借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
貸倒損失 | 300,000 | 売掛金 | 300,000 |
売掛金や貸付金などの金銭債権は会社の大切な資産です。しかし事業を長く営んでいれば、回収が困難になるケースは0とは言い切れません。昨今の新型コロナ感染症拡大の影響で、回収見込みのたたない金銭債権が発生する可能性は十分にあります。そして、金銭債権が貸倒れた場合には、税法に基づいて貸倒損失処理を行うことになります。
売掛金や貸付金などの金銭債権は会社の大切な資産です。しかし事業を長く営んでいれば、回収が困難になるケースは0とは言い切れません。昨今の新型コロナ感染症拡大の影響で、回収見込みのたたない金銭債権が発生する可能性は十分にあります。そして、金銭債権が貸倒れた場合には、税法に基づいて貸倒損失処理を行うことになります。
今回は、貸倒損失に関する記事です。貸倒損失としての要件と、経理処理方法について解説します。
「貸倒れ」とは、取引先の倒産などによって、売掛金などの債権が回収できなくなることをいいます。
「貸倒損失」とは、債権の回収見込みがほとんどないと認められた場合に、その損失額を処理するための勘定科目です。
対象となる債権とは、取引先に対する売掛金や受取手形、貸付金などの金銭債権です。
債権は貸倒れになった場合には、費用または損失として計上することができます。
ただし、対象となる金銭債権が本当に貸倒れかどうかの事実認定は、かなり難しいです。回収の見込みがほとんどないからといって、無条件にすべてを貸倒損失として費用計上することはできません。
貸倒損失は、損失といっても実際に現預金の支出があるわけではありません。実際の支出を伴わずに損益計算書上で利益を圧縮できるため法人税額にダイレクトに影響します。そのため、脱税対策として安易に処理した場合、税務調査で否認される可能性が高いでしょう。
貸倒損失を計上した会社は、税務調査の対象となる可能性も高まるため、正しく貸倒損失として認められると判断した上で損金処理を行うことが重要です。
それでは、貸倒損失が損金として認められる要件を詳しく確認していきましょう。
法人税法における貸倒損失の損金計上については、以下の法人税基本通達に記載されています。
法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には、その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。
(1) 更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった場合において、これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額
(2) 特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額
(3) 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものにより切り捨てられることとなった部分の金額
イ 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの
ロ 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの
(4) 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額
こちらの要件は、取引先が倒産状態に陥り、なんらかの法的手続きを行った、または、債務者との間で書面を通して債務免除の手続きを行うことで、法的に債権が消滅したケースです。この場合、貸倒損失として判断するための基準が明確です。すでに法的に債権自体が存在しないことから、貸倒損失として認められることになります。
取引先が法的手続きを行ったら、法的手続きの完了までをきちんと把握しておきましょう。
法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。
こちらは、法的には債権そのものは存在しています。しかし、実質的には回収不能なため、貸倒損失として認められることになります。ただしこちらの要件は、9-6-1の要件に比べると、判断するための基準が曖昧なため、損金計上として認められるための難易度は上がります。
具体的には、以下のケースでは否認される可能性が低くなるでしょう。
債務者について次に掲げる事実が発生した場合には、その債務者に対して有する売掛債権(売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権をいい、貸付金その他これに準ずる債権を含まない。以下9-6-3において同じ。)について法人が当該売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をしたときは、これを認める。
(1) 債務者との取引を停止した時(最後の弁済期又は最後の弁済の時が当該停止をした時以後である場合には、これらのうち最も遅い時)以後1年以上経過した場合(当該売掛債権について担保物のある場合を除く。)
(2) 法人が同一地域の債務者について有する当該売掛債権の総額がその取立てのために要する旅費その他の費用に満たない場合において、当該債務者に対し支払を督促したにもかかわらず弁済がないとき
こちらも9-6-2と同様、法的には債権そのものは消滅せず存在しています。
こちらの適用要件は、以下となります。
ここで、注意するポイントは、通達(2)に記載されている「取立てのために要する旅費その他の費用」とはどういったものかです。当然、無条件に費用にすることはできません。こちらは、実際にかかった交通費、宿泊費など、取立のために直接要した費用を指しているものであって、従業員の人件費や弁護士費用は加えないとされていますので注意が必要です。
上記の要件に照らして、できる限り客観的に判断できることが必要になります。
金銭債権の内容によっては、消費税の取り扱い方法、計上時期のタイミングが異なりますので、ついうっかり計上を失念してしまった、などの間違いを発生させないように注意しましょう。
