「源泉徴収」は給与明細でおなじみの言葉ですが、いざ「何を・いくら・いつまでに処理するのか」を問われると、正確に説明できる人は多くありません。しかも源泉徴収の対象は給与だけではなく、税理士やデザイナーへの報酬、退職金、株主への配当など多岐にわたり、種類ごとに税率も納付ルールも変わります。そして間違えたときにペナルティを負うのは、受け取った相手ではなく支払った会社側です。
この記事では、まず源泉徴収の仕組みをわかりやすく整理し、そのうえで「この支払いは源泉徴収の対象か」を一覧で確認できるようにします。さらに種類別の税率・手続きの流れ・納付期限・源泉徴収票と支払調書まで、給与や報酬を支払う会社の経理担当者に必要な実務知識を通しで解説します。2026年(令和8年)から変わる点もあわせて押さえましょう。
源泉徴収とは?仕組みをわかりやすく解説
源泉徴収とは、給与や報酬などを支払う会社(支払者)が、支払いの際に所得税をあらかじめ天引きし、受け取る本人に代わって国へ納付する制度です。会社が従業員などの所得税を「代わりに前払いして納めてくれている」仕組みと考えるとイメージしやすいでしょう。
日本の所得税は本来、納税者本人が所得と税額を計算して申告する「申告納税方式」です。しかし全国民が毎年確定申告をすると税務署が処理しきれず、複雑な税制を全員に理解してもらうのも現実的ではありません。そこで税額計算と納付の実務を支払者(会社)に担ってもらう源泉徴収制度が基本となりました。
登場人物は「従業員など受け取る人」「会社(源泉徴収義務者)」「国」の3者で、お金は次のように流れます。
- 会社が給与から所得税を天引きして本人に支払う
- 会社が天引きした所得税を翌月10日までに国(税務署)へ納付する
- 年末調整・確定申告で年間の税額との過不足を精算する
ポイントは、給与を支払う会社は自動的に「源泉徴収義務者」になることです。源泉徴収は会社の選択ではなく法律上の義務で、この記事の後半で解説する税率や納付の実務は、すべて「支払う側」が正しく処理する必要があります。源泉徴収を行うメリット
源泉徴収を行うメリットとして上記で述べた登場人物毎に主に以下のメリットが考えられます。
【従業員】
① 給与からあらかじめ天引きされ会社が納付手続きを行ってくれるので、支払漏れがない
② 年間で一括支払いをする必要がないので、計画的に納付が可能(使いすぎて納税できないという事態を避けられる)
【国】
① 個人から確実に税金を徴収できる
② 会社が源泉徴収に関わる事務手続きを代行してくれる為、事務負担が少ない
③ 毎月納付が行われるので安定的に収入を見込める
会社としては、代わりに納税する必要が出てくるので、事務負担が増える側面が強いですが、従業員と国にとっては非常に大きなメリットがあります。
住民税・社会保険料の天引きとの違い
給与から天引きされるものには、源泉所得税のほかに住民税と社会保険料があります。混同しやすいので整理しておきましょう。
天引きされるもの | 制度名 | 計算の基準 |
|---|
所得税 | 源泉徴収 | その年の給与額に基づき毎月概算で徴収し、年末調整で精算 |
住民税 | 特別徴収 | 前年の所得に基づき市区町村が税額を決定し、6月〜翌年5月に徴収 |
社会保険料 | 社会保険料控除 | 標準報酬月額に基づき毎月徴収 |
特に、源泉徴収票に記載されるのは所得税であって、住民税の金額は載りません。住民税額は毎年5〜6月頃に交付される「住民税決定通知書(特別徴収税額決定通知書)」で確認します。

源泉徴収の対象になる支払い・ならない支払い
種類の詳細に入る前に、「自社が行う支払いが源泉徴収の対象か」を一覧で確認しましょう。新しい取引や新しい種類の支払いが出たときは、まずここで当たりをつけるのが実務の基本です。
また支払を受ける側(特にフリーランスや業務委託報酬)も請求書発行などのときに源泉徴収されるかされないかを自分で把握することが重要です。
対象になる主な支払い
支払いの種類 | 具体例 | 主な税率・参照表 |
|---|
給与・賞与 | 従業員・役員への毎月の給与、ボーナス | 源泉徴収税額表(月額表・日額表)/賞与算出率の表 |
退職手当 | 退職金、退職一時金 | 退職所得控除後に速算表を適用 |
