インボイス制度(適格請求書等保存方式)の仕組みを、適格請求書の記載事項6項目、登録手続き、課税事業者と免税事業者への影響、端数処理のルールまで、公認会計士・税理士監修でわかりやすく解説します。2026年10月からの控除割合の変更にも対応。

インボイス制度(適格請求書等保存方式)の仕組みを、適格請求書の記載事項6項目、登録手続き、課税事業者と免税事業者への影響、端数処理のルールまで、公認会計士・税理士監修でわかりやすく解説します。2026年10月からの控除割合の変更にも対応。
2023年10月1日にインボイス制度(適格請求書等保存方式)が始まってから、3年が経とうとしています。制度はすでに日々の経理業務に組み込まれていますが、記載事項の判定や免税事業者との取引の扱いなど、実務では今も判断に迷う場面が少なくありません。
さらに2026年10月1日には、免税事業者等からの仕入れに認められてきた控除割合が引き下げられます。
本記事では、インボイス制度の仕組みを基礎から整理し、適格請求書の記載事項、登録手続き、課税事業者・免税事業者それぞれへの影響までを順に解説します。
この記事の要点
インボイス制度を理解するためには、基本的な消費税の仕組みについての理解が欠かせません。例を用いて解説します。
例えば、売上が5,500,000円、仕入が3,300,000円のお店があったとします。この場合、
売上に係った消費税が500,000円で、仕入に係った消費税が300,000円ということになります。
消費税の納税額は、売上にかかった消費税から、仕入等にかかった消費税を控除して計算されます。 500,000円 - 300,000円 = 200,000円 この仕入等にかかった消費税額を差し引く仕組みを「仕入税額控除」といいます。
仕入税額控除があることで、事業者は自分が付加した価値の分だけ消費税を負担する形になり、流通の各段階で税が二重・三重にかからないようになっています。

インボイス制度とは、仕入税額控除を行うために、より厳格な要件が導入されることになる制度です。仕入税額控除を適用するためには、所定の要件を記載した請求書や納品書=「インボイス」の発行、保存が必要となります。現行の方式とインボイス制度導入後の方式の違いを確認しましょう。
インボイス制度とは、この仕入税額控除を受けるための要件が厳格化された制度です。具体的には、所定の要件を満たした請求書や納品書、領収書=「インボイス(適格請求書)」の交付と保存が必要になりました。
正式名称は「適格請求書等保存方式」です。制度開始前は「区分記載請求書等保存方式」と呼ばれる方式で、請求書に消費税額そのものを記載する必要はありませんでした。現在は、税率ごとに区分した消費税額等や適用税率、そして登録番号の記載が必須になっています。
なお、「インボイス」という名前ですが、専用の書式は定められていません。所定の記載事項を満たしていれば、請求書でも納品書でも領収書でもインボイスとして扱えます
インボイスは、誰でも発行できるわけではありません。交付できるのは、税務署の登録を受けた「適格請求書発行事業者」に限られます。
登録を受けるには税務署に登録申請書を提出し、審査を経る必要があります。そして、登録申請ができるのは課税事業者のみです。免税事業者が登録を受けるには、課税事業者になる必要があります。
登録が完了すると「T」から始まる13桁の登録番号が通知され、この番号をインボイスに記載します。また登録者はインボイス制度適格請求書発行事業者公表サイトから検索できます。
課税事業者は消費税の申告納付が必要で、免税事業者は不要です。この区分は、次の基準で決まります。
判定 | 内容 |
|---|---|
基準期間による判定 | 基準期間(法人は前々事業年度、個人事業者は前々年)の課税売上高が1,000万円を超える場合は課税事業者 |
特定期間による判定 | 基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、特定期間(法人は前事業年度開始の日以後6か月、個人事業者は前年1月〜6月)の課税売上高が1,000万円を超える場合は課税事業者。この判定は、課税売上高に代えて給与等支払額で行うこともできます |
課税売上高が1,000万円以下の事業者は免税事業者となり、消費税の納付義務が免除されます。ただし、免税事業者であっても「消費税課税事業者選択届出書」を提出することで、自ら課税事業者になることができます
ポイント
✅ インボイス制度は、売上にかかる消費税額から仕入税額控除を行うための制度
✅ 原則として、インボイスがなければ仕入税額控除はできない
✅ インボイスを発行するためには「適格請求書発行事業者」になる必要がある。
✅ 「適格請求書発行事業者」になるには「課税事業者」である必要がある。
✅ 免税事業者であっても所定の手続きをとることにより、課税事業者となることができる。

