる前の事前予防対策に特化。現在は労務管理手法を積極的に取り入れ労務業務をサポートしています

資格
社会保険労務士
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