報酬・料金(個人) | 原稿料・デザイン料・講演料、弁護士・税理士・司法書士等への報酬、外交員報酬、芸能・スポーツ報酬 など | 原則10.21%(100万円超の部分は20.42%)※種類により式が異なる |
配当 | 自社が株主へ支払う配当金 | 上場15.315%+住民税5%/非上場20.42% |
利子 | (主に金融機関が預金者へ支払う利子) | 15.315%(+地方税5%)の源泉分離課税 |
非居住者・外国法人への支払い | 国内源泉所得となる報酬・使用料等 | 原則20.42% など(内容により異なる) |
対象にならない主な支払い
- 法人(会社)への報酬・料金:原則として源泉徴収は不要です。例えば税理士個人に対しての支払は源泉対象・税理士法人に対しての支払は源泉対象外になります。支払先が個人か法人かで扱いが変わる点が最重要ポイントです(例外的に、馬主である法人への競馬の賞金などは対象)。
- 物品の購入代金、外注加工賃、運送料など:所得税法に列挙された報酬・料金に当たらない支払いは対象外です。
- 個人への支払いでも法律に列挙されていない役務:源泉徴収の対象は限定列挙のため、リストにないものは原則対象外です。
判断に迷う支払いは、発生の都度、国税庁のタックスアンサーで対象と税率を確認する運用にしておくと安全です。とくに「支払先が個人か法人か」は、税率以前に対象かどうかを分ける入口です。
参考:国税庁 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは
源泉徴収の手続きの流れ
会社が源泉徴収を行う一連の流れは、大きく次のステップになります。
- 事前準備:給与支払事務所等の開設届出、扶養控除等申告書の回収
- 徴収:支払いの都度、種類ごとの税率・税額表で天引き
- 納付:原則、徴収した月の翌月10日までに納付
- 年末調整:12月に年間税額との過不足を精算
- 法定調書の作成:源泉徴収票・支払調書を作成し交付・提出
ただし、給与を支払う場合だけは、これに加えて給与特有の事務が必要です。具体的には、支払開始前の「事前準備(届出・申告書の回収)」と、年末に行う「年末調整(過不足の精算)」です。報酬や配当の源泉徴収にはこれらはありません。給与特有の事前準備は次のとおりで、年末調整については後の章で解説します。
給与を支払う会社の事前準備
① 給与支払事務所等の開設届出書の提出
初めて従業員を雇用して給与を支払う場合、支払開始から1ヶ月以内に「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」を税務署へ提出します。これにより納付書が交付され、源泉徴収の準備が整います。
② 扶養控除等申告書の回収と「甲欄・乙欄」
従業員には、その年最初の給与支払日の前日までに「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出してもらいます。この提出の有無で、使う税額表の欄が変わります。
- 甲欄:申告書の提出あり。主たる給与に適用。税額は低め。
- 乙欄:申告書の提出なし。副業・掛け持ち先の給与などに適用。税額は高め。
副業・掛け持ちの従業員に誤って甲欄を適用すると徴収不足になるため、回収と管理は会社側の重要事務です。なお、2026年(令和8年)分以後の申告書では、記載対象が「控除対象扶養親族」から「源泉控除対象親族」に変わりました。源泉控除対象親族とは、控除対象扶養親族に、特定親族(19歳以上23歳未満)のうち合計所得金額100万円以下の人を加えたものです。旧様式を使っていないか確認しましょう。種類別の税率・計算方法
源泉徴収は誰にどのようなタイミングで支払いするかにより計算方法や税率が異なってきます。支払いに際しては支払いの都度、調べて間違いのないように注意を払いましょう。
給与
毎月の給与は「給与所得の源泉徴収税額表(月額表・日額表)」を使い、社会保険料控除後の給与額と扶養親族等の数を当てはめて税額を求めます。2026年(令和8年)1月支払分からは、令和7年度税制改正(基礎控除58万円・給与所得控除の最低保障額65万円)を反映した令和8年分の税額表が適用されています。給与計算ソフトが最新の税額表に対応しているかの確認は経理担当者の役割です。
関連記事:給与計算の手順をわかりやすく解説!計算の注意点やよくあるミスとは?