そもそもなぜインボイス制度は導入されるのでしょうか?インボイス制度導入の背景を確認し、インボイス制度への理解を深めましょう。
1. 「益税問題」への対応
2. 複数税率への対応
3. 不正の防止
益税問題とは、最終消費者が負担した消費税が、それを預かった事業者の利益となってしまうことを指します。
例を用いて説明します。
例:「卸売業者が、小売業者へ55万円で商品を売り、小売業者が一般消費者に77万円で販売した。最終消費者が負担した消費税7万円が国に収める消費税。」
【卸売業者が課税事業者のパターン】
小売業者の納付額→預かった消費税7万円から支払った消費税5万円を引いた2万円が消費税納付額
卸売業者の納付額→預かった消費税5万円が消費税納付額
消費税の納付額の合計は最終消費者が支払った7万円と一致。
【卸売業者が免税事業者のパターン】
小売業者の納付額→預かった消費税7万円から支払った消費税5万円を引いた2万円が消費税納付額
卸売業者の納付額→免税事業者のため納付額が0
つまり、最終消費者が支払った7万円のうち、実際に納められた消費税納付額は2万円で、差額5万円が免税事業者である卸売業者の益税となっています。
インボイス制度が導入された現在は、小売業者が免税事業者からの仕入れについて仕入税額控除を受けられないため、小売業者の納付額が7万円となり、合計でも7万円が納付されます。
ただしここで注意すべき点があります。この構図では、益税が解消される代わりに、免税事業者が納めていなかった分を買手である小売業者が負担することになります。この負担が急激に生じないよう設けられたのが、後述する経過措置です。

インボイス制度導入の理由として、正確な税率の把握もあげられます。軽減税率が開始され、取引において複数の税率が混在することになりました。品目ごとの税率を区分し、それぞれの税率から正確な納税額を算出しなければなりません。そのため、税務処理を行うためにはインボイスが不可欠となります。インボイス制度は、売手が買手に対し正確な適用税率や消費税額を伝えるための手段といえます。
商品ごとに価格と税率を記載した書類を、証憑として保存しておく必要があります。
また、インボイス制度導入の理由として、不正防止があげられます。軽減税率対象の8%の商品を10%と偽って計上し、差額を不当に利益として処理するといった不正への抑止力も期待されています。
次に、インボイス制度が導入されることによる影響を、課税事業者、免税事業者ごとに考察しましょう。

課税事業者が受ける最大の影響は、適格請求書発行事業者以外からの仕入れについて、原則として仕入税額控除ができなくなることです。
支払った金額に含まれる消費税相当額を控除できないため、その分だけ自社の納税額が増えます。免税事業者やインボイス未登録の取引先が多い事業者ほど、影響は大きくなります。
対応としては、次のような選択肢が考えられます。
注意:一方的な取引条件の変更は法令違反のおそれがあります 取引先が免税事業者であることを理由に、一方的に対価を引き下げたり、取引を停止したりすると、独占禁止法や下請法上の問題となるおそれがあります。公正取引委員会等が示す考え方に沿って、双方の状況を踏まえた協議として進めてください。
関連記事:資金繰りってなに?資金繰り表の作り方がわかる!改善方法10選
免税事業者同士の取引である場合は問題ありませんが、課税事業者との取引においては注意が必要です。
課税事業者からしてみれば、免税事業者との取引は消費税の負担が大きくなってしまうため極力課税事業者同士での取引へと移行してしまう恐れがあります。
そのため、買手である課税事業者は、免税事業者からの仕入れについて仕入税額控除が制限されるため、登録を求められたり、取引条件の見直しを申し入れられる可能性があります。
一方で、登録して課税事業者になれば消費税の申告納付義務が生じ、手元に残る資金が減ります。取引先の構成や売上規模を踏まえ、登録するかどうかを判断する必要があります。
判断材料として、以下を整理しておくとよいでしょう。

それでは、インボイス制度の実務上の取り扱いについて解説していきます。
インボイス制度の開始日は、2023年10月1日です。現時点で課税事業者であっても、制度の適用を受けるためには、会社所轄の税務署に適格請求書発行事業者としての登録が必要です。申請後、税務署の審査を経て登録完了後、税務署から登録番号が通知されます。登録申請は、2021年10月1日から提出ができます。
インボイス制度の義務化が始まる2023年10月1日から登録を受けるためには、原則として2021年10月1日から2023年3月31日までに登録申請書を提出する必要があります。
免税事業者が適格請求書発行事業者として登録を受けるためには、課税事業者となる必要があります。
① 登録希望日を指定できる 課税期間の途中から登録を受けたい場合、登録申請書に「登録希望日」を記載することで、その日から登録を受けられます。登録希望日は、申請書の提出日から15日以降の日である必要があります。
② 登録後は原則2年間、課税事業者になる 免税事業者が登録を受けた場合、原則として登録日から2年を経過する日の属する課税期間までは課税事業者となります。途中で登録を取りやめても、この期間は消費税の申告が必要です。「取引先に言われたのでとりあえず登録する」という判断は、2年間の申告義務を伴うことを踏まえて行ってください。
③ 負担軽減措置を確認する 小規模事業者には、納付税額を売上税額の一定割合にできる特例があります。令和8年度税制改正により、法人と個人事業者で扱いが分かれました。簡易課税制度との有利不利の比較も含めて、経過措置の解説記事で整理しています。
登録を受けるかどうかは事業者の任意のため、取引先から本当にインボイスの発行を求められるかなど取引状況等を事前に検討しましょう。
インボイス制度の開始からすぐに、免税事業者からの仕入税額控除が全額廃止されることはなく、段階的に廃止される予定です。下記のスケジュールを確認しておきましょう。
期間 | 控除割合 |
|---|---|
2023年9月30日まで | 100%控除 |
2023年10月1日 〜 2026年9月30日 | 80%控除 |
2026年10月1日 〜 2028年9月30日 | 70%控除 |
2028年10月1日 〜 2030年9月30日 | 50%控除 |
2030年10月1日 〜 2031年9月30日 | 30%控除 |
2031年10月1日以降 | 控除不可 |
当初は2026年10月1日から50%控除に引き下げ、2029年10月1日に完全廃止という予定でした。しかし令和8年度税制改正により引き下げ幅が緩和され、期限も2031年9月30日まで2年延長されています。
なお、この経過措置の適用には、帳簿への記載と一定の書類の保存が必要です。また、税込1万円未満の課税仕入れについては「少額特例」により、要件を満たす事業者であれば帳簿の保存のみで本来の仕入税額控除を受けられます(2029年9月30日まで)。
2026年10月1日の切り替えに向けて、会計システムの税区分設定や社内の仕訳ルールを変更しておく必要があります。具体的な実務対応の手順は、こちらの記事で解説しています。
関連記事: インボイス経過措置|8割控除は2026年10月に70%へ。買手の経理対応を解説

