1. 残業時間のアラート機能におけるメリット・デメリットを多角的に検証
残業時間のアラート機能におけるメリット・デメリットを多角的に検証

残業時間のアラート機能におけるメリット・デメリットを多角的に検証

労務更新日:2024-09-23

働き方改革により残業時間には上限が設けられました。この法改正により残業時間を超えて働かせてしまった場合には罰則が適用されることとなりました。ゆえにアラートを設定し、先行的かつ機械的に違法とならないような取り組みが行われています。今回は、残業時間のアラートについて、様々な角度から検証いたします。

残業をさせるには?

 まず、従業員に残業を命じるには適正な労務管理がなされていることが前提です。では、適正な労務管理とはどのような管理なのでしょうか。逆算して検証していきましょう。

まずは、36協定を締結し、企業の所轄労働基準監督署に届出をしなければなりません。その際に労働組合がない企業では労働者の過半数を代表する者を「民主的な」手続きにより選出する必要があります。民主的とは古典的な言い回しとなってしまいますが、端的にはどのような目的で労働者の過半数を代表する者を選出するのかを明示し、不信任投票ではなく信任投票などにより選出する必要があるという理解です。尚、不信任投票とは例えば3人の候補者がいる場合に、A氏、B氏は相応しくないというような「特定の候補者を選出しない」という投票方法です。言うまでもなく、これでは結果的に選出された(されてしまったとも言える)代表者はその企業の民意を反映したとは言い難いでしょう。

そして、36協定を締結する際には労働者の過半数を代表する者の意見を聴き、その後、所轄労働基準監督署へ届け出ることとなります。(届出の際はあくまで適法な36協定を届け出たことを前提とする)

また、前段階で就業規則に根拠規定を整備しておくことが求められます。例えば「やむを得ない場合には従業員に対して時間外労働を命じる場合がある」などの規定が代表例です。

やむを得ない場合とはどのような場合かとの議論もあり得ますが、それは評価の問題であり、企業の裁量の範囲内と言えます。

原則的な残業時間

原則的な労働時間は1ヶ月45時間以内1年間360時間以内となります。お気づきの通り、1日の残業時間の上限は定めがありません。理論上は1日24時間であり、かつ、1日8時間を超える労働時間委対しては少なくとも1時間の休憩時間が必要となります。念の為とは言え、あまりにも長い時間を設定して届出するのは適切でないのは言うまでもありません。

臨時的に残業をさせる場合

臨時的な事情により年6回を限度として1ヶ月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間以下(休日労働含む)とすることで、原則的な残業時間を超えて残業させることが可能となります。

アラートを設定することによるメリット

複数月対応

残業時間の上限規制は1ヶ月で法令を遵守することはもちろんのこと、複数月でも遵守することが求められます。尚、複数月とは2か月は遵守できていても、4か月目に上限を超えてしまっては違法ということです。

アラートを設置するタイミングについては、業務の特殊性や発生し得る繁忙時期にもよるために画一的に判断すべきではありません。しかし、言うまでもなく早めかつ、調整が可能な時期にアラートを設定すべきです。尚、調整が可能とは、残業を承認しないという趣旨ではなく、管理職や他の従業員へ仕事を配分するなどして調整をするという意味です。

アラート設定については多くの企業で導入しており、複雑になった残業上限時間の管理と非常に親和性が高い機能です

テレワークとの親和性

旧来は場所的に同じ空間で働くことが前提の働き方が一般的でした。しかし、コロナ禍により場所的に離れた空間で働かざるを得なくなり、労働時間の管理も旧来と同じでは支障をきたす恐れがあります。そして、対面一択での働き方はBCP上も危険な場合も多く、企業としての対応力に疑問符がつくでしょう。

場所的に離れた空間で労務の提供を受領する場合、どのような働き方をしているかが不透明となります。テレワークであっても「労務の提供場所」がオフィスでなくなっただけであり、当然、労務指揮権は企業が有しています。そこで、Web会議システムを用いて顧客対応をする際には社会常識的にも「正装をするように」などの命令は直ちに権利濫用とはなりません。しかし、労働時間に関しては周囲に(働きすぎではないかと)呼びかける上司や同僚もおらず、オフィスワーク時よりも労働時間が増えてしまったとの報告もあります。よって、複数月だけでなく、一日単位でもアラート設定をすることは健康確保の観点からも合理的な措置と評価できます。

特に自宅でのテレワークは仕事と生活の切り分けが難しくなり、オフィスワークよりもメリハリがつきづらいとの声もあります。

パーキンソンの法則・第1法則(仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する)を鑑みてもWithコロナ時代の労働時間の管理については肌感覚に頼らず、アラートを用いて器械的に管理するという発想はむしろ新時代に即していると考えます。これは、従業員目線においても旧来は対面での評価が一般的であったところ、テレワーク時代に移行し、一定程度は成果主義に移行しての評価となりました。そこで、成果を出すために労働時間が長くなることが懸念されています。

アラートを設定することによるデメリット

違法な不承認

場所的に離れた空間で労務の提供を受領することとなると、管理職目線では「本当に仕事をしているのか?」という疑念が生まれるでしょう。高度経済成長期から日本は職能型の人事制度を踏襲しており、成果ではなく、労働時間に応じて賃金が決定する制度が一般的です。そこで、有無を言わさず対面での管理ができなくなった「副作用」として管理職から従業員への過度な介入が問題視されています。そこで、従業員としても成果を挙げるべく所定労働時間を超えた旨の報告(残業発生)をすると、管理職としては(従業員の繁忙度が可視化できていないこともあり)なぜ残業が発生するのか、また、一日単位でのアラートを設定している場合はなぜそのアラートを無視したのかとの指摘が入ります。そこで、残業時間が一定程度蓄積後は承認しないという管理職の主観が入り混じった違法な労務管理が生まれてしまう可能性があるということです。

