1. 労働組合や組合法の目的とは?労働三権や不当労働行為も踏まえて
労働組合や組合法の目的とは?労働三権や不当労働行為も踏まえて

労働組合や組合法の目的とは?労働三権や不当労働行為も踏まえて

労務更新日:2024-09-11

日本の高度経済成長期を支えた労働組合は近年減少傾向にあります。しかし、雇用形態別では2019年労働組合基礎調査によるとパートタイム労働者は全組合員数に占める割合が前年度より上昇しています。よって、画一的に減少していているとまでは言えません。今回は労働組合にフォーカスをあて解説していまいります。

労働組合法について

労働組合法の誕生

使用者と労働者は対等の立場に立ち、自主的な交渉の下で双方の合意のもとに契約を締結し、双方の義務を履行していきます。しかし、現実的には労使間の力関係は使用者側の方が強く、労働者側が不利な立場に立つことは少なくありません。そこで劣位にある労働者と使用者の関係を対等にする意味で日本国憲法第28条では「勤労者の団結する権利および団体交渉その他の団体行動する権利は、これを保障する」と定め、団結権、団体交渉権、団体行動権を保障しています。この日本国憲法第28条で定める「労働三権」を具体的に保障するために設けられたのが労働組合法となります。

労働組合法の目的

まずは労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することを目的としています。具体的には労働者の地位を向上させることや、労働者が賃金や労働時間などの労働条件について交渉するために自ら代表者を選出すること、団体行動を行うために自主的に労働組合を組織し団結すること、労働協約(労働組合と使用者の約束)を締結するための団体交渉を行うことです。

労働組合の正当な行為については刑法第35条(法令又は正当な業務による行為は、罰しない)が適用されますが、いかなる場合においても暴力を用いることは労働組合の正当な行為には当たりません。 

労働組合法上の労働者と労働基準法上の労働者との相違点

労働組合上場の労働者は労働組合法第3条に規定があります。労働組合法で労働者とは職業の種類を問わず、賃金、給与、その他これに準ずる収入によって生活をする者をいう。とされていいます。 

反対に、労働基準法上の労働者は労働基準法第9条に規定があり、職業の種類を問わず、事業又は事務所(「事業」という)に使用される者で賃金を支払われる者をいうと定義されています。相違点は労働組合法上の労働者は「使用」されているか否かを問わず、労働者と解釈しますが、労働基準法上の労働者は使用されていることが前提となります。よって、労働組合法上の労働者は失業者も含まれるという解釈です。

労働組合とは

労働組合法で規定する労働組合とは労働者が主体となり「自主的に」労働条件の維持改善、「経済的地位の向上」を図ることを目的として組織する団体を指します。しかし、以下に該当する場合は労働組合とは言えません。

・使用者の利益を代表する者の参加を許すもの

・使用者から経理上の援助を受けるもの

・共済事業、福利事業「のみ」を目的とするもの

・政治運動、社会運動を主たる目的とするもの

特に疑義が多い論点として「経理上の援助」ですが、具体例として以下のようなケースがあります。経理援助にあたる例として、争議行為に出席した労働者の賃金を使用者が負担することです。反対に経理援助にあたらない例として、労働時間中の団体交渉や労使協議会に出席した労働者の賃金を使用者が負担することです。

労働組合として設立した場合の取り扱い

労働組合は労働組合法上の救済を求める場合、労働委員会に証拠を提出し、立証をしなければなりません。

尚、労働委員会とは、労働組合法に基づき設置された機関で、労使関係の公正な調整を図るために設立されています。そこで、国の期間である中央労働委員会と、都道府県の機関である都道府県労働委員会の2機関がおかれています。 

そして、労働委員会は、公益を代表する委員、労働者を代表する委員、使用者を代表する委員をそれぞれ同数の状態で審議が行われます。

交渉権限

労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者は、労働組合又は組合員のために使用者またはその団体と労働協約の締結その他の事項に関して交渉する権限を持ちます。