賞与
次は年に2回程度実施される賞与に関しての源泉徴収です。賞与の場合も給与同様国税庁の定めた「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を利用します。前月の給与の「社会保険料を控除した給与所得」に該当する「扶養親族の人数」に該当する賞与の金額に乗ずべき率を参照して計算します。こちらに関しても給与同様計算ソフトで自動出力されますが、計算式と計算方法は担当者としてしっかり理解しておきましょう。
退職金
退職金は給与・賞与と計算が大きく異なります。まず勤続年数に応じた「退職所得控除」を差し引きます。
- 勤続年数20年以下:40万円 × 勤続年数(80万円未満なら80万円)
- 勤続年数20年超:800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)
※1年未満の端数は切り上げて1年とします。
次に課税退職所得金額を計算します。
(退職金の額 − 退職所得控除額)× 1/2 = 課税退職所得金額
最後に「退職所得の源泉徴収税額の速算表」で税率・控除額を参照して税額を算出します。勤続5年以下(短期退職手当等)は控除後の金額のうち300万円超の部分に1/2計算が使えない点、役員等で勤続5年以下は1/2計算自体が使えない点に注意が必要です。「退職所得の受給に関する申告書」の提出がない退職者には一律20.42%で徴収します。退職者が出たら入社日・退職日・申告書の有無を必ず確認しましょう。

業務委託の報酬・料金(士業・フリーランスへの支払い)
従業員ではないですが、会社と顧問契約を結んでいる弁護士や税理士に対する「料金」に対しても源泉徴収を行う必要があります。このような顧問契約を締結している弁護士や税理士に対する税率は一律10.21%となっております。但し、一度の支払が100万円を超過する場合は、20.42%に変更になります。また、司法書士や講演料等でも税率が異なりますので、発生した都度必ず国税庁のウェブページで税率を確認しましょう。
仮に報酬に関わる源泉徴収に間違いがあった場合、責任を問われるのは報酬を支払う会社側です。支払者(=会社)は必ず支払いに際して源泉徴収を行わなければならず、源泉徴収を怠った場合はペナルティとして不納付加算税と延滞税を別途課されますので注意が必要です。会社側は、依頼した業務が源泉徴収の対象となるかを必ず把握し、報酬対象者に対しての請求書への源泉徴収の記載義務がなくても、後日トラブルになった時に備えて把握しておくことでトラブルを回避できます。
以下が報酬の一部例になります。
弁護士・会計士・税理士などへの報酬/原稿料・デザイン料・講演料などの報酬/外交員、集金人、検針人、プロスポーツ選手などへの報酬/芸能人への報酬
利子所得
利子所得は、支払いを受ける際に所得税・復興特別所得税15.315%(ほかに地方税5%)が源泉徴収され、これで課税が完結する「源泉分離課税」です。通常の源泉徴収は年末調整や確定申告で精算しますが、源泉分離課税は天引きだけで納税が終わり確定申告できない点が違います。主に金融機関が預金者へ利子を支払う際の処理で、一般の事業会社が支払う側になる場面は限定的です。
参考:No.1310 利息を受け取ったとき(利子所得)|国税庁

配当所得
会社の株式を保有しているものに対して支払いがされる配当金ですが、支払いを受けるものの選択により源泉徴収とすることが可能です。源泉徴収を選択しない場合、確定申告により納付を行う必要があります。国税庁のホームページでは以下の通り規定されています。
1. 上場株式等の配当等に係る利子所得・配当所得
支払金額に対して所得税等(15.315%)、住民税(5%)が源泉徴収等されています。
2. 上場株式等以外の配当等や上場株式等の配当等(大口株主等が支払を受けるもの)に係る配当所得
支払金額に対して所得税等(20.42%)のみが源泉徴収されています。