当然、テレワークであっても単に労務の提供場所がオフィスではないに過ぎないことから残業は適正に管理しなければなりません。アラートはアラートを設定するメリットでも申し上げたとおり、働き過ぎによる労働時間の増加を予防することでしたが、労働時間の増加を間違った意味で「消滅」させてしまうとなるとむしろ逆効果となってしまいます。

高年齢層へのサポート

ITツールなどの新しい機能を導入して労務管理を行っていく場合、比較的苦手とされる高年齢層の労働者へのレクチャー問題が無視できません。言うまでもなく対面一択を前提にするのであれば、近くの席に座る若年層が手取り足取りレクチャーできるのでしょうが、テレワークとなると何が分からないのかを伝達する時点で適切に相手に伝わらないこともあり、労働時間が間延びすることが指摘されています。しかし、これらのデメリットは一度理解してしまえば大きなハードルにはなりませんが、ITツールは定期的に更新されることから更新の度に作業が滞る層がいるとの視点は持っておくべきでしょう。 

また、類似論点としていわゆるパワハラは年齢的に上の者から下の者への構図とは言い切れず、職務上一定以上の知識を備えた若年層従業員から高年齢層という構図でも発生します。これは、ITツールの使用(アラート機能全般)に慣れていない高年齢層に対して優越的な関係を持つ若年層従業員からの言動等によってパワハラが発生してしまう可能性があるということです。

手段の目的化現象

組織が成果を挙げられない原因として代表例が2つあります。

1つは努力の方向性が誤っているケースがあります。例えば感染防止の観点から対面営業をお断りとする企業に対して、社用車を大量にリースして営業部隊を送り出すという発想では結果が出るとは思えません。

もう1つは冒頭に掲げた「手段の目的化現象」です。手段の目的化現象とは目的達成のための手段がいつの間にか目的になっている状態を指します。例えば営業活動を週に20時間行い、売り上げ1,000万円と目標を掲げたとします。その目的は利益をあげることにより従業員やその家族にも還元でき、長期雇用へのインセンティブが目的であるとします。その場合、目的は売上1,000万をあげ、長期雇用へのインセンティブであり、営業活動週に20時間は目的達成緒ための手段に過ぎません。そこで、いつの間にか営業活動を週に20時間こなすことが目的となってしまうということです。この手段の目的化現象の怖い部分として、形式的には(すり替わってしまった)目標は達成しているために、満足感もあり、努力の方向性の誤りに気付きにくいということです。

この現象をアラートに置き換えると長時間労働の予防という目的達成のために、アラートの設定および発動は目的達成のための1手段に過ぎません。そこで、時間が経過するとアラートが発動し(基本的には)「承認すること自体が目的」となってしまい、長時間労働の予防という当初の目的が形骸化してしまう可能性があるという点を認識しておく必要があります。

注意点

管理職は本当に労働基準法上の管理監督者とイコールか?

多くの企業の場合、課長以上は管理職にあたるため、残業代を支給しないとの線引きがされています。前提知識としてそれぞれの企業で想定する「管理職と労働基準法上の管理監督者はイコールになっているか」との視点は持っておくべきです。労働基準法上で明記する管理監督者は労働時間、休憩、休日の規制がありません。しかし、深夜の規制は管理監督者であっても労働基準法の規制対象です。よって、深夜に従事している場合は割増賃金の支給対象となります。

また、労働安全衛生法(昭和47年に労働基準法から分離独立した法律)上では管理監督者であっても労働時間を記録し、残業時間が1ヶ月で80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる場合、本人の申し出により、面接指導を行わなければなりません。よって、結果的には管理監督者であっても(残業代を支給せずとも)健康確保の観点から労働時間の管理が必要ということです。当然、その際にアラート機能があって損をするということはないでしょう。

打刻忘れのアラート機能

アラート機能の中には打刻忘れをアラートしてくれることにより適正な労務管理に寄与してくることと考えます。打刻忘れが続くと単なる不注意による失念なのか、また、身体的な事情により失念が続いているのか、この時点は判断がつきませんが、少なくとも目につくきっかけにはなるでしょう。

また、打刻忘れは適正な賃金計算の観点からも危険です。特に時間給による契約を締結しているアルバイトの場合、打刻忘れがある状態では適正な賃金計算を行うことは極めて困難です。

よって、出勤の打刻があるにも関わらず退勤の打刻がない日の翌日にアラートが発動するような設定であれば最短最速で修正が可能となります。

アラート発動後のメール通知とその通知対象者

アラートの発動がメールで通知される設定が付加されているとより早期に認識が可能です。注意すべき点はメールを確認するだけでその後の行動に結びつかない場合は意味がなくなってしまうことです。また、通知対象者を本人と所属長など複数へ通知が届くように設定することが可能であれば、複数の目が入ることにより、確認漏れを防ぐことが可能となります

最後に

法令順守と適正な賃金計算の観点からも労働時間管理の先行的な手段(アラート設定)は非常に意味のあるものとなってきました。特にずさんな労務管理と不適切な賃金計算は既存の従業員の帰属意識を希薄にしてしまう負の力を持っており、何らかの手段を講じておくことが重要です。その一選択肢としてアラート機能は時代のトレンドとも非常に親和性の高い選択肢と言えます。

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会社名

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この記事の監修者

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株式会社Enigol

柳沢智紀

株式会社リクルートホールディングスでWEBマーケティング業務および事業開発を経験し、アメリカの決済会社であるPayPalにて新規事業領域のStrategic Growth Managerを担当の後、株式会社Enigolを創業。対話型マーケティングによる顧客育成から売上げアップを実現するsikiapiを開発。

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