労働三権とは

団結権

労働者が労働条件の維持または改善を図ることを主たる目的として団結することを保障する権利です。多くの場合は労働組合として団結することとなります。 

団体交渉権

労働者が使用者と団体交渉を行うことを保障する権利です。労働者が代表者を選出し、労働条件、その他の待遇について労働協約を締結することや、その他の取り決めをするために交渉することを指します。

団体行動権

現在は少なくなってきましたが、一定の範囲内でのストライキ(争議行為)などを行うことを保障する権利です。ストライキ以外にはビラ配りやリボン着用などの行動が挙げられます。しかし、あまり行き過ぎた行為となってしまうと行為の正当性の面で否定される場合があります。

不当労働行為

不当労働行為とは端的には労働組合が行う活動への妨害行為です。具体例を挙げて確認していきましょう。 

労働者が労働組合員であること又は労働組合に加入しようとしたことに対して不利益な取扱いをすることです。このような規定が正当化されてしまうと労働組合の弱体化を目論んでいる使用者を横目に、労働組合への加入をためらう労働者が多くなるでしょう。また、企業の規定において、予め労働者が労働組合へ加入しないこと又は労働組合から脱退することを雇用条件とすることが想定されますが、このような契約は「黄犬契約」として不当労働行為に当たります。尚、黄犬とは卑屈な犬という意味です。

反対に不当労働行為に該当しない場合とは労働組合に対して最小限の広さの事務所を貸与することなどが挙げられます。

実務上は団体交渉拒否については度々問題となります。これは正当な理由がないにも関わらず団体交渉することを拒むことです。

尚、不当労働行為に該当するか否かを争う判例も多数あります。その中の一つにヤマト交通事件があります。

判例1 ヤマト交通事件

この判例は会社が労働組合に対し、無償貸与する組合事務所の明け渡しを求めたところ、会社は書類保管場所として使用する必要性を主張しました。判決(東京高裁)では組合事務所の無償貸与は、使用者による恩恵的な便宜供与の性格を否定できないからことから、返還を請求する正当な理由がある場合、使用貸借契約は終了すると判断しました。

しかし「適切な代替施設」を提供したか否かが重要とも判断しました。そこで、提示した防犯カメラ付きの食堂(食堂という性質上いつ誰が使用するか予見できない)や5キロ近く離れた営業所などは、配慮が不十分として請求を斥けています。これは旧来使用していた組合事務所と比較して機能性などが著しく低く今後継続して使用していくには無理があると判断されたと推測します。

教訓としては相当な理由がある場合を除いて組合事務所の明け渡しを命じるには旧来と同程度の代替施設の提供を念頭に、事前に労働組合への説明や猶予期間を設定するなどの配慮は必要と考えます。

判例2 国・中労委(N)事件

労働組合との団体交渉において、雇止め撤回やパワハラの謝罪を求められた会社が、雇止めの理由は十分説明し、パワハラの事実も確認できなかったとして、交渉を打ち切った事案です。会社は、パワハラをめぐる団体交渉拒否を不当とした中央労働委員会の命令取消しを求めましたが、判決(東京地裁)は団体交渉の本質的な要求は雇止め撤回と判断し、パワハラの有無を証拠に基づいて議論できないなど、団体交渉に応じなかったのもやむを得ないと判断した判例です。

使用者には労働組合からの団体交渉に応諾する義務があります。しかし、全く事実に基づかないものにまで応じていては事業運営が成り立ちません。しかし、そのような特異なケースを除いては団体交渉が申し込まれた場合は網羅的に対応しておくことが無難であるとの見方はできます。これは本質的な内容(例えば労働時間や賃金などの重要な労働条件の交渉)や本質的な内容に密接した論点であった場合は無論応じなければなりません。しかし、本質的な論点から派生した内容やその部分にすら至らない内容となると解釈の範囲は広く正確な判断はつきません。

