安全衛生とは
安全衛生とは非常に範囲が広く、また、業種によっても使用者として履行すべき範囲や程度が異なることから画一的な議論は馴染みません。しかし、言うまでもなく安全衛生面が劣悪な就業環境の場合は物の保管場所が定められていないなど、直接的または間接的に業務に影響を及ぼします。
安全衛生は直接的に利益を生み出すことは少なく、労務担当者としても後回しにしがちな部分ですが、対応を先延ばしにすることで損害が生じてしまうことがあります。それは、後回しにすることで改善までに通常よりも多くの時間を要してしまうことが挙げられます。

労働安全衛生法とは
安全衛生に関した法整備は昭和47年に労働基準法から分離独立した労働安全衛生法に多くの規定がおかれています。罰則が付されているものや罰則のない規定まで多くありますが、労働基準監督官の臨検や労働者からの告知で発覚した場合は是正勧告書が交付され、改善状況を報告しなければなりません。
労働生産性とは
働き方改革の1施策として「労働生産性の向上」が挙げられます。日本の労働生産性は先進国の中でも低く、問題視されています。そして、日本は労働時間が長いのが特徴です。労働時間の長さは女性を始めとした潜在労働力となる層の働かない(又は働けない)理由の上位に挙げられます。
衛生管理者の選任

衛生管理者の人数
業種を問わず常時50人以上の労働者を雇用する場合、衛生管理者を選任しなければなりません。労務担当者としておさえておかなければならない点は、労働者数に変動があり、常時50人以上となった場合は、衛生管理者の選任が必要となることです。また、衛生管理者を選任したものの、諸般の事由により退職した場合も再び他の衛生管理者を選任しなければなりません。衛生管理者の選任を怠っている場合、労働安全衛生法第120条に50万円以下の罰金に処する規定があります。
また、常時1,000人を超える労働者を使用する事業場と常時500人を超える労働者を使用する事業場で一定の有害業務(例えば多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務)に常時30人以上の労働者を従事させる事業場の場合は専任の衛生管理者を置かなければなりません。尚、専任とは衛生管理者の業務を主な業務とさせるものを指します。
尚、採用で労働者数が増えた場合は衛生管理者も増やさなければならない場合があります。使用する労働者数が50人~200人の場合は衛生管理者の選任数は1人以上です。しかし、201人~500人となると2人以上となり、段階的に選任しなければならない数は多くなり、3,001人以上は6人以上の選任が必要です。
衛生管理者になるための資格
衛生管理者となる資格は衛生管理者免許試験に合格した者、労働衛生コンサルタント、医師、歯科医師、大学における保健体育の教授等の資格を有する者となります。また、衛生管理者には第1種衛生管理者免許、第2種衛生管理者免許、衛生工学衛生管理者免許の3種類があります。このうちの第1種衛生管理者、衛生工学衛生管理者は全ての業種について衛生管理者としての専任要件を満たします。しかし、第2種衛生管理者は一定の危険有害業務を除く業種についてのみ選任することができる資格です。一例として医療業や水道業で第2種衛生管理者は選任できません。(第1種衛生管理者、衛生工学衛生管理者は可能)
選任方法と仕事内容
衛生管理者を選任する必要が生じた場合には、14日以内に選任させ、その後遅滞なく選任報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません。尚、衛生管理者は代理者の選任が認められており、衛生管理者が事故などやむを得ない事由によって職務を行うことができない場合は代理者を選任しなければなりません。
衛生管理者は少なくとも毎週1回、作業場を巡視し、設備や作業方法、衛生状態に有害の恐れがある場合は労働者の健康障害を防止するために必要な措置を講じなければなりません。
産業医の選任

産業医の概要
業種を問わず常時50人以上の労働者を雇用する場合、産業医を選任しなければなりません。尚、選任数は常時使用する労働者数が50人以上3,000人以下の場合は1人以上、3,000人を超える場合は2人以上の選任が必要となります。また、産業医は医師であることはもちろんですが、選任してはならない場合があります。
・事業場が法人の場合は当該法人の代表者
・事業者が法人でない場合は事業を営む個人
・事業場においてその事業の実施を統括管理する者
以上の者は産業医として選任することができません。これは、事業経営における代表者が産業医を兼務した場合、健康管理よりも事業経営の利益を優先し、産業医としての職務が適切に行われない可能性があることからこのような規定が整備されています。
産業医は常時1,000人以上の労働者を使用する事業場または深夜業を含む有害業務に常時500人以上の労働者を従事させる場合は専属でなければなりません。尚、専属とは月に1回程度訪問する嘱託ではなく常勤させるということです。
尚、産業医は医師のうち、労働者の健康管理を行うのに必要な医学に関する知識を備えたものであり、厚生労働大臣の指定する者(法人に限る)が行う研修を修了した者、産業医の養成等を行うことを目的とした課程を設置している産業医科大学その他の大学であって厚生労働大臣が指定するものにおいて当該過程を修めて卒業した者(実習も修了)、労働衛生コンサルタント試験に合格した者でその試験区分が保健衛生であることなどが資格基準となっています。
選任方法と仕事内容
産業医も衛生管理者と同様に選任の必要が生じた場合には、14日以内に選任させ、その後遅滞なく選任報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません。
産業医は毎月1回、作業場を巡視し、作業方法や衛生状態に有害の恐れがあるときは労働者の健康障害を防止するための必要な措置を講じなければなりません。尚、毎月1回以上事業者から産業医に対して衛生管理者による巡視の結果などが提供されること、事業者の同意があることという2点の要件を満たす場合に限り、巡視の頻度を2ヶ月に1回とすることが出来ます。
衛生委員会の設置
業種を問わず常時50人以上の労働者使用する場合は衛生委員会を設置しなければなりません。そして審議事項は労働者の健康障害を防止するための基本となるべき対策、労働者の健康の保持増進を図るための基本となるべき対策です。多くの場合、長時間労働は健康障害と密接に関わっており、健康障害防止のための対策は極めて重要です。
衛生委員会は毎月1回開催し、審議された記録を3年間保存しなければなりません。