参考:利子所得と配当所得の課税方法|国税庁
上記は源泉徴収制度を利用した場合の規定になります。それぞれ各人毎に自分に合った納税方法を選択しましょう。
源泉所得税の納付方法と期限
天引きした源泉所得税は、会社がまとめて国へ納付します。窓口・金融機関のほか、e-Taxの電子納付やダイレクト納付、クレジットカード納付も使えます。
原則:翌月10日
納付期限は、給与や報酬を支払った月の翌月10日(土日祝なら翌営業日)です。全国一律で、1日でも遅れると不納付加算税(原則10%、自主納付なら5%)や延滞税の対象になります。毎月の納付漏れがないか必ず確認しましょう。
納期の特例:年2回にまとめられる
給与の支給人員が常時10人未満の会社は、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出すると、給与・賞与や税理士等の報酬に係る源泉所得税の納付を年2回にまとめられます。
1月〜6月に徴収した分 → 7月10日まで
事務負担・資金繰りの両面でメリットがあります。ただし対象は給与や税理士報酬等に限られ、原稿料・デザイン料などの報酬は特例の対象外(原則どおり翌月10日納付)です。源泉徴収の方法及び納付
会社が従業員から源泉徴収した金額は、会社がまとめて国に対して納付する必要があります。ここでは会社の納付手続きに関して解説していきます。

年末調整
年末調整は、毎月概算で徴収してきた税額と、年間の正しい所得税額との過不足を年末に精算する、会社が行う手続きです。毎月の徴収は税額表に基づく概算のため、生命保険料控除や扶養親族の異動などは反映されていません。12月(または最後の給与支払時)にこれらを反映して年税額を確定し、徴収しすぎなら還付、不足なら追加徴収します。控除証明書の回収スケジュールなど、会社側の段取りが重要です。
関連記事:年末調整ってどんな作業?手間がかかるって本当?
確定申告
最後に確定申告です。確定申告は年末調整で計算しきれない控除等を申請する為に行います。年末調整で控除できるのは扶養控除等の一般的なものだけですので、個人毎の申請が必要な控除は別途確定申告が必要になります。確定申告は年間の所得を確定させる最後の作業となりますので、個人で行う場合は申告漏れがないように注意しましょう。確定申告の際に徴収額と差異が生じた場合は、年末調整と同様に個人口座に返金されます。会社はこの確定申告には基本的には関与しませんが、後ほど説明する会社が発行する源泉徴収票を確定申告に添付する必要があるので、経理担当者としても内容を理解しておきましょう。
源泉徴収票と支払調書の違い
「従業員に渡すもの」と「税務署に出すもの」を混同しないのが実務のポイントです。
源泉徴収票(従業員へ交付)
会社が年間で源泉徴収した金額を各従業員に知らせるための資料が「源泉徴収票」になります。源泉徴収票は、年末調整を経て1年間の収入および所得や源泉徴収税額が確定したが決定した毎年12月以降に発行します。源泉徴収票は各従業員が確定申告を実施する際に必要な資料です。また、中途で退社した社員に関しては、退社時にそれまでの源泉徴収票をもらえます。中途退社時は注意しましょう。
支払調書(税務署へ提出)
弁護士・税理士やフリーランスなどへの報酬について作成するのが「支払調書」です。同一の相手への年間支払金額の合計が5万円を超えるなど一定の要件で税務署への提出が義務になり、提出期限は翌年1月31日です。源泉徴収票との大きな違いは、支払調書は税務署への提出義務はあるが、支払先本人への交付は法的義務ではない点です。1月の繁忙期に重なるため、12月のうちに年間の支払明細を整理しておくとスムーズです。
またフリーランスの方は業界によっては慣例的に企業が発行してくれている場合もありますが、義務ではない上に、取引企業数が多いと抜け漏れもでてきますのであくまでも源泉徴収額は自分自身の責任で把握し、確定申告する必要あります。