結論としては団体交渉において、労働組合の要求を拒否する場合、その理由を具体的に説明できるようにしておかなければなりません。また、団体交渉はWithコロナの時代においては感染防止の観点から対面一択が適切とは言い難い時代背景となりました。そこで、リモートでの団体交渉という選択肢も出てきていますが、リモート環境が整うまでの間、一定期間延期する程度であれば団体交渉拒否にはあたらないと考えます。

その他の情報

チェック・オフ協定

企業が労働組合からの委託を受けて、労働組合員である従業員の賃金から労働組合費を徴収し、労働組合に一括して引き渡す制度のことです。しかし、強行法規である労働基準法第24条(賃金の全額払いの原則)とはどのような関係になるのでしょうか。これは、使用者によるチェック・オフは賃金全額払いの原則の例外とされ、罰則を受けないという効力を有するに過ぎないものです。当然に使用者がチェック・オフする権限を取得するものでないことはもちろんのこと、組合員がチェック・オフを受忍すべき義務を負うものではありません。

労働組合員と職業安定法

職業安定法第3条では「均等待遇」の条文が規定されています。これは、何人も人種や国籍、労働組合員であること等を理由として職業紹介等について差別的取り扱いを受けることがないとの規定ですが、労働組合法の規定により雇用主と労働組合との間で締結された労働協約に別段の定め(ショップ協定)がある場合はこの限りではありません。

まず、ショップ協定とは従業員と労働組合員の資格を連動させる協定です。ショップ協定は大きく分けて3つのありますので確認していきましょう。

1.オープン・ショップ協定

特定の労働組合の労働組合員であることを雇用条件にするといったことを定めていない協定 

2.ユニオン・ショップ協定

従業員が労働組合員でなくなったとき、加入しないときは解雇することを定めている協定

3.クローズド・ショップ協定

従業員が労働組合員の資格を完全に連動させ、組合員以外の労働者の雇用を認めない協定

端的には労働組合の組織を弱体化する定めは違法となりますが、労働組合の組織を強化する定めは違法とはなりません。よって、ショップ協定を締結している場合は、労働組合員でない(又はなくなった)場合は均等待遇を受けられないという場合もあります。

労働協約とは

使用者と労働組合との約束として労働協約があります。労働協約は書面に作成し、両当事者が署名し、または、記名押印することによってその効力が発生します。尚、労働協約には3年を超える有効期間の定めをすることができません。3年を超える有効期間の定めをした労働協約は3年の有効期間の定めをした労働協約とみなされます。

そして、有効期間のない労働協約は当事者の一方が署名し、又は記名押印した文書により解約しようとする日の少なくとも90日前に相手方に予告して解約することができます。

労働協約の効力

労働協約に定める労働条件に違反する労働契約は無効となります。この場合、無効となった部分は基準の定めるところによります。よって、労働協約を下回る場合はもちろん、上回る場合も無効となります。尚、就業規則と労働契約の関係性については就業規則を下回る内容は無効となり、上回る部分は労働契約が優先となります。 

一般的拘束力とは

労働組合法第17条に規定された条文で、一の工場事業に常時使用される労働者の4分の3以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったときは当該工場に使用される他の同種の労働者にも当該労働協約が適用されます。

労働協約の不利益変更

特定または一部の組合員のみの労働条件については、労働組合の目的を逸脱するような内容で不利益変更する場合は効力が否定される可能性が高いと考えます。

最後に

労働組合にも種類があり、地域労働組合企業別労働組合産業別労働組合などがあります。実務上は地域労働組合が多いと考えますが、重要な点として、使用者としては交渉内容等についてそれが適正かつ対応可能な範囲なのかを見極めることが重要です。また、適正でない場合は他の措置を検討するなどが妥当と考えます。

 

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この記事の監修者

柳沢智紀のプロフィール画像

株式会社Enigol

柳沢智紀

株式会社リクルートホールディングスでWEBマーケティング業務および事業開発を経験し、アメリカの決済会社であるPayPalにて新規事業領域のStrategic Growth Managerを担当の後、株式会社Enigolを創業。対話型マーケティングによる顧客育成から売上げアップを実現するsikiapiを開発。

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