健康診断の概要
健康な状態であることと仕事の成果は密接に関わってきます。企業は労働者に対して医師による健康診断を行わなければなりません。健康診断は以下の4種類があります。
・一般健康診断
・特殊健康診断
・臨時の健康診断
・自発的健康診断
一般健康診断
一般健康診断には雇入れ時の健康診断、定期健康診断、定期健康診断(特定の業務に配置換えの際の健康診断)、海外派遣労働者の健康診断、給食従事者健康診断があります。
雇入れ時の健康診断
雇入れ時の健康診断は常時使用する労働者を雇い入れる場合に健康診断を行うことで既往歴や業務歴の調査など約11項目あります。尚、雇入れ時の健康診断については、医師による健康診断を受けた後、3月を経過しない者を雇い入れる場合は当該健康診断の結果を証明する書面を提出した場合、当該健康診断の項目に相当する部分は行う必要がありません。
尚「常時使用する」の解釈としてパートやアルバイトは常時使用するにあたるのかとの疑義が生じます。この場合、以下の2点を満たす場合は健康診断を実施しなければなりません。
・契約期間が1年以上(特定業務従事者の場合は6ヶ月)である者(契約更新により1年以上引き続き使用されている者を含む)
・1週間の労働時間数がその事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上であること(2分の1の場合は一般健康診断の実施が望ましい)
よって、一定の要件を満たした場合は、パートやアルバイト労働者も健康診断の対象となります。
定期健康診断
定期健康診断は常時使用する労働者に対して1年以内ごとに1回、定期に医師による健康診断を行わなければなりません。
特定業務従事者の健康診断
特定業務従事者の健康診断は有害業務に従事する労働者に対し、当該業務へ配置換えの際および6か月以内ごとに1回、定期に定期健康診断の項目(胸部エックス線検査、喀痰検査は1年以内ごとに1回定期に行えば足りる)について医師による健康診断を行わなければなりません。
海外派遣労働者の健康診断
海外派遣労働者の健康診断は労働者を6か月以上海外に派遣しようとするときは定期健康診断の項目および厚生労働大臣が必要と定める項目について医師による健康診断を行わなければなりません。また、海外に6か月以上派遣した労働者を国内での業務に就かせるときも定期健康診断の項目および厚生労働大臣が必要と定める項目について医師による健康診断を行わなければなりません。
給食従事者の健康診断
給食従事者の健康診断は食堂等における給食業務に従事する労働者に対して雇入れの際、または当該業務への配置換えの際に検便による健康診断を行わなければなりません。尚、給食従事者への検便による健康診断は定期に行う必要はありません。

特殊健康診断
有害な業務に従事する労働者に対して医師による特別な項目についての健康診断を行わなければなりません。対象業務は放射線業務などです。
臨時の健康診断
都道府県労働局長が労働者の健康を保持するために必要があると認める時は労働衛生指導医の意見に基づいて企業に対して臨時の健康診断の実施を指示することができるとされています。
自発的健康診断
深夜業に従事する労働者であり、健康診断を受けた日前6ヶ月を平均して1月あたり4回以上深夜業に従事した労働者が対象となり、当該労働者が自ら受けた医師による健康診断の結果を証明する書面を提出することができます。
健康診断実施後の措置
健康診断の結果を記録し、健康診断個人票を作成後5年間保存しなければなりません。また、異常の有無に関わらず健康診断を受けた労働者に結果を通知しなければなりません。
そして重要な点として、単に実施するだけでなく、労働者の健康を保持するために医師に対して必要な措置はどのようなものなのかを聴かなければなりません。当然、産業医の選任義務のある企業は産業医に聴くことが適切です。それは、産業医は労働者個人ごとの健康状態や作業内容、作業環境について把握する立場にあり、より本質的な意見であるからです。

労働基準監督署長への報告
常時50人以上の労働者を使用する企業は定期健康診断、特定業務従事者の健康診断等を行ったときは遅滞なく、報告書を所轄労働基準監督署長へ提出しなければなりません。尚。定期に行う特殊健康診断については使用する労働者数に関わらず報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません。
健康診断の情報の取り扱い
個々人の健康問題は非常にセンシティブな情報であり、労務担当者であってもあまりにも大人数で管理すべき情報ではありません。担当者を決め、厳重に情報を管理すべきです。
衛生委員会への報告
医師の意見を勘案し、労働者の就業場所の変更や作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少などの措置を講ずるときは衛生委員会への報告など、その他適切な措置を講じなければなりません。
特に精神疾患への罹患が疑われる場合は、外傷があるとは限らず、その状態が把握できるとは限りません。