売掛金などの売掛債権が貸倒れとなった場合、貸倒損失に含まれる消費税は、貸倒れが生じた課税期間の課税売り上げに対する消費税から控除します。
貸付金などの貸付債権が貸倒れとなった場合は、消費税は考慮しません。貸付債権の発生に、消費税は関係していないからです。
貸倒損失は、回収不能ならどんな時でも損失として計上できるわけではありません。
注意すべきは、債権には時効があるということです。実務を行うにあたり、時効により貸倒損失として計上できなくなることを防ぐためにも、計上のタイミングはしっかりと押さえておく必要があります。
こちらは、取引先の法的な倒産手続きが完了してはじめて貸倒損失として計上できます。法的な倒産手続きが進行中の段階では、貸倒損失として計上できないので注意が必要です。法的な手続きを行っているので、決定通知書等に記載されている決定日から計上ができます。
ただし、裁判が長引いたり、決定通知書がなんらかの事情により届かず、決定日が把握できないケースも考えられます。その場合は、債務者の登記簿や官報を確認しましょう。
また、貸倒損失として計上できる期間は、倒産手続き完了の事業年度から5年以内となっています。このように法律上の貸倒れに関しては、明確に計上できる時期が決まっているので注意が必要です。
回収できないことが明らかになった事業年度に計上することができます。債務者と音信不通になり、事実上の貸倒れ状態であると疑われるケースが発生したら、顧問税理士と協議の上、早急に対処しましょう。
貸倒損失として計上することをせず、税務上の時効をむかえてしまうと、貸倒損失として計上できなくなります。また、時効を迎える前であったとしても、債権の発生から年月が経っていたら、税務調査の際「なぜ今このタイミングでの計上なのか?」の根拠を示す必要もでてきます。
こちらの要件も、貸倒損失の計上時期に注意しましょう。取引の停止後1年以上経過した日以降の事業年度から計上できます。
以上の3つの計上のタイミングを押さえ、計上漏れがないようにしっかり債権管理を行いましょう。
会計仕訳の処理については、例を用いてみていきましょう。
売掛金300,000円が未回収となっている取引先が、法的倒産手続きを開始した。後日、裁判所からの決定通知書を受け取った。決定日は3/1と記載されていた。
(仕訳)
3/1
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
貸倒損失 | 300,000 | 売掛金 | 300,000 |
5/1貸倒損失として300,000円を計上したあと、5/31に債権の一部、100,000円を現金回収できた。
5/1
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
貸倒損失 | 300,000 | 売掛金 | 300,000 |
5/31
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
貸倒損失 | 100,000 | 売掛金 | 100,000 |
※当期中であれば、貸倒損失を取り消す仕訳を行います。
3/1貸倒損失として300,000円を計上した。3/31で決算を迎えた。期をまたぎ、5/31に債権の一部、100,000円を回収できた。
3/1
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
貸倒損失 | 300,000 | 売掛金 | 300,000 |
5/31
現金 | 100,000 | 償却債権取立益 | 100,000 |
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
※期をまたいだ場合は、貸倒損失の取消ではなく、収益として処理を行います。
※形式上の貸倒れ債権は、売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理を行います。そのため備忘価額を設定します。備忘価額は1円以上残す必要があります。
備忘価額を1円に設定した取引先に対する売掛金10万円が、4/1貸倒れとなった。
4/1
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
貸倒損失 | 99,999 | 売掛金 | 99,999 |
なお、残った売掛金1円は、その後、当該債権が形式上の貸倒れから事実上の貸倒れとなったときに消します。その際は、以下の仕訳をきります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
貸倒損失 | 1 | 売掛金 | 1 |
損益計算書における貸倒損失の処理方法としては、次の3つの方法があります。
営業上の取引に基づいて発生した債権に対する貸倒損失は、販売費として処理します。
臨時的かつ巨額の貸倒損失ついては、特別損失として処理します。
上記販管費および特別損失以外の貸倒損失については、営業外費用として処理します。
新型コロナ感染症拡大の影響で、金銭債権の回収が困難な状況に陥る可能性が高まっています。日頃からの債権管理が重要です。ポイントは2つです。
取引先が法的な手続きを開始してしまうと、回収金額が減ったり最悪の場合1円も回収できなくなる恐れがあります。売掛金の入金管理を徹底し、遅延があれば素早く督促しましょう。回収が遅れれば遅れるほど、入金の可能性が低下します。回収はスピード勝負です。
また、取引を始める前の与信管理も重要です。その取引先が、きちんと期日に支払いをしてくれる会社か判断しましょう。社長の性格や、会社の登記簿謄本を確認するなど、会社として与信管理の基準を持っておくことをが大切です。
以上、貸倒損失について解説しました。
貸倒れが発生すると、会社にとってはかなり大きなダメージとなります。最悪の場合は、資金繰りの悪化で、連鎖倒産という事も考えられます。
日頃から得意先の債権管理を徹底し、回収もれを起こさないように注意することが重要です。また、取引先の倒産に備え、経営セーフティ共済に加入するなど、リスクヘッジをしておくことも検討しましょう。