インボイス制度導入によって、既存の請求書の記載事項に追加で必要になる項目を確認していきましょう
記載事項 | 補足 | |
|---|---|---|
1 | 適格請求書発行事業者の氏名または名称 および 登録番号 | 登録番号は「T+13桁」 |
2 | 取引年月日 | — |
3 | 取引内容(軽減税率の対象品目である旨) | 軽減税率対象がある場合は「※」等で明示し、注記を付す |
4 | 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜または税込) および 適用税率 | 8%分・10%分をそれぞれ合計 |
5 | 税率ごとに区分した消費税額等 | 端数処理のルールは後述 |
6 | 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称 | — |
実務では、登録番号・適用税率・税率ごとの消費税額の3つが漏れやすい項目です。受け取った請求書をチェックする際は、この3点を優先して確認するとよいでしょう。
交付できる事業:小売業/飲食店業/写真業/旅行業/タクシー業/駐車場業(不特定多数の者に対するもの)/その他これらに準ずる事業
項目 | 適格請求書 | 適格簡易請求書 |
|---|---|---|
書類の交付を受ける事業者の氏名または名称 | 必要 | 不要 |
適用税率 / 税率ごとに区分した消費税額等 | 両方必要 | いずれか一方でよい |
スーパーやコンビニのレシート、飲食店の領収書はこの適格簡易請求書に該当します。買手側も、適格簡易請求書であれば宛名がなくても仕入税額控除の要件を満たします。宛名の記載を求める必要はありません。
現行の請求書では、消費税額が記載事項になっていないため、端数処理のルールは定められていませんでした。インボイス制度によって、新たに消費税額等の記載が必要となったことで、1円未満の端数処理に対して新たにルールが設けられることになりました。
記載事項である「税率ごとに区分した消費税額等」に1円未満の端数が生じる場合、一つのインボイスにつき、税率ごとにそれぞれ1回の端数処理を行う必要があります。
例:8%対象の商品の課税合計額が 27,070円 → 消費税は2,165円
10%対象の商品の課税合計額が 26,435円 → 消費税は2,643円
認められない処理は、明細行ごと(一商品ごと)に端数処理を行い、それを合計する方法です。行単位で端数処理を繰り返すと、税率ごとに1回というルールに反します。
なお、端数処理の方法(切り上げ・切り捨て・四捨五入)は事業者が任意に選べます。どの方法でも問題ありませんが、自社内で統一しておくべきです。
関連記事:請求書と領収書にまつわる疑問を説明!書き方や保存方法は?
買手として受け取ったインボイスの登録番号が有効かどうかは、国税庁「適格請求書発行事業者公表サイト」で確認できます。登録番号を入力すると、氏名または名称、登録年月日、失効年月日などが表示されます。
確認件数が多い場合は、同サイトが提供するWeb-APIを利用して、取引先マスタの登録番号を一括照合する方法が現実的です。目視での確認工数を大きく削減できます。
なお、登録は取り消される場合もあります。制度開始時に確認したまま更新していない取引先がある場合は、一度まとめて再照合しておくことをおすすめします。

インボイス制度は、仕入税額控除の要件として適格請求書の保存を求める仕組みです。制度開始から3年が経過し、いまは「制度を理解する段階」から「変化に対応し続ける段階」に移っています。
改めて押さえておくべき点は次の3つです。
制度対応で負担が増えやすいのは、制度そのものの理解よりも、受け取った書類を1枚ずつ判定し、正しい税区分で記帳し続ける日々の実務です。しかも控除割合は2028年、2030年にも変わるため、その都度の対応が必